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絵本の仕事は制約が多いからこそやりがいがある

こんにちは。交通技術ライターの川辺謙一です。
私は、絵本の仕事もしています。一般向けのカタい記事や書籍ばかり書いていると思われてがちです。ところが実際は、これらの執筆とは別に幼児向けの絵本の仕事もしているのです。
そこで今回は「絵本の仕事は制約が多いからこそやりがいがある」と題して、私の絵本に対する向き合い方について書きます。

■制約が多いからこそ面白い

現在私は「監修」という立場で、絵本づくりのお手伝いをしています。絵本作家や編集者の方々が長い時間をかけてつくられた乗り物の絵本の原稿を拝見して、内容をチェックさせていただくのが私のおもな仕事です。

この「監修」は、かんたんそうで、非常にむずかしい作業です。なぜならば、多くの制約をクリアしながら最適な表現を探す必要があるからです。

この多くの制約は、小さなお子さんに楽しんでもらう上で必要なものです。とくに、まだ小学校に通っていない未就学児が対象となると、内容を徹底的に平易にするだけでなく、伝えたいことを数字や漢字を使わずに書かなければなりません。

とはいえ、内容の正確さばかり追求してしまうと、教科書っぽくなってしまい、絵本としての面白さが失われてしまう可能性があります。このためさじ加減がむずかしいと常々感じています。

ただ、このような制約をクリアすることは、私にとっては楽しい作業です。この絵本を読んだ子たちが楽しむ姿を想像すると、自分まで楽しくなってくるからです。

なぜ私が楽しいと感じるのか。それは、おもに次の2つの気持ちが満たされるからではないかと自分で推測しています。

(1)乗り物を通して科学や技術に興味を持ってほしい
(2)お子さんのキラキラした目が好き

■科学や技術に興味を持ってほしい

(1)の「乗り物を通して科学や技術に興味を持ってほしい」というのは、私が持つ強い願いです。なぜならば、私自身が子供の頃に乗り物を通して科学や技術に興味を持った人間であり、そのとき感じたワクワク・ドキドキを後世に伝える役割があると感じているからです。

また、おおげさかもしれませんが、それは今後の日本にとっても重要なことだと考えています。

今から30年以上前のバブル景気の時代には、半導体や自動車などの国産工業製品が世界を席巻したゆえに、日本は「技術立国」などと言われていました。今では想像しがたいことですが、多くの人が技術を通して夢を見ることができためずらしい時代でした。

私はこのような時代に技術者になることにあこがれ、大学や大学院で工学を学びました。その後、希望通りメーカーの技術者にはなれましたが、「技術立国」とはとても言えない日本の製造業の実情に直面して困惑し、「このままでは日本の技術力はいつか失速するのでは?」と内心思っていました。

その予想は残念ながら的中し、日本の工業製品の競争力は低下し、東芝やシャープなと、誰もが知る大手メーカーたちが苦境に陥りました。当然技術者は、バブル景気の時代ほどあこがれの職業ではなくなってしまいました。このまま競争力がさらに低下すれば、日本の未来は明るいとは言えない状況です。

そのような時代に、技術者を辞めた私はいったい何ができるのだろうか。それを考えた結果たどり着いたのが、「乗り物を通して科学や技術に興味を持ってもらえる仕事」を始めることでした。それは、メーカー勤務時代から「いつかは実現したい」と考えていたことでした。

長々と書きましたが、じつは絵本の仕事をしている背景には、このような経緯と、「科学や技術に興味を持つ人が少しでも増えてほしい」という願いがあるのです。

■お子さんのキラキラした目が好き

(2)の「お子さんのキラキラした目が好き」は、過去の経験に基づくものです。

先ほど述べたように、私には「科学や技術に興味を持つ人が少しでも増えてほしい」という願いがあり、文化施設の企画で小学生向けに鉄道の授業を数回したことがありました。

この授業では、目を輝かせながら熱心に質問してくれる子が大勢いて、質疑応答が盛り上がりました。もう10年以上前の出来事ですが、そのとき見た子たちの目は今も忘れられません。おそらくそれが、私のモチベーションに大きく関係していると思います。

この教室を機に、「お子さんに科学や技術に興味を持ってもらうこと」が自分のライフワークの一つだと考えるようになりました。目を輝かせる子たちが少しでも増えるような仕事をすることで、少しでも世の中に貢献したいと思ったからです。

ちなみに私は既婚者で子供はおりませんが、これから未来を切り開く後世の方々に何かを伝えたいという気持ちは強いようです。

■いつかは自分の絵本も?

「ここまで強い思いがあるならば、他人の絵本の監修なんかせずに、自分で絵本を書けばいいじゃないか」とおっしゃる方もいるでしょう。たしかに私は文を書くだけでなく、絵も描く人間なので、そう思われても不思議ではありません。

じつは私は、絵本づくりに挑戦したことがあります。出版の世界ではライターよりも先にイラストレーターとしてデビューした経歴があることもあり、過去に編集者の方にご協力いただいて、何度か企画を練ったことがあります。ところが、絵本をイチから自分でつくるとなると乗り越えるべきハードルが高く、残念ながら実現に至っていません。

だから、いま私の今後の目標を聞かれたら、迷わず「自分の絵本をつくりたい」と答えるでしょう。私は51 歳なので残された時間は長くはありませんが、もし乗り物を通して科学や技術に興味を持つことができる絵本をつくれたら最高。いまはそれが実現する日を夢見て、コツコツと準備を進めています。

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