インクルーシブ教育をお金の面から考えてみた
知っている人は読み飛ばしてOK。
障害者権利条約ってそもそもなんだ。
ちょっと最近話題になっている、国連がどったらこったら、インクルーシブがどったらこったら。
めちゃ乱暴に説明すると、障害者を含め、誰であっても、社会の一員となれるような世の中の仕組み作ろうや、という国連の条約があります。(障害者権利条約)
もちろん、明日から「ホイ!」と変えるのは無理だけど、世界各国でさまざまな事情がありつつも、そういう世の中になるように国同士で約束しよう、と、いうこと。
日本の場合は憲法の次に、守らなきゃいけない決まりになっています。
もし、法律が条約に違反していたら、法律を変えなきゃいけない。それくらい、レベルの高い約束です。
条約をはじめ、国同士の約束には色々個別に規定があって、罰則があるものもあるのですが、とりあえず、障害者権利条約については今のところ罰則規定がありません。たぶん。
どうやら、条約というものは守るのが大前提(国同士の約束やからね)で、
その約束を破る=条約を結んでいる他の国を裏切る、ということですから、
度が過ぎれば「お前の国、この条約から外すわ!」と、なりますし、
そうでなくとも、国際的に「あの国は約束守らん国や。」と、非難を浴びる対象となります。
オタクら、条約守ってまっか?という審査会がありました。
日本は2014年に障害者権利条約に批准(ひじゅん。私たちの国は条約に参加して、これを守ります。ということ)しました。
それをちゃんと守ってますか?という審査が8月末に行われました。
その際に日本からは100人の障害当事者がスイスまで渡っています。政府関係者とは別に、です。
審査には、当事者の意見も反映されます。
「政府が表向きのことを言って誤魔化さないように、当事者の人たちの意見もききまっせ。」
という意図があると思われます。
政府はいわば自分の国のリーダーですから、普通に考えれば政府に任せておけばいいことです。
なのに当事者がわざわざ(多分私費で)出向いたということは、それだけ、
「国連さん、うちの国の障害者権利条約、ちょっと聞いてや。」
と、いうことがあったと言うこと。
国連からすると、これは衝撃の数だったそうです。
悲しいかな、それだけ、障害者権利条約に批准してからの日本がまぁ残念だったということ。
国連はオコです。
障害者権利条約の中で、障害の有無にかかわらず、通常の教育、つまり地域の学校で学ぶことができるようにしましょう、という約束があります。
ところが、日本は特別支援学校で、障害児を「分離」して教育することが一般化しており、特別支援学校は減るどころか、どんどん増えています。
このことに対して、国連は、
「ちょっと日本さん。オタクら、条約批准したんやんね?約束守る気あんの?」
「このままじゃあかんよ。特別支援学校をなくせとは言わんにしても、地域の学校で学べるようにせなあかんよ?」
と、「勧告」されました。
「勧告」っていうと、「あかんやーん、ちゃんと気つけてやー。」くらいのもんかと思ったら大間違いで、
「分離教育は禁止。」「すぐに改善せよ。」
と、ほぼ命令レベルです。
言い換えると、それだけ国連を怒らせたと言ってもいいでしょう。否、それだけ日本は約束を守っていない、と言い換えた方がいいかもしれません。
うん、ちょっとヤバい。
こっからが本題。
特別支援教育、インクルーシブ教育等々について専門の方がこの件については色々なところで述べておられますし、一般の方にはちょっと難しいと思います。
そこで僕は、
「ほな実際、特別支援学校じゃなくて、みんな地域の小中学校にしたら、
どれくらい金かかるねん。」
という、めちゃ下世話な観点から、僕なりに色々と調べてみました。
学校にかかってるお金の話。
以前興味があって調べたことがありました。
学校にかかる予算については公開されているので、そのデータを元にざっくりと計算すると、
公立小中学校における税金からの予算は児童1人当たり80万円弱。
私立小中学校の学費が150万円前後ですから、まぁ妥当なラインでしょう。
(但し私立学校の年間歳入は生徒の学費が約半分、国などの補助金が1/3なので、
学校として運営するには年間300万円/人程度必要ということです。)
1日当たり4000円程度。
1日6時間の専門家(教諭)の授業を受け、最近は冷暖房も完備。
他にも体育館、運動場、プール、音楽室、図工室・・・それら施設利用料等も含めて年間約200日で80万円というのはバーゲンプライス。
2時間×週2回の塾でも20000円はしますから、週に30時間だと・・・
これは民間では不可能です。
私立学校で補助金などもあわせてざっくり計算すると、1日15000円程度。 この当たりでやっと、民間レベルの感覚に近づいて来ます。
これが特別支援学校になると、児童1人当たり700万円程度。
1日当たり35000円。 10倍近くになります。
時間数は異なるので一概に言えませんが、特別支援学校や特別支援学級に在籍する児童が多く在籍する放課後等デイサービスでみると、
送迎や保育士加算含め、ざっくり1日当たり10000円程度。
1日35000円/人あれば、施設利用料等を踏まえてもかなり余裕ある経営ができそうです。
もちろん、特別支援学校と違い、放課後等デイサービスは一部保育士や言語聴覚士等の有資格者も在籍するものの、そうでない人も働くことができるので、
教員免許を持つ教諭が関わる施設=学校の方が多くの予算が必要になるのは当然ですが、同時に
教員免許を持つ=高い専門性を持つ
特別支援教育=個々のニーズに沿った教育
が担保されなければいけません。
あまり書くとアレですが。そうではないケースを僕の周りでは多々多々多々お見受けする次第。
人数で見る地域の小中学校と特別支援学校
こっから数学の時間です。ちょっと計算してみましょう。
こちらのデータをもとに、神戸市の場合で計算してみます。
神戸市立の小中学校の学校数は約250校で勤務する教員数は約7000人。
特別支援学校の学校数は11校で、そこに勤務する教員数は約1100人。
但し、幼児部・高等部を含むため、幼児部:小中学部:高等部の比で小中学部の教員数を概算すると、 特別支援学校の小中学部の教員は約450人。
次に児童生徒数は、
小中学校は約110000人
特別支援学校は小中学部約800人
これを教員数で割ると、
教員1人当たりの児童数は 小中学校 約16人 特別支援学校 約1.77人
となります。予算の比とおおよそ合致しますね。
全員が地域の小中学校に通ったとしたら金どれくらいかかるん?
単純に児童800人、教員450人を地域の小中学校250校に分配すると、 1校あたり児童3.2人、教員1.8人。
つまり、各学校に特別な支援が必要な児童は3.2人、教員は1.8人ずつ増えます。
え?そんなもん??
1学年1人増えないんです。
それどころか、小中学校は特別支援学級の教員を確保することすらままならないという状況を考えれば、
教員が1.8人増える方がありがたい説まである・・・?
よし、1.8人なんて中途半端ですから、
障害児を受け入れる分、各学校に教員を2人つけましょう!ええ、あえてハラワタニエクリカエリながらこんな言い方をします。
250校に2人ずつですから、合計500人。
現在特別支援学校に勤務する教員450人を引くと、
追加で50人!
つまり、小中学生を担当する教員は、
7000+450=1150人から、
7000+500=1200人に増えます。
さぁ!人件費がぶち上がるぞ!コストかかるぞ!
どれくらい増えるかな?
1200÷1150=1.04
4%増です。
えっと。これを多いか少ないか、だけど・・・。
4%なら、なんとかなりそうじゃね?と思うのは僕だけ・・・?
ごめんなさい。実は数字で騙しました。
気づかれた方も多いと思うのですが、
これ、数字のマジックというまでもなく、当然なんですよ。
ちょっと「学校にかかるお金」について、知ってもらえたら、と、思いつつ。
だって今いる児童と教員をセットで動かすんだから、
各校に1.8人のままなら同じ予算でいけることになります。
学校内については、地域の小中学校にもエレベータやスロープ、空調設備、障害者用トイレなどは大半の学校がすでに対策されています。
自宅から遠く離れた支援学校に通うためにバス通学する児童が多いですから、
その通学バスにかかる費用も大幅に減ります。
「自力で通学できない子はどうするんだ?!」
という声も聞こえて来そうですけどね。
特別支援学校でさえ、重度で医療的ケアが必要な児童は、
保護者が送迎しているケースがほとんどです。
なんなら、保護者の負担も減ります。
また、1校あたりの教員の数が増えると、教員一人当たりの校務分掌(学校全体の仕事の割り振り。花壇やプールの管理から、PTAから、運動会から・・・)も、少なからず楽になります。これは小規模な学校ほど恩恵が大きいです。
ええ、ぶっちゃけ、コスト的にみても、インクルーシブ教育はメリットあるんです。
ではなぜ「特別支援学校が必要なのか。」
やはりここですね。ここを議論する必要があるんです。
ちょろっと述べましたが、建前としては、
「特別支援に高い専門性のある教員が、障害をもつ個々の児童にとって専門的な指導を行う。」
ために、特別支援学校は必要です。
でもね、地域の小中学校に通う子たちの10倍もの予算をかけて、
どれだけの「教育活動」が行われいるのか、については、正直疑問です。
すべての特別支援学校教員が、とはもちろん言いません。
僕が知る中でも、何人も「先生」と呼ばれるに相応しい、素晴らしいスペシャリストがおられます。
が、一方で、そうではない学校・教諭が非常に多いように感じます。
有資格者ではない放課後等デイサービスのスタッフの方が、児童個々のニーズに応じた取り組みをされている場合も多くあると思います。
まとめにかえて
僕の小学校に重度障害児の同級生がいました。
当時彼のような児童が、地域の小学校に通うことは超レアケースで、神戸市初。
大人になってから、裏話もいろいろと聞いたのですがそれはそれ。
僕たちは「自分とは少し違う」同級生がそこにいることが当たり前だったので、
「なるほど、こういうところで困るのか。だったらこうしてみよう。」
「まぁ、出来んこともあるやろうけど、同じ同級生やん。」
「俺もこういうところが困るから、こないしたらええかもな。」
と、今さんざん声高に叫ばれる「インクルーシブ」がありました。
僕が逆上がりを出来るようになったのと同じように、
入学当時は抱き抱えられるようにしか歩けなかった彼は、
1人で階段を登るようになっていました。
彼は結果として小学校3年生の時に亡くなるのですが、
彼の主治医は、
「重い障害があるこの子がこんなにも成長するなんて考えられない。」
と言っていたそうです。
今から30年も前ですから、障害児教育なんてやったことがない!という教員だらけで、
今から見れば、大きく間違った指導もしていたかもしれません。
当時の先生方も、
「訳がわからんままにやっとった。どうしたらええか分からんかった。」
「けど、そういう時は「こないしたらええやん。」と君らが教えてくれた。」
と、今も集まると語り草になります。
そこから30年も経って、”専門性の高い教員”もあの頃の何十倍、何百倍、何千倍と増えているはずです。
それぞれの学校にそんな教員が増えることで、今は通常学級で見落とされている子にも、必要な支援が届くかもしれません。
何より、当事者である障害児が、「同じ地域の同じ世代の子たちと過ごす。」という至極当たり前なことが実現します。
そのことで彼らが得る学びは、計り知れないと思います。
「そうは言っても・・・」
と、言いたくなるのは山々、簡単なことではないでしょう。
今のままでいる方が、”楽”なのは間違いありません。
でも、それが児童はもちろん、周りの大人、社会にとって”楽しい”かどうかは別です。
どうせなら、”楽しい”世の中になる方向へ。
長々とお読みいただきありがとうございます。
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