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読書回想録「子ぎつねヘレンがのこしたもの」

川口市出身の自称読書家 川口竜也です!

読書感想文が大の苦手だった少年時代。子供の頃に読んだ作品を、思い出しながら記していきます。

今回は、竹田津実さんの「子ぎつねヘレンがのこしたもの」偕成社 (2005) です。

・本著の内容
獣医 竹田津先生のもとに一通の電話が届く。嫌な予感は的中、知り合いの加藤くんがキタキツネを保護したと。

不思議なことに親キツネが迎えに来るわけでもなく、しかも加藤君がどれだけ近づいても、手を触れても全然逃げる気配がない。

検査してわかったこと、それは目も見えず、耳も聞こえず、鼻も効かないということ。まるでヘレン・ケラーのように…。

肉もミルクも食べない小ぎつねに、最初こそこの子は死にたがっている、安楽死の他あるまいのではと考えた竹田津先生だったが、ヘレンと過ごしていく中で大切なことを学んでいく。

この本との出会いは、映画が先であった。

小学校中学年の頃、深澤嵐さんが子役として出演した映画「子ぎつねヘレン」を家族で観に行った(今でもDVDが実家にある)。

うら若き川口少年は映画館で大号泣し、学校の推薦図書の1冊にあったのを見つけて、お母さんに頼んで買ってもらった。

武田津先生の著書の中で、まるでヘレンが死にたがっているように見受けられた。

野生動物として目や耳が機能しないことはどれだけ生きづらいことか。狩りにも行けず、外敵から身を守ることがでない状態。ましてや小ぎつねのような小さい動物は、ただの枯れ草であっても脅威に感じる。

幸いなことに私は目も見えるし、耳も聞こえる。この社会で視覚や聴覚がないことがどれだけ生きづらいかを知らない。ただ、耳栓目隠しをした状態で街中を一人歩けと言われたら、恐ろしくて足を踏み出すことすら出来ないと思う。

それでもサリバン先生は決してヘレンを見捨てなかったように、竹田津先生もヘレンを安楽死させることはなかった。

子ぎつねのヘレンも、診療所で過ごしていくうちに徐々にミルクを飲むようになり、お肉を食べるようになる。この子は心のどこかでは必死に生きたがっているのだと、竹田津先生は気づいたからだ。

子ぎつねヘレンが残したもの、それは相手に対する思いやりを忘れないことだろうか。

今になって、映画を観てどうしてあんなに感動したのかを考えた。

それは深澤さん演じる太一が、誰よりもヘレンの幸せを願っていたからだと思う。

映画の中では、大人たちは自分達の事ばかり考えていた。学会の人々は研究対象としてヘレンを扱い、診療所の人達も昔の関係で言い争っている。

その時、小林涼子さん演じる太一のお姉さん役がピシャリと言う。

「大人が言い争っている間に、太一は一番ヘレンの幸せを考えているんだよ! 太一の方が立派だよ!」

また映画のラスト、診療所の先生が太一にこう言う。

「"辛"いという文字に一を足すと"幸"せになる。お前がヘレンに幸せを与えてやったんだ」

僕らはどれだけ自分以外の人を大切にしているだろうか。たとえその人がどこか欠点や気に入らないことがあったとしても、それを受け止めて相手を愛することができるだろうか。

サリバン先生ほど人の可能性を信じることは難しいかもしれない。

けれども、他人を大切にする、人を愛するという当たり前なことを、僕らも忘れずに生きていこう。それではまた次回!

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