【書評】「あの事件」の罪と救い〜『罪の声』(塩田武士)
これも映画になった作品です。昭和を生きた人なら必ず知っているあの事件を題材にした小説です。『罪の声』。作者は塩田武士さんです。
1、内容・あらすじ
京都でテーラーを営む曽根俊也は、ある日自宅で妙なものを発見します。それは黒革のノートと古いカセットテープ。
カセットテープを再生すると、流れてきたのは幼い頃の自分の音声。
「きょうとへむかって、いちごうせんを……にきろ、ばーすーてーい、じょーなんぐーの、べんちの、こしかけの、うら」
それは、かつて日本を震撼させたお菓子メーカーの脅迫事件で使われた男児の声と、まったく同じものでした。
「自分の父があの事件に関わっているのか?」と慄然とした俊也は、父の古い友人とともに事件のことを調べ始めます。
一方、大日新聞の記者、阿久津英士も、未解決事件の特集記事を書くために、この事件を追い始めます。
最初は嫌々だった阿久津も、幸運に幸運が重なり、次々と新事実をつかみます。
二人は別々のルートからやがて真実に迫り、ついにあの事件の真相が明らかになります──。
2、私の感想
作品中では違う名称になっていますが、題材となっているのは1984年(昭和59年)に起きた「グリコ・森永事件」です。
当時、私は小学生でした。世間が大騒ぎしていたのをよく覚えています。不気味な「キツネ目の男」のことも記憶に焼き付いています。
「あれだけ派手に動き回っているのに捕まえられないんだなあ」と思ったものです。
名称が違うだけで、描かれている事実関係は実際のものです。あの、昭和最大の未解決事件の真相が少しずつ明かされていく感じがたまりません。
「これはすごい小説なんじゃないか」と思いながら読みました。
大人になってから見ると、あの事件の異常性が今さらながらよくわかります。
そして、子どもの声を脅迫の音声に使う異常さも。自分の声を使われた側の恐怖と絶望はいかばかりか……。これが作品の中心部分です。
実際に自分の声を使われた人は今どんな人生を送っているのか、と思いました。作品の着想もここからだったようです。
真相が明らかになっていくにつれて、曽根俊也の心情に同調して胸が苦しくなっていきます。犯人に対する怒りもわいてきます。
「いったいこれはどうなるんだろう」と心配しながら読んでいましたが、結末は大団円というべき見事なものでした。
それにしても、小説家ってすごいなと思いました。相当、丹念な取材をしたようですが、想像力だけでここまで書けるとは。
実際の「グリコ・森永事件」は未だ未解決のままです。時効も成立しています。
3、こんな人におススメ
・あの事件が記憶にある人
当時のことを思い出してドキドキします。
・40代くらいの人
つまり、当時子どもだった人です。「こんな事件だったんだ!」と新たな発見があります。
・映画版を見た人
ぜひ、原作を読むことをお勧めします。
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