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DXの実行者が持つべきマインドセット

DXの成功に向けた5つの要件

前の記事で述べたように、DXの取り組みが成功している企業には、正しい体制で正しい取り組み方をしているという共通点があります。これは、DX戦略の策定において「経営陣のスタンス」「実行者のマインドセット」「テーマ選定」「成果物の位置付け」「検討の進め方」 の5つの要件をそれぞれ正しく押さえているということです。

DX戦略の策定における要件

本記事では、前回の「経営陣のスタンス」に続き、2つ目の要素である「実行者のマインドセット」について詳しく説明していきます。


事業家マインドを持つ

DXは、デジタル技術を駆使して事業や組織を一新する革新的な試みです。業界においてまだ確立されていない領域への挑戦であり、経営陣の勇気あるリーダーシップと戦略的な視点が不可欠な取り組みです。そして、新たな挑戦であるがゆえに、経営陣が常に完璧な判断を下せるとは限りません。そのため、DXプロジェクトにおいては、それを推進する実行リーダーやチームメンバーのマインドセットが特に重要になります。

DXの実行リーダーや主要チームメンバーには、最前線で情報を収集し、試行錯誤を繰り返すことが求められます。ここで、たとえDX案件が上層部からの指示であっても、「指示されたからその通りにする」という考え方ではいけません。実行チームは単なる任務の遂行者ではなく、自らを事業家と捉え、主体的にプロジェクトを推進することが求められるのです。

事業家精神を持つことは、自分たちの行動が事業全体に与える影響を理解し、プロジェクトを前進させる原動力となります。また、経営陣に積極的にフィードバックを提供し、建設的な議論を行うことで、現場の洞察が組織の戦略に反映されます。さらに、実行リーダーやチームメンバーは、現場の知見や顧客からのフィードバックをもとに、経営層に具体的な提案を行うべきです。これはDXの方向性を正しく導き、プロジェクトの成功を左右する重要な要因となります。

プロジェクト全体を通して事業家としてのマインドセットを持ち続けることは、単なる調整役や管理者ではなく、自らが責任を持ち、事業の成功を最優先に考え、時には上司に意見するような役割を担うことを意味します。このような事業家精神が、困難な状況でもDXを前進させ、成功へと導くのです。

実行者のマインドセットの理想的な方向性


社内調整ではなく顧客価値を重視する

DXの道のりは容易ではありません。典型的な障害の1つは、収益基盤となっている既存事業や組織内で影響力のある人物との間で生じる利害の対立です。このため、DXプロジェクトを担当する者には、主要部門や社内のキーパーソンと協調し、彼らの要望に耳を傾けながらプロジェクトを推進することが求められます。しかし、この社内調整のプロセスに過剰に集中すると、プロジェクトの本質的な目的を見失うことになってしまいがちです。

本来、DXの全ての取り組みは、顧客視点(ユーザ視点)で取り組むべきであり、究極的にはエンドユーザのニーズを満たし、彼らに価値をもたらすことに集中すべきです。

例えば、新しいオンラインサービスを開発する際に、どのような機能を優先的に開発するかについて、社内の各部門の意見が対立していたとします。そういった場合には、社内の都合を優先するのではなく、最終的にユーザにとって最も価値のある機能を優先すべきです。そして、ユーザにとって魅力的で使いやすいサービスを作ることに注力し、作り上げたサービスを継続的に改善していくことができれば、それが圧倒的な競争優位性に繋がるのです。

このようなことは、事業家マインドを持つ実行者にとって、自身の決断と行動がエンドユーザの利益にどれだけ直結しているかを自問自答する良い機会となります。常に社内の利害関係の調整よりも顧客価値を中心に据え、多少の摩擦を恐れずに顧客価値を最優先に考えて進めることが、DXの成功には不可欠なのです。


主体性を持って外部活用する

多くの場合、DXは新技術の導入や未知の領域への進出を伴うため、全てを社内で実装できる一部のテクノロジー企業を除くと、外部のコンサルタントやITベンダーの力を借りないと進められないような状況が必ず生じます。

ここで、単に外部に全てを任せるのではなく、実行リーダーやチームがしっかりとした当事者意識を持ち、プロジェクトにおける主導権を持つことが重要です。つまり、外部の専門家の知識とスキルを最大限に利用しつつも、プロジェクトの方向性や意思決定については内部からの積極的な関与とコントロールを行うわけです。

具体的には、外部に仕事を委ねる際には、検討のプロセスを理解し、関連する議論に参加し、自らの意見を出して、適切な指示や依頼を続けることを意味します。例えば、経験豊富なコンサルタントやベンダーの協力を得てAIを活用した新サービスを開発する場合、どの機能がビジネスの要求に最も適合するか、またどのように顧客体験を向上させるかといったことは、事業を知る社内のメンバーが主導すべきです。外部ベンダーにプロジェクトのすべてを委ねるのではなく、内部チームが主体的に参加し、戦略的な意思決定を行うのです。

更に言うと、外部の専門性を活用するために始めたコンサルやベンダーの活用が、いつの間にか、多忙を理由にした単なる業務の丸投げに陥らないよう注意することも必要です。多くの企業で、ビジネスモデルの設計やソリューションの開発といった重要な部分が、いつの間にか実質的にほぼ丸投げ状態になっており、一方で社内のメンバーは社内事情への対応や社内の部門間調整に奔走している、という事態に陥っているケースが見られます。当然、そのような進め方でDXが最終的に成功に至ることはありません。

最終的に、外部の専門家の活用は、自社が持っている強みや価値を事業の成果にうまく変換するための手段に過ぎません。自社に何もない状態から、外部の専門家が価値を作り出すわけではないのです。だからこそ、自らが当事者意識を持って取り組みを主導していくこと、すなわち事業家としてのマインドを持ち、顧客視点で考え抜き、主体性を持って外部活用を進めることが重要なのです。


要件が満たされない場合には

以上のとおり、DXプロジェクトの成功には、実行リーダーやチームメンバーが正しいマインドセットを持ち、それを実際の行動に落とし込むことが不可欠です。しかし現実には、単に表面的な顧客視点を掲げたり、経営陣の意向に安易に迎合する行動をとったり、経営トップを満足させるためのアウトプットを作るために外部のコンサルタントを活用したり、といったような、真のDXの目標から逸脱してしまうケースが多々あります。

しかしながら、真のDXリーダーとしての資質は、一朝一夕に身につくものではありません。実際、そのような資質を持った人材の多くは、社会人として長年にわたり良い環境と指導者に恵まれ、多くの挑戦を経験することでそれを身につけてきたという場合が多いです。

そのため、特に伝統的な日本企業では、このような実行リーダーが圧倒的に不足しているのが現状です。実はこれは伝統的日本企業に限らず、外資系企業やコンサルティングファーム、スタートアップにも共通する課題であり、資質のある実行リーダーの確保はビジネス界全体の課題となっています。

上述の通り、そういった人材は短期間で育つものではないため、もし本当にDXで成果を上げようとすると、現実的には適任者を外部から採用するしかありません。DXプロジェクトを推進するために必要な専門知識と経験を持ったリーダーを確保することができれば、DXの成功に向けて着実に近づき、取り組みを加速することが可能となります。

ただし当然、外部から適任者を招聘する際には、その人材が組織の文化や価値観と合致しているかどうかを見極めることは必要です。DXの成功には、リーダーの資質だけでなく、組織全体の変革に向けた意識の醸成が不可欠だからです。


結論: 実行者のマインドセットが不可欠

DXの成功には、技術の導入や業務プロセスの改善以前に、経営陣の正しいスタンスに加えて、実行リーダーや主要なチームメンバーが、事業家としてのマインドを持ち、顧客視点を重視し、主体的に外部活用を進めることが不可欠です。いくら経営者がリーダーシップを発揮しても、実行者のマインドが正しくセットされていなければ、DXの取り組みは歪み、社内事情に応えるだけのものに成り下がってしまうでしょう。

もし適切なマインドセットを持つ実行者が十分に集まらない場合には、外部から適切な人材を採用する方が現実的かもしれません。それを通じて有望な若手人材を育成し、将来のリーダーに育てていくことで、いずれはDXの取り組みを拡大していくことが出来るかもしれません。

結論:「実行者のマインドセット」はDXの成功要件の1つ

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