サラリーマンと医学生は両立できるのか実験してみた
こんにちは。元アイドル・現サラリーマン医学生の河井です!突然ですが、医学生と聞いて、みなさんはどんな印象を持ちますか?
きっと思い浮かんだイメージに、「忙しそう」が含まれているのではないでしょうか。しかし医学生とは、実際にはどれくらい多忙なのでしょうか?本日は、「サラリーマン」と「国立大学医学生」を両立してみた実験結果を報告したいと思います!
1.前提条件のご説明(本題は2以降です。読み飛ばしていただいて構いません)
極めて怪しい書き出しをしてみたのですが、怪しまれっぱなしじゃ全然伝わりませんね。簡単に前提条件をご紹介させていただきます。そもそもこの文章は、下記のような方に向けて書いています。
・医学部学士編入を検討中/受験中/合格した社会人で、両立する方策を探している方
・MBAなど、リカレント教育(社会人の学び直し)について関心があり、仕事との両立の難度がどの程度か知りたい方
・副業など、今主にやっている仕事と別に何かしてみたい方
職場の理解もあり恵まれた条件かつn=1ではありますが、ビジネスマンと医学生を両立しているさまをご覧になっていただくことで、みなさんが夢に一歩踏み出せるお手伝いができればと考えています。
リカレント教育についてはとても大事なテーマで、その短期/中長期的な意義、得られるご利益については別途書こうかなと思っています。上記のどれにも当てはまらず、リカレント教育?何それ?と思った方は、少し待っていてくださいね。
さて、それでは前提条件として、私について少しご説明させていただきます。
私は国立大学農学部を卒業してから10年とすこし、IT業界の営業職中心に4社渡り歩いてきました。私の同級生は9割5分が大学院に行ったので、学部卒でしかも営業職になる人なんて誰もいませんでした。ぶっちゃけ、私、勉強が嫌いだったんです。
就職すればもう一生勉強しなくてもいい!という甘い考えで就職してから、当然大失敗の連続で、挙句の果てにはリーマンショックでクビになりました。アホすぎる。まあそんなポンコツも、少しは真面目に学んで成長し、今では港区本社の医療系メディア企業の社員として既存顧客向けの提案営業をしています。それと同時に、九州の国立大学医学部医学科2年生をやっています。
いや超意味わかんない。営業なのに理系?港区と九州??学生と社員???でも文字通りです。九州に住んで、フルタイムで医学部に通って、リモートで営業のお仕事をしているのです。本日はその両立の実際を、つまびらかにしていきます。
※私が医学部に学士編入した経緯は、自分が病気をしたことをきっかけに医師になりたいと思ったからなのですが、本筋からそれるので割愛します。万が一詳細にご興味がある場合には、合格体験記の本を書いているのでご一読いただければと思います。
それでは早速本題の、前期の振り返りについてみていきましょう。
2.忙しさはだいたい「月116時間残業する程度」-業務時間と学習時間の振り返り
この2021年度前期、私は業務時間と学習時間の全てのログをとりました。業務時間は「Toggl」学習時間は「Studyplus」を利用しています。まずは全体像を見てみましょう。
図1.業務時間と学習時間
平均業務時間:8.6時間/週
平均学習時間:60.3時間/週
平均業務時間シェア:12.5%
週40時間勤務を基準に考えると、だいたい月116時間残業しているのと同程度の忙しさです。私の感覚では、月160時間残業を3か月間続けると精神と交友関係が崩壊します。それと比較して考えると、忙しい医学生とサラリーマンを両立している割には、かなりヘルシーな生活ですね。
ちなみに、「意外と業務時間少ないな?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、私の契約はざっくり「稼働はフルタイムで働いているときの1/3、給料も1/3」です。よって、週13.3時間が期待労働時間。前期中のビハインドは夏休みにフルタイムで働けば余裕で挽回できてしまうので、メリハリをつけて働いています!
さて、折れ線グラフで示した、「業務に割く時間の割合」は週ごとにかなり変動があるのが見てとれると思います。これは、主にテストの予定に影響されています。学習イベントと業務・学習時間についてみていきましょう。
表1.業務・学習時間と学習イベント
テストやレポート提出前週は学習時間が長く、逆に業務時間は短く抑えられていることがわかると思います。ただし、解剖実習が始まるとそうもいかず、かなり時間の調整には手こずりました…。もうそうなると、睡眠時間を削るよりほかありません。一番極限だった日のアラームを見てください。
図2.極限だった日のアラーム
まあまあ早めの時間ですね。ちなみにその日のスケジュールはこんな感じでした。
表2.極限だった日のスケジュール
これを貼った理由は特にドヤりたいわけではなく、事実をありのままに伝えるためです。私にとってこの日はかなり頑張ったな、と思いましたが、人によっては全然こんなの辛くない、という人もいるでしょうし、マジ無理絶対耐えられないという人もいると思います。あくまでも医学生とサラリーマンを両立すると、極端な日はこうなる、という認識をしていただけたら幸いです。
とはいえ先述の通り、月間でみれば116時間残業程度の忙しさですので、恐れるには足らないでしょう。それでは時間に関する振り返りはこのくらいにして、次に学習について詳細を振り返ってみましょう。
3.ビジネスマン経験で培った力で効率化!-学習の振り返り
前期では、「組織学」「生理学」「解剖学」「医学英語」を学びました。どのような学習に多く時間を割いたのか見ていきましょう。
表3.学習内容の詳細
※赤:組織学、紫:生理学、青:解剖学
※太字:実習 細字:自習
※最多学習内容:その週のうち、もっとも長くStudyplus(学習管理アプリ)に記録された学習内容
学習内容とイベントを科目別に色分けしましたが、やはりテスト前週にはその科目の自習時間が長いことが見てとれます。また、結局時間をとられるのは「やればやるほどテストの点数があがる自習時間」または「やるべきことが終わらない限り終了できない実習」のどちらかであり、座学の授業の拘束時間は限定的であることがわかります。
上記はとても重要です。なぜならば、「座学中心で学び直しをする場合、スケジュールが読みやすく、拘束時間が短いので仕事と両立がしやすい」ということを意味するからです。実習のない学部での学び直しをご検討の方にとってはうれしい発見ですね!
さて、これだけ両立しているぞ!と偉そうに言っていて、学業の成果はいかほどかと思われるのではないかと思います。私が共に学んでいるのは、地元の進学校(鶴〇など…)出身の、フレッシュな地頭お化けです。絶対に勝てるわけないしなんなら若いエキスを吸わせてほしい。あ、なんでもないです。しかし結論から言うと、平均よりは上の位置で、追試も一つもなく終えることができました。(たまたまでないことを祈りたい。)
その理由は、ビジネスマン経験で得た力が学習の効率化に役立ち、効率の良さは地頭のハンデを縮めるからであると推察されます。具体的にどのような力が役立ったのかを3点ご説明しましょう。
その1.段取り力がある
仕事をしていればマルチタスクは当たり前です。そして先々の予定を見越して業務を調整するのは、息をするようにやっていることでしょう。大学生はマルチタスクの経験値が少ないので、それだけでも効率に差がつきます。例えば私はほぼ同日に締め切りを迎える生理学のレポート8個を、全て提出期限の24時間前に提出できましたが、他の学生さんの中には間に合わなかった方もいるようです。
その2.情報収集力がある
私の仕事は提案営業であり、提案をする上で顧客に関する情報を色々なソースから集めます。それは時に医学論文であり、市場レポートであり、アンケート調査であったりします。バラバラの情報を整理しインプットすることを日常的にやっているので、テスト範囲が発表されたときの初動が早い。誰よりも早くバラバラの授業レジュメを統合して、暗記すべき内容を確定させていました。(もちろん同期にも共有しましたが、役に立ったと言ってもらえてとても嬉しい!)
その3.日本語で定型的でないアウトプットをするのが得意
正直「右胃大網動脈は胃十二指腸動脈の枝」といった知識をどんどん吸収する力は若い方の方が強いです。しかし、これを覚えて口頭で聴き手に説明する場合は?答えのない実験結果をレポートにする場合は?となると、記憶力よりも日本語で適切にアウトプットをする能力が重要になってきます。営業マンはどう顧客にメッセージを伝えるか、ストーリーを練りに練って日々提案書を作成しプレゼンしているため、これらの課題はお手のものです。
このように、地頭の良くない私ですら、ビジネスマン経験を活かして医学部でも相対的によい成績をいただくことができました。力のあるみなさんなら、どこへ行っても無双できるし、しっかり仕事と学業を両立されることでしょう。
4.学業と仕事を両立するカギは「仕事の外出し」-業務の振り返り
ここまでは学業について詳細を見ていきましたが、最後に仕事についても詳細をみていきましょう。
表4.業務内容の詳細
※赤:メール関連、紫:社内対応、青:思考する仕事
※最多業務内容:その週のうち、もっとも長くToggl(タイムトラッキングツール)に記録された業務内容
入学前までは、青字で記している「思考する仕事」が多く、業務時間の大半は提案内容を考えたり作成したりしていました。しかし入学後は、社内向けに割く時間が増えました。これは、業務を外出しするようになったためです。具体的に、一つ提案資料を作るとなった場合の業務内容の変化についてみてみましょう。ちなみに私の提案資料は、パワーポイント30枚程度、定型的な資料はなく全て案件ごとカスタマイズ、提案根拠はアンケート調査であることが多いです。
表5.一つの提案に対する業務内容の変化
上記のとおり、今まで全て自分で行っていたものを他のメンバーに一部依頼することで両立が可能になりました。この業務の工夫を通じ、両立が可能な仕事の条件について、私が感じたところを3点にまとめます。
その1.中長期スパンで成果を出す仕事である
私は週刊誌や月間目標のある営業をしていたこともあります。ハッキリ言って週刊誌や月間目標のある営業職と、学業の両立は向いていません。なぜならば先述の通り、テストによって週の学習時間が左右されるからです。週次、月次で数字を追っている営業マンにとって1週間つぶれるのは死活問題。よって、成果を半年や年間単位で評価する業務であることが望ましいでしょう。このことは営業マンに限らずどの職種でも言えると思います。
その2.手離れの悪い業務が外出しできる
社内向けでも社外向けでも、企画提案資料を作成したことのある人は皆さん思ったことがあるでしょうが、資料作成は無限に改善ポイントがありますよね。このような、細部をいくらでも作り込めたり、探索的に分析をしたりするような、手離れの悪い仕事は真っ先に外出しするべきです。後任を育てるなり、それなりの人を雇用してもらうなり、会社と交渉する必要があるでしょう。ちなみに弊社では、外資系コンサルの兄さんたちが助っ人として多くjoinしているので、遠慮なく丸投げさせていただいています。彼らの方がスライドライティングの能力が高いですから。
その3.自分ならではの価値が出せる
とはいえ表5.では、「提案ストーリー作成」「アンケート調査作成」など手離れの悪そうな業務も一部私が担っています。これは私の強みがここにあるからです。時間が限られ、伴って給料も減るとはいえ、いくらでも業務を外出しすればいなくてもよい存在になってしまいます。必要とされるためには、自分の価値が最も発揮できるところだけをピンポイントで担う必要があるのです。私の場合は「深い顧客理解に基づくストーリーテリング」が強みです。だからストーリーとそれを裏付けるためのアンケートは自分で作成します。プレゼンも自分でします。それ以外のところは、私でなくてもよいから外に出すのです。
以上、非常に環境に恵まれた幸運な事例ではありますが、サラリーマンと医学生を両立した事例をお示しいたしました。少しでも、参考にしていただければ幸いです。
もし「学びたいんだけど、自分にぴったりのプログラムが見つからない」という方がいらっしゃれば、文科省の用意した素敵なサイトを覗いてみてください。では!