見出し画像

決めたのに後で異論が出るのはなぜか


議論を尽くして決めたはずが…

私は、コンサルタントとして日本企業の方々にお悩みを聞くことが多いのですが、業界に関わらず多くの企業で同じような悩みを聞くことがあります。

その中の1つに、以下のような話があります。
「半日かけた集中討議で喧々諤々の議論をして、その時の結論に沿って動き出していたはずなのに、なぜ今更蒸し返されるのか…」
「あの部長は、いつも後になって反対意見を言い始める。自分も会議に出席していたはずなのに…」
「社長が前回までに言っていたことと、今回言い出したことがまるで違っている。これまでに積み上げてきた議論はなんだったんだろう…」

いずれも、経営会議や事業戦略会議といった重要な会議体で時間をかけて議論し、合意に至ったはずの内容が、後日、その会議に参加していた重要人物によって疑問を呈されたり、ひっくり返されたりするという話です。


「決めた後は従う」というルール 

経営に詳しい方であれば、
「決めるまでは反対意見でも遠慮なく出し合って、徹底的に議論をする。逆に、決めた後は全員がそれに従い、着実に実行する
というセオリーをご存知かもしれません。そのセオリーに従えば、一度決めたことを後日ひっくり返すような言動は、明らかにルール違反です。

だからこそ、運営力に優れた会議の事務局は、会議が始まる前に「意見があるとき、特に反対意見は、必ず会議の中で発言してください」と念押しします。また、決まったアクションプランと役割分担を最後に確認し、会議後には、決定事項の進捗を定期的にフォローしていきます。

このような進め方をする限り、面と向かって反対が出ることはほとんどありません。そして、多くの場合、事務局は高い評価を得られるでしょう。


ルールの限界

しかし、正しい進め方が明確であるにも関わらず、多くの企業で問題は解決していません。特に、本社部門よりも事業部の方が強い会社や、現場が独自に考えることを是とするカルチャーの会社ほど、会議で決められたことが覆りやすくなります。

これは単に「決めた後は従う」というルールが徹底できていないというだけの問題なのでしょうか。それともここには、もっと深い問題が隠されているのでしょうか。


集中討議が終わった瞬間の空気感

経営陣や新しい事業に挑むチーム、特別な任務を帯びた変革チームなどが、週末を利用して合宿形式で集中討議を行っている、そんな場面を少し想像してみましょう。

一日中続く長時間のセッションの中で、参加者全員が自分の意見を述べる機会を与えられ、喧々諤々の議論が行われ、最終的に今後の方針や行動計画についての合意に達したとします。

当然、参加者の中には、自分の提案が概ね受け入れられた満足げな人もいれば、ほとんどが否定されてしまって残念に感じている人もいます。しかし、十分に発言できる機会が確保されていたことで、少なくとも不完全燃焼ということはないようです。

そうなると、最後には参加者全員がその合意事項を受け入れ、今後は一致団結して前に進んでいこう、という前向きな空気感が醸成されやすくなります。

理想的にはこのようなイメージだと思いますし、実際にそういった集中討議を経験したことがある方も多いと思います。

さて、ここで質問です。この集中討議が終わった瞬間の状況を思い浮かべた時に、後日、異論が出てくるように思えるでしょうか。むしろ、この中から異論を唱える人が出てくるようにはとても思えない、という人も多いのではないでしょうか。

しかし現実には異論が出てきているのです。これはなぜでしょうか。


考えが変わり、新たな疑問が浮かぶ

その場で納得していたように見える人も、実は内心では納得しておらず、反論したいことを抱えていたのに、空気感に配慮して言えなかったのでしょうか。

もちろん「空気感に配慮して言えない」という場合もあります。だからこそ、事務局が発言を促すために働きかけるのです。しかし、どれだけその「空気感」を変えたとしても、すべての異論が消えるわけではないのです。

もうお気づきだと思いますが、時間を経て状況が変わってしまったのです。不思議なことに、集中討議の場では本当に全員が納得していても、後になって考えが変わったり、新たな疑問が浮かんだりする人が出てくるのです。

ここで、調和を重んじる人であれば、自分に新しいアイデアが浮かんできても、それはルール違反だからということで封印してしまいます。しかし、良い事業を作りたいと考えている人ほど、ルール違反であることも重々承知の上で、その新しいアイデアを共有し、議論を投げかけたくなるのです。それが「後になって出てきた異論」という形で表面化することになります。

また厄介なことに、良い事業を作りたいと考えている人ほど、そのようなアイデアを思い付いてしまうことが多かったりもします。


深く考えることが、後の異論を生む

良い事業を作りたい人ほど「後になって考えが変わったり、新たな疑問が浮かんだりする」というのは、運営上、非常に困った現象です。しかしこれには、それなりに理由があるのです。

集中討議の中で、参加者は深く思考を巡らせます。そうすると、討議が終わってその話題から離れた後も、深く考えた内容が頭の片隅(潜在意識)に強く残ります。そうすると、その後しばらくの期間は、別のことを考えている時に、それらの思考とうまく繋がり、当初は気づかなかった新しい視点に気づいたり、ぼんやりとしていたことがはっきりとイメージ出来るようになったりしやすいのです。

集中議論で深く考えることが頭の片隅に残り、数週間後の気づきに繋がる

人によって差はあると思いますが、例えば集中議論をしてから2-3週間の間にそういったことが起こりやすい人が多いようです。言い換えると、合意に至ってから2-3週間の間は、多くの人にとって、合意したことが安定しておらず、新たな考えが後から出てきてしまう期間なのです。

逆に考えると、何か重要なテーマがあるときに、それをしっかり議論したいという場合には、例えば、特定の日に4時間の集中議論など、十分な議論時間を取れば良いという話ではありません。そうではなく、合計4時間の議論時間を取る場合でも、議論していく期間(=暦の時間)を数週間確保し、その数週間の中で、合計4時間を何回かに分けて実施する方が良いのです。
(ただしその場合、毎回「前回の振り返り」を正しく行わないと、単に非効率な議論になってしまいますので、その点には注意が必要です。)


結論 ー「暦の時間」を長く取ろう

以上見てきたように、「後になって考えが変わったり、新たな疑問が浮かんだりする」のは、実はとても自然なことです。そしてそれらの新しいアイデアの中には、とても有用なアイデアが含まれているかもしれません。

会議後の異論を「ルール違反」として扱い、多くの人にそのようなアイデアを封印させることが本当に適切なのでしょうか。むしろ、それを勿体無いこととして、「長時間の集中討議が最適な結論を生むとは限らない」とか「後から出されるアイデアを取り入れると、より良い結論に到達できる」ということを考えてみるのはいかがでしょうか。

1回の集中議論の時間を十分に取るだけではなく、その議論を続ける期間、つまり「暦の時間」を十分に取ることがとても大切なのです。

結論 ー「暦の時間」を長く取ろう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?