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仕事じゃなくて好きなこと

何でも書いていいと言われたら、本当に純粋に好きなことと言えばダンスを見ることです。物を作ることを仕事にしているので、食べ物や工芸作品に触れるはもちろん好きなことですが、それは半分勉強も兼ねていることも。これ作るの大変だったろうなと思うこともそう。純粋な好きという目線で見ることは意識しないと難しい。

純粋に「お客さん」でいられる好きなことといえば、ダンスを見ることだけかもしれない

(学生の時に作った、パンケーキと焼印のアニメーションより。)

小さい時は私の強い希望でモダンバレエを習い始めたものの、でもちょっとぽっちゃり体型だったし、やる側には向いてなくて、でも人のを観てるのは大好きだった。

やる側ではない、と子供なりに早い時期に悟っていたおかげで、上手に踊れなくても悔しくはなく、純粋にその世界を見れることを楽しんでいた。その後も舞台のビデオ鑑賞をして素敵だなとおもうことや、それを頭で再生させることは私の心を支えてくれていたと思います。

大学生になって上京したので、それはもうたくさん特にモダンバレエや現代舞踊を多く観に行っていました。お金もないのに。発売日に10時になるのを見計らって、授業を抜けてイープラスやチケットぴあに電話を掛けていたこと幾度か。

おすすめの公演には友達を連れていくこともあったけれど、一人で行くことが多かった。安い席だとしてもそれなりのお買い物で、当たりか外れかわからない時間に友達を誘うのは気が引けたので。

クリスマスなんかも、くるみ割り人形一人で観に行っては、アンケート欄にびっしり感想を書いてふう満足◎みたいな女子大生でした。今思えば20代前半、もう少し女子としてキラキラすればよかったのにと思いますが、それはそれで楽しかった。

観に行く生活が普通になってくると、上演後のアフタートークで、手を挙げて演者さんに質問するような人になっていました。

たぶんまだ芸大の2年くらいの時に、金森譲さんが率いるNoismの初期の作品を見に行って、その表現や身体能力にすごく感動しました。40分くらい休憩もなくずっと全力で素早く踊っているような演目で、ものすごくハードなはずですが、柔らかく、疲れた様子も見えないように自由自在に動かせる体をみていると、さぞすごい気持ちいんだろうな、と思い、

「金森さんは踊っているときどんな気持ちなんですか。楽しい気持ちですか。」と、何ともまあ若々しい質問をしました。

そうしたら、

「特にどんな気持ちというのはないです、僕はただあらかじめ決めている振り付けをベストになるように必死にやっていくだけの時間です。僕が楽しくたって仕方ないじゃないですか。楽しいとか悲しいとかの感情は、それを見ているお客さんの中に生まれるものなので。」

まだ大学2年の私にはとても印象深く心に残った言葉でした。

「僕自体は、しんどいですよ」

金工を専攻したばかりで、でも金属自体が昔から好きというわけではなかったこともあり、美大での制作=自分自身が楽しくあるべきと思っていたのに、楽しくは、ない。という迷いにとらわれていました。金槌や道具ばかり作る日々。金属、冷たい 重い いつ楽しくなるかしら など。

そうなのか。あんな伸び伸びしてるのに、楽しくないのか。

これは物を作る技術を得ていってそれを仕事にしたいと思っている身にとっては、とてもいい収穫でした。

私たちはつくった物を最終的にお客さんにお見せするけれど、作業場で金槌をふるっている様子をお客さんに見せることはない。見せないわけではないけど、それでお金をもらうことはない。

舞台って仕事してる様子と作品を同時に受け取れる場所なんだということに気づきました。私たちはそれを表現として受け取っているけれど、ダンサーの人たちにとっては、本気で仕事している時間。だから私はダンスを観ることに救われるのだなと思う。結局作る側でみてることになるのですが、どんな仕事でも毎日成果が出るわけじゃないから。

そしてそれが終わった時に起こる拍手で苦しみが報われる場面まで観れる。半年くらいは練習してきたわけだから、一番いいところだけかいつまんでいるわけだけど、長い産みの苦しみ→表現として形になった→お客さんに伝わった→報われた というのを同時に見させてもらうことで、今苦しいが、まだ舞台袖だから、という気持ちを学生時代長らく保てたと思う。

(学生時代のHPページより)

そういえば最近ただのお客さんとしての「好き」が不足していました。DVDを観ます。地方にいるとなかなか見にはいけないけれど。人間ってすごいじゃん、って純粋に思えて、この世界が素晴らしく思えてくる。責任と紐づかない好きなものも、やはり人生には必要だとおもいました。


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