【書評】愛した人の全てが嘘だったらどうするか──『ある男』(平野啓一郎)
これは「愛」をテーマにした小説です。ただの「恋愛」ではなく「愛」です。深くて心に染み入る、いい小説でした……。作者は平野啓一郎さん。
1、あらすじ・内容
ある男性と愛し合って結婚し、子どもにも恵まれ、幸せな生活を営んでいた里枝。しかしある時、夫が事故で急死してしまいます。
悲しみにくれていた里枝は、疎遠になっていた夫の兄に連絡を取って来てもらうのですが、遺影を見た夫の兄は驚くべきことを言います。
「これは弟じゃありません。全くの別人です。」
これをきっかけに、夫の名前も過去も全てでたらめだったことが発覚します。
里枝から相談を受けた弁護士の城戸は調査を始めます。調べるうちに、里枝の夫がなぜ過去を偽っていたのか、その理由が徐々にわかってきます。
城戸は彼の波乱とも言える人生に引き込まれていくのでした──。
2、私の感想
「愛する人の過去が全くの偽りだった」という話は、ありそうで意外になかった気がします。
「愛する人の名前も過去も全くの偽物だったら、それでもその人を愛していられるんだろうか」というこの問いは、ものすごく重くて難しいと思いました。
自分だったらどうかなあ、と考えながら読みました。愛する人の名前も過去も全部引っくるめてその人なわけですから……。
物語後半で、ある登場人物がこの問いへの答えを語るのですが、私はこの答えに「うううーん」と声に出してうなってしまいました。
そして、「自分はこれが今までできていなかったかも……」と、過去を振り返って反省しました。
たぶんここは物語の核心部分なので、ぜひ読んでみて確かめてみてほしいです。金言・至言です。
そして色々なことがあった後、物語は里枝一家の描写に戻ります。
そのラストシーンは胸がいっぱいになって、涙がじわーっとこぼれそうになりました。
本当にいい小説でした。
そして、平野啓一郎さんは文章が綺麗! この流麗な文章にふれるだけでも読む価値があります。
3、こんな人にオススメ
・恋愛でうまくいっていない人
この小説を読めば、修正できるかもしれません。
・恋愛でうまくいかなかった経験がある人
うまくいかなかった理由に思い当たり、今後に生かせることでしょう。
・上質な小説を読みたい人
ストーリーを楽しめて、かつ人生の糧にもなるいい小説です。
平野啓一郎さんといえば、『マチネの終わりに』が話題になり、映画化もされました。こちらは真っ向勝負の恋愛小説でした。いつか書評を書きたいです。
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