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読書記録「破船」

川口市出身の自称読書家 川口竜也です!

今回読んだのは吉村昭さんの「破船」新潮社 (1982)です!

吉村昭「破船」新潮社

・あらすじ
近隣の集落から離れたとある海沿いの村 伊作は村おさの言葉に従い、塩焼きの仕事に加わることとなる。

塩焼きとは、海水を煮詰めて塩を作り出す作業であり、出来上がるまで炎を絶やすこと無く見張る必要がある。

古くからこの村の風習として、塩焼きの作業を夜中に行った。それも、海が凪いでいる日ではなく、波が荒だっている時に行うことが決められていた。

何故わざわざ明かりのない真夜中に炎を上げるのか、何故海が荒れている日に行うのか。

村人たちは、塩を作ること以外に「お船様」の到来を願っているからだ。

冬になると、米俵を積んだ商船が港を目指して渡航する。だが、村の近くの海岸は波が入り組んでいるせいか、大きな船は操縦が困難になり、船内はパニック状態になる。

そんな中、陸から明かりが見えるとなれば、人里有りと思い船を近づける。それこそ村人たちの狙いであり、近づけば近づくほど潮の流れが激しくなり、ついには難破してしまう。

「お船様」が来てくれれば、家族が身売りすることも、餓え死にすることもなくなる。はじめて「お船様」が来るのを間近に見た伊作は、浮足立つのを抑えきれなかった。

翌年の冬、村にまたも「お船様」がやってくる。だが、食料や物資はほとんどなく、生きている人間は一人もいなかった。そして妙なことに、全員の身体は吹き出物で覆われ、何故か真っ赤な衣を着ていた。

食料は無くとも、見事な赤い衣に酔いしれる村人たち。村おさが洗い清めれば問題ない、祝いの日に大切に着るようにと命じた。

衣には天然痘の菌がついているとも知らず…

読書会にいらっしゃた方の紹介を受け、読了したから売ろうかと思案していたのをその場で買い取り、読み終えた次第。

伊作の感情表現などは少なく、淡々と村の行事や風習が書かれているため、まるでルポを読んでいるかのような没入感があった。

この作品の恐ろしいところは、伊作の住む村が近隣から隔離されていたために、情報を得る手段がなかったこと。
そして、村人が「村おさ」の意見でしか判断できなかったことにあると思う。

伊作の住む村は近隣の集落から遠く離れた海岸沿いにあるため、「お船様」の情報を隠蔽する分にはありがたかった。
しかし、今回のような病気を持った船が来ても、その真偽を確かめる術がなかった。

その上村人たちは、「村おさ」の意見こそ正しいと、判断の基準となっていた。村おさがそうおっしゃるのならば安全だと過信した結果、病という災が降り掛かった。

それは、最近は薄れつつある流行病でも同じようなことが言えるのではなかろうか。

村文化の遺伝子を受け継ぐ我々にとって、周りに合わせることは容易い。
けれども、情報は自ら取りに行き、自らの判断で行動する必要があるのではなかろうか。

どうやら明日からはマスクの着用が個人の判断に任されるそうだ。その時に周りが外すから自分もではなく、自分の判断で行動することが大切だ。

もっとも、私は慢性鼻炎&花粉症ゆえにしばらくマスクはつけたままではあるが。それではまた次回!

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