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【書評】長距離ランナーの挫折を料理が救う~『タスキメシ』(額賀澪)

またまた素敵な小説を見つけてしまいました。長距離ランナーの青春と挫折を描いた『タスキメシ』という作品です。作者は額賀澪(ぬかがみお)さん。

※書評一覧の目次はこちら

1、内容・あらすじ

主人公は眞家早馬(まいえそうま)、高校3年生。

陸上の名門高校で長距離選手として活躍し、将来を期待されていました。しかし、駅伝の大会が原因で、右膝を剥離骨折。挫折感を抱えてリハビリをしていた時、担任の先生のはからいで、調理実習部の田坂都という女子と出会います。

それ以降、早馬は心の隙間を埋めるように、部活にも出ず、都と一緒に料理に没頭していきます。

一方、ずっと早馬の背中を追い続けてきた一学年下で同じ陸上部員の弟・春馬や、陸上部部長で親友の助川は、そんな早馬の様子を快く思いません。

しかし、彼らの気持ちを知ってか知らずか、早馬は最後の駅伝大会を待たずして、陸上競技からの引退を宣言してしまいます。

それぞれが複雑な、やり切れない熱い思いを抱えたまま、最後の駅伝大会がスタートします──。

2、私の感想

作者さんは元陸上部なのかなあ、と思いました。そうでなければきっと丹念に取材をされたのでしょう。陸上部の様子が実にリアルに描かれています。(私は学生時代陸上部で、教員になってからも長く陸上部の顧問でした)

この小説のキーワードは間違いなく「挫折」だと思います。

エリート選手で、これからもそうであるはずだった眞家早馬が選手生命を絶たれ、もがき苦しみながら新たな道を見つけていく様子が実に上手く描かれています。お見事。

それにプラスして、同じくエリートランナーの弟・春馬との兄弟愛や、陸上部の盟友・助川との友情も織り交ぜられます。

さらに、早馬を救うきっかけになった調理実習部の田坂都が抱える苦悩も書き出されます。

登場人物たちが抱える、言葉にできない挫折感や苦悩・懊悩をちゃんと掘り起こしつつ、そこからの立ち直りもしっかりと描いていて、読みごたえのあるドラマに仕上がっています。

決してライトな感じではありませんが、救いもしっかり書かれてあるので、読後感はとても爽やかです。私は勝手に「挫折直視立ち直り小説」と名付けました。

また、料理が重要な役割を果たします。作中で出てくるこれらの料理が実に美味しそうです。

なお、続編も出ています。今読んでいる最中ですが、こちらも面白いです。

3、こんな人にオススメ

・挫折の経験がある人
きっと随所で共感できることでしょう。特に故障で挫折したことがある人はよくわかるはずです。

・陸上部で長距離をやっている人
もうどハマリすること間違いありません。弟、春馬の5000Mの自己ベストにびっくりします。

・高校駅伝や大学駅伝(特に箱根)ファン
きっと駅伝が2倍も3倍も面白くなると思います。


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