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DXの戦略議論の正しい進め方

DXの成功に向けた5つの要件

過去4回の記事で述べたように、DXの取り組みが成功している企業には共通点があります。これは、下の図に示した5つの要件をそれぞれ正しく押さえているということです。

DX戦略の策定における要件

本記事では、以前の記事で述べた「経営陣のスタンス」と「実行者のマインドセット」「テーマ選定」「成果物の位置付け」に続き、最後の5つ目の要素である「検討の進め方」について詳しく説明していきます。



情報量より消化率

私はかつて、大手コンサルティング会社において、多様な業界のクライアント企業に対してDX戦略策定の支援を行っていました。そのような案件の多くでは、短期間に大量の調査や分析を行い、最終的に詳細な資料を作成して納品していました。

しかし今振り返ると、クライアント企業から求められていたとはいえ、そのような「情報量」を重視した検討は、必ずしも正しくなかったと感じています。立派な資料ができても、その内容の大部分は実行に至らず、しばらく経つと参照されることすらないような分厚い資料が出来上がることも少なくなかったからです。

本来、戦略検討のアウトプットは、膨大な調査レポートではなく、実際の行動に直結するシンプルな基本方針であるべきです。そのための検討においては、戦略の要を見極め、キーパーソン間でそこにフォーカスした議論を行い、「消化率」を高めることが大切なのです。

検討の進め方

長時間討議ではなく暦の時間

また、議論の進め方にも重要なポイントがあります。それは、「長時間の集中討議」だけで済ませるのではなく、「暦の時間をかけて継続的な議論をする」方が良いということです。

多くの日本企業が、幹部合宿やオフサイト議論といった名の下に、主要な関係者を一つの場所に集めて長時間の集中討議を行うやり方を好んでいます。そのような非日常の場を持つことで、無意識のうちに抱えている制約を外して考えた抜本的な課題解決をしたり、普段は思い付かないような新鮮なアイデアを生み出したりすることを期待しているのです。

しかし、そのような場では、短期間に多くの情報をインプットし、その場の勢いで議論することになってしまうこともあります。結果として、後から考えると正しい判断ができていなかったり、大事な論点が未解決のまま進んでしまったり、消化不良によってモヤモヤが残ったりすることもあるのです。

そこでおすすめしたいのは、「暦の時間を取る」という方法です。これは、連続して何時間もの討議を行うかわりに、通常の1時間程度の議論を何度かに分けて、それぞれ日を改めて行うというやり方です。一定量議論した後で、次回の議論までに参加者が個々に考える期間(=暦の時間)を設けることで、集中討議の後に感じる違和感や、後になって結論を蒸し返すような状況(参考「決めたのに後で異論が出るのはなぜか」)を防ぐことができます。


要件を満たすためのヒント

前セクションで述べたような進め方は、具体的にはどのような方法で実現すれば良いのでしょうか。

実は、議論の中身以前の話として、全員の時間の都合を確認して会議を設定する調整自体が大変です。また、重要な人ほど忙しく、そのような会議への参加が難しくなりがちなため、本当に参加して欲しいキーパーソンではない人が会議に参加することで、議論がなかなか進まなくなるという状況もよくおこります。

また、会議への参加人数が多くなると、その分、会議中に他者の発言を聞く時間が長くなります。結果として、自分の考えを十分に伝えることが難しくなりますし、発言した時に、他者からのフィードバックを十分に受けることも出来なくなります

このような問題を解決するための有効なアプローチが、SlackやMicrosoft Teamsなどのオンラインチャットツールを活用し、キーパーソン全員が入ったチャンネルを作ることで、全員がそれぞれ都合の良い時間に考え、チャット上で議論できるようにするという方法の導入です。どれだけ忙しい人でも、少なくとも毎日の通勤時間や隙間の空き時間はありますので、そこでスマホから議論の流れを確認し、気になる点があればひとまず一言、二言でコメントを書くこともできるようになります。そのような環境を作り、動かしていくことで、議論は大いに活性化するのです。

企業によっては、「役職者が対面での会議を重視する」「我が社のカルチャーにはチャットは合わない」と言った反論が出てくることも多いです。確かに、オンライン・オフラインに関わらず、重要メンバーが同じ時間に顔を揃えて議論することも時には価値があるかもしれません。しかし、今の時代において、チャットツールの活用にすら踏み込めないようであれば、おそらくその企業がDXを成し遂げることは、かなり難しいでしょう。


結論: 意思を込めて基本方針を定めよう

DXの成功に向けた戦略を議論する際には、最初から詳細なプランを作ろうとするのではなく、要となるポイントに集中して解像度を高め、キーパーソン間での共通理解と納得を醸成することが重要です。

そのためには、短期集中の長時間討議1回で済ませようとするのではなく、チャットツールなども活用し、一定期間の継続議論、すなわち「暦の時間」を取ることを通じて、内容を徹底的に議論していくことが成功に繋がります。

結論:暦の時間を重視し、議論の消化率を定めよう

以上、5つの記事にわたってDX戦略の策定における要件を議論してきました。成功するためには、これら5つの要素がそれぞれ高い水準に達していることが必要になります。またそれはあくまで戦略策定時点での必要条件であり、この5つに加えて、具体的な取り組みを設計し実行していくことが求められます。DXの成功に向けた道は条件はとても険しいのです。

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