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プロフェッショナリズムの精神と研究の技法

ビジネス上の「問題解決」を担うプロフェッショナルがコンサルタントで,サイエンス上の「問題解決」を担うプロフェッショナルがサイエンティストだと考える.

クライアントとコンサルタントとの関係は,問題解決という点で,PI(Principle Investigator)とRA(Research Assistant)との関係に似ているところがあると思う.

とすれば,整理された方法論が豊富なコンサルタントの現場からきっと学ぶことがあるだろうと本書を聞いた(Audible).

そして,日頃の研究のプロセスで,ほぼ無意識にやっていること・よく言われていることがコンサル流の思考法やフレームワークに似ていることにも驚いたし,逆に活かせそうな可能性を感じた.

第1章 コンサル流話す技術

1.結論から話す

PREP法:Point(結論), Reason(理由), Example(具体例), Point(結論の再提示)

短い時間で情報を共有するため,思いついたことからしゃべる癖をなくせ.

指導教官によく「で,結論は何?」ってよく聞かれる.

2.端的に話す

余分なことは付け加えず,変な言い訳をせず,相手の解答にしっかり答える.

言いにくいことや不明瞭なこともしっかり話して,確認する.

研究発表の質問で1聞かれて10返す人が多い気がするが,ベストではないかも.

ごちゃごちゃ喋ってると確実に指導教官が整理しに喋り出すことが多い印象.

3.数字というファクトで語る

経験が少ないからこそ,動かしようのないファクトの1つ:数字で語る.

おかしいと思ったらデータを集める.あなたが数えなければ,決して数えることができないようなデータこそが有効.

データといえば統計.武器にできればさらに強そう.

4.数字と論理で語る

世界共通言語は英語ではなく,数字と論理.

グローバルで協働するためには,どんなバックグラウンドの人とも認め合える単純な基準:数字と論理.

これは,色々な国出身の人らと同じ研究室にいて,強く感じることの一つ.

5.感情より論理を優先させる

感情と論理が揃っていることが望ましいが,新人のうちは論理優先.

感情や熱意で押すのはベテランになってからでも間に合う.

6.相手に理解してもらえるように話す

論理の組み立てにおいて,相手は何も知らないという前提で考える.

事前にあえて何も知らない人(家族とか他の研究室の人)に話してみて,プレゼンのフィードバックをもらう.

相手の反応を見て,反応がなかったら理解していない・興味がないサインと思って間違いない.

基本から話してみて,反応をみて,先に進める.相手の仕草を観察する.

7.相手のフォーマットに合わせる

相手に受け入れられて,初めて伝わる.

相手の土俵:分野や手法のフォーマットを合わせる.

分野での独特の省略の意味を明確にする.

8.相手の期待値を把握する

相手の期待を超えつづけることで,評価と信頼を得て次の仕事につながる

相手の期待値(何をどのレベルまで)を明確に把握し,それ絶対に外さなず,常にその上を目指していく.

相手の期待値をコントロール・マネジメントするよう,上司と常にコミュニケーションをとる.

指導教官という唯一の上司がいる環境では,本当にクリティカルだと思う.

9.上司の期待値を超える

ビジネスは相手の期待値を超え続けていくこと

仕事を受ける時に一体何を確認すればいいのかのポイント

1.背景や目的

white paper(proposalのサマリーで提出する文書)の内容やこれまでのデータの共有

2.具体的な成果イメージ

こんな感じのグラフで数ページというPIの指示

3.クオリティ

これまでのグラントの共有でレベル感の共有

4.優先順位,緊急度

いつまでにやるのか.他の研究との優先順位を明確にする.

新人の場合,優先度は上司に確認.

コミュニケーションをリードして,曖昧な部分があれば,明確にし,共通認識をもつことで,期待値の把握,マネジメントをする.

最近参加したGrant meetingでこれらのポイント網羅されてたな.

第2章 コンサル流思考術

10.「考え方を考える」という考え方

「考え方を考える」:どのように考えたら答えが出るか,その道筋をまず考える.

どう進めたら,目的を達成できるか:アプローチや段取りをはじめに考える.

建築業務と同様に,作業の設計から手順の確認をとる.

作業手順を考える訓練:3人で海外旅行を計画する.

1.休みの取れる日程をすり合わせる.

2.どこにいくかを決める.休暇日程内で行けそうな国を10ヵ国あげる.

3.観光,グルメ,アクティビティ,費用の4つの視点から評価し合う.

4.一番評価の良い国を目的地とし,合意する.

「日程,行き先,内容」アプローチ.

「食べたいもの,みたいもの,やりたいこと」アプローチもある.

中学の友人とフランス行きたいとずっと言ってて,もうほとんどネタになっているんだが,上記の方法をぜひ使ってみたいところ.

大きな設計図を示し,手順の合意をとる.手順に基づき,細部の作業を進める.

11.ロジックツリーを使いこなす

ロジックツリーを使いこなす4つの意義

1.一生使える

2.全体が俯瞰できる

3.捨てる能力が身に着ける

4.意思決定のスピードが上がる

大きな問題を小さな問題に分解することで,それぞれの論点について議論ができる.それぞれの論点を分析することで,全体の答えを出すことができる.

ロジックツリーによる問題解決の基本

1.論点を整理分解する

2.各論点について数値分析をする

3.項目の重みづけをする

4.アクションに落とし込む

課題をもれなくダブりなく(MECE)分解したり,意味のあるロジックツリーを作るには適切な指導者が必要.

12.雲雨傘

雲雨傘:黒い雲が出てきたから(事実),雨が降るかもしれない(解釈),傘を持っていこう(行動)というフレームワーク

この3つをセットでまとめることを徹底的せよ.

ところで「イシューからはじめよ」にも書かれてましたね.

研究でも,スライドの結論だけでなく,図などの事実からの解釈や次の行動をについて絶対聞かれる.

よくある失敗1.事実だけ提案.

自分の解釈をもつ.

よくある失敗2.行動だけ提案.根拠の提示していない.

複数あるアクションからなぜそのアクションを選んだのかもセットで伝える.

よくある失敗3.事実と解釈の混同

事実と意見を区別して提示する.

事実,私の解釈,推奨アクションの見出しをつける.ロジカルシンキングの基本.

スライドにしっかり見出しをつけてみて,フレームワークに沿っているかのチェックリストとする.

エフォートレス思考の中にもチェックリストを作ることでミスを減らすことが指摘されてたね.

13.仮説思考

はじめに予想できる範囲でストーリーラインを描いて(仮説思考)リサーチする.

リサーチは仮説とセットで,その結果は仮説に対する検証を提示する.

仮説,検証,フィードバックを高速で回すことで,問題の本質に効率よく迫ることができ,意思決定のスピードが上がる.

意思決定が遅いのは,その対象を事前に検討したことがないから.

意思決定が早いのは,そういう場面を想定してすでに結論を持っているから.

仮説を持つということは現地点での結論をあらかじめ持っておくということ

あらかじめ,選択肢と条件をリスト化しておく.

仮説思考で旅行計画の意思決定を早めるためには?

あらかじめ旅行計画の仮説を立てておく.

3日の休みが取れた場合,どこに行けるだろうか?7日間はどうする?など

行きたい場所をリストアップして,飛行機の時間や費用を調べてエクセルにリスト化.

詳細の旅行プランは不必要で,何日必要で,いくらかかるかの回答集になっていれば良い.

実際に休みが取れるようになったら,あとは条件に合うものを選んで実行するだけ.

これまで旅行の条件が,友達とかプログラムとか外因的であったが,実際,こんな感じで旅程プランニングするだけしといて,色々ストックしておけば,一年でもっと旅行できる可能性が上がるし,週末とかでも十分実行可能そう.

仮説を立て,あらかじめ結論を持っておく.そして仮説に沿って対応する.

14.常に自分の意見をもって情報にあたる

自分の意見を持ってみて,初めて学びの機会が生まれる.

自分の意見と違っていたら,勉強になるし,意見と合ってたらそれに行き着くまでの思考経路が違っていたりする場合もあり,勉強になる.

これを繰り返すことで,記憶に残る勉強をできるようになる.

正解にこだわらず,考え続ける.自分の考えを持つことは正解を持つことと違う.

間違いを恐れず,正解を覚えようとせず,自分の考えを他と比較しながら深める.

15.本質を追及する思考

情報を統合して,その先にある「だから何なのか」=本質を提示する

それぞれバラバラに見えていたものが突然統合した一本の線で繋がったような感覚:ひらめきにたどり着くための思考のトレーニング.

情報をたくさん集めるよりも,いくつかの本質を抽出し,磨き上げることが考える力を向上させる.

第3章 コンサル流デスクワーク術

16.文書作成の基本

文書作成の基本は議事録書きから始まる.

発言録ではなく,決定事項を簡潔に書き,関係者に確認し,決定するためのもの.

決まらなかったことと,確認が必要なこと,次のアクション(誰がいつまでに)も盛り込む.

17.最強パワポ資料作成術

シンプルイズベストでワンスライド,ワンメッセージ

いうことを一つに絞ること.

「根拠となる数字や事実」と「自分の解釈や主張」をセットで,ワンセットをワンメッセージで.

18.エクセル、パワーポイントは、作成スピードが勝負

資料作成スピードが削減できれば,思考時間が増える

ツールの操作スピードをあげることが全体の生産性の向上に大きなインパクト

ショートカットなどの小技はしっかりマスターせよ

19.最終成果物から逆算して、作業プランをつくる

最終アウトプットの骨組みを作る:ゴールから逆算して,今を考える

アウトプットドリブン,最初に資料のアウトラインイメージを作る

そのアウトラインに従って,作業をする

タイトルだけで何も書かれてないスライド(空パック)を作り,どう埋めることができるかを洗い出す

空パックのメリット

1.最終成果物がイメージできる

2.そのために作業をリストアップできる

3.ワークプランにまで落とし込むことができる

4.それぞれの作業を切り出し,複数人に同時に依頼することができる

5.うっかりがなくなる

これは,まさに「イシューからはじめよ」でも出てきてた「ストーリーラインと絵コンテ」であるなあ.

20.コンサル流検索式読書術

コンサル流読書:読書の目的を絞る,明確にし,重要な部分だけ読む

なるべく多くの文献を広く浅くあたるため,ウェブ検索のように本を拾い読みする

ざっと目次を追って,関係しそうな箇所に目印をしていく.

本を読むときにも自分が何を知りたいのかを常に自問自答.

わからないから全部読んでおこう,全部やっておこうでは仕事は終わらない.

自分なりの判断(仮説)を持ちながら読むこと.

これは論文を読む時にも重要で,面白そうと読み始めるのはいいが,途中であんま関連性なさそうと思っても,一度読み始めちゃったから最後まで読まないとと時間を使ってしまうことがあまりにも多い.

21.仕事の速さを2倍速3倍速にする重点思考

重点思考:80%の要素を決める20%の重要なことをやる

80:20の法則(パレートの法則):ある事象の全体の数値の80%はその全体を構成するうちの要素20%が生み出しているということ.売上の80%を20%の顧客がもたらす.エラーの80%は20%の業務から発生してるなど.

重要な部分をより深く考える=Focus and Deep

何が重要で,何が些末なことか判断がつかないことが一番の問題で,その原因は自分の頭で考えておらず,適切な問題設定ができていないから.

ロシア語の文章をコンピュータ解析して,最も使われる単語を1000個リストアップして,それらを覚える言語学習法.頻出の1000語を理解すれば日常生活での会話は理解できるようになるとのこと.

実際に英語の日常会話でも感じることで,使ってる言語数は実はそんな多くなくて,それらを組み合わせて,途切れなくハキハキとそれっぽくしゃべることの方が大切に感じる.

22.プロジェクト管理ツール、課題管理表

課題管理表:課題をリストアップし,認識の一致を促し,進捗や状況を確認する表

Todoリストだけにしないために「担当者,期限,方向性」を盛り込め.

目に見える形で達成の姿が浮かぶように目標を設定する.

目的に数字を入れる,成果物のレベルを明示する.

その表が議事録となり,アップデートして考えることこそが進捗ミーティング.

新しい課題は追加,複雑化してれば細かく分け,担当者と期限を決める.そして,解決の方向性,アウトラインを決める.

第4章 プロフェッショナル・ビジネスマインド

23.バリューを出す

バリューとは,クライアントに対する貢献,価値

上司を喜ばせるためでも,自分を満足させるためでもない.

貢献すべきクライアントにしっかり向き合う.

その提案はクライアントの問題を本当に解決するためのものであるか?

24.喋らないなら会議に出るな

会議で喋らないのは,テレビに出演して喋らないの(給料泥棒)と同じ

緊張して,まともに言えるような意見を持ち合わせていないということはまだプロフェッショナルではないということ.

会議に貢献できるスキルを持っていない=無能(えっ)

会議に参加するためのコストは,クライアントが払っている.

25.「時間はお金」と認識する

プロフェッショナルとして,払われてる金額に見合った態度で最大限努力する

経営者にとって,社員の時間はお金そのもの.

26.スピードと質を両立する

Quick and Dirty:多少汚くても構わないので,とにかく早く作る

時間をかけないといいものはできないは嘘で,スピードを追求すると質も上がる

時間をかけずに大枠の方向性を決めることで,リスクコントロールがしやすい

90:90の法則:0点から90点にする労力と90点から100点にする労力は同じ

仮説検証のサイクルを高速で回すために,大まかな答えを出すことを最優先で,精度は後で.

早めのリスク開示がチームメイトに対する思いやり.方向性が合っているか早め早めに上司に相談すること.

失敗を開示せずに進めるとチームに迷惑をかける.

これは特に締め切りがある共同研究ではめちゃくちゃ重要だと思う.

27.コミットメント力を学ぶ

約束したことを果たし,約束以上のものを持ってくる=高いコミットメント

プロフェッショナルの世界では,頑張りは見られない,見られるのはクライアントに対するコミットメント

クライアントと約束したものはどんなことがあろうともやってくる.そこに信じられないほど強いコミットメントを持っている,そして常にクライアントの期待値を上回るものを持っていく,それらを実直に繰り返すことで,信頼を得る.

これがコンサルタントの仕事術のほぼ全てと言っても過言ではない.

方法は問わない,人の手を借りてでもコミットメントする.

クライアントとの約束を果たすことが第一,方法は第二.

コミットメントを高めるポイント:仕事内容に納得して,コミットメントが高い組織にいること.

自分でこの仕事を選んでいるという意識がコミットメントを高める.

コミットメントは伝染する.コミットメントの高い人に近づく.

28.師匠を見つける

若いうちはどのような仕事をするかより,誰と仕事をするかの方が大切.

言語化できない暗黙知の部分がプロフェッショナルにとって大事.

利益が合理性を超えた非経済的なもの:美学や哲学

それらは師から教えてもらうことしかできない.

差別化できるプロフェッショナリティは茶道や武道における「守破離」

既存手法,専門領域を身につける,手法や目的を変えて,発展させて挑戦する,既存手法を超えて独自の分野を生み出す.

指導教官に追いつき,超えてゆくことよね.

29.フォロワーシップを発揮する

リーダーの提案を賛同(フォロー)を示し,自主的に動き周りを巻き込む.

部下が発揮できるリーダーシップ:フォロワーシップを発揮し,チームに貢献.

30.プロフェッショナルのチームワーク

プロフェッショナルのチームワークとは全員が違う分野で価値を発揮すること.

チームワークとは,それぞれにしかできない役割をそれぞれが担ってチーム全体の勝利のために走ること

他人と違うことで自分の特徴をアピールするために,自分ができることを起点に考えてみよう.

価値を出すためにみんな必死,どうにかして自分の能力で貢献できる力を探す.うまくハマれば,本人にとってもチームにとっても幸せ.

他人と同じことではなく,違った角度で貢献できることを見つけて,そこで認められるようになる

指導教官に比べて,自分は知識や経験ないが,逆に自分に比べて,指導教官は実験や解析ができない(やらない).

意味のある実験結果が出せるかどうかは自分にかかっているんだよね.

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