DX戦略策定で作るべき成果物
DXの成功に向けた5つの要件
過去3回の記事で述べたように、DXの取り組みが成功している企業には、DX戦略の策定において、正しい体制で正しい取り組み方をしているという共通点があります。これは、下の図に示した5つの要件をそれぞれ正しく押さえているということです。
本記事では、以前の記事で述べた「経営陣のスタンス」と「実行者のマインドセット」「テーマ選定」に続き、4つ目の要素である「成果物の位置付け」について詳しく説明していきます。
「意思を込めた戦略」を作る
多くの企業では、DXに取り組む際に「正解」や「模範解答」を求めがちです。特に、既存事業が強く、業界で確立された強みを持つ大企業ほど、成功パターンを探そうとする傾向があります。DXの専門家の知見や先進事例を参考にして、専門的な手法に沿って調査や分析を進めれば、事業の成功に向けた正しい道に辿り着くと信じているのです。
しかし、DXは本来、新しいことにチャレンジする取り組みであり、確固たる正攻法が存在するわけではありません。たとえ実績のある「DXコンサルタント」でも、絶対に成功する鉄板のDX戦略を持っているわけではないのです。
DXに取り組む際に必要なことは、正解を探すことではなく、「経営陣や現場の意思を込めた戦略」を作ることです。その過程で調査や分析を行うこともありますが、それは正解を導くためのものではなく、あくまで考え、議論する際の材料を作るための手法に過ぎません。その材料をどう解釈し、自分たちが目指すことと照らし合わせててどのような示唆を抽出していくのかは、誰かに決めてもらうことではなく、経営陣や現場のリーダーが主体的に判断し、意思を持って決めていくべきことなのです。
「意思を込めた戦略」を作るためには、当然ながら、経営陣や現場リーダーが積極的に議論に参加し、自らの意見や考えを表明することが重要です。外部の専門家の意見を参考にするときもありますが、最終的には自らの意思で決断を下すことが求められます。
基本方針に過ぎないことを理解する
多くの企業では、DX戦略を具体的な行動計画と捉えがちです。戦略は本来、詳細な実行計画に落とし込まれるものであり、実行者はその計画上の指示を速やかに、そして正確に実行するべき役割を担うべきだと考えられています。
しかし、そのような考え方は事業における競争環境や勝ちパターンが明確な既存事業だからこそ当てはまるのです。DXにおいて事業を抜本的に変革したり、デジタルな新事業を生み出したりする際には、未知の領域に対して試行錯誤を繰り返しながら進むことが求められるため、そのような考え方ではうまくいかないのです。
DXに取り組む際には、戦略が基本方針に過ぎないことを理解することが必要です。戦略は進むべき方向性を示す羅針盤のようなものであり、具体的な行動は状況に応じて柔軟に変化させるべきものなのです。そして、実行者もそれを正しく理解しておくことが重要になります。
だからこそ、正しい経営陣のスタンスや正しい実行リーダーのマインドセットが必要不可欠なのです。戦略が基本方針であることを理解することで、実行者はその方針に沿って主体的に判断できるようになり、変化の激しい環境下で最適なアクションを取ることが可能になるのです。
要件を満たすためのヒント
「意思を込めたDX戦略」を作るためには、経営陣や現場のリーダーを中心とする適切なコアメンバーをアサインし、継続的に議論していくという方法が有効です。戦略の策定から実行まで一貫して関与するコアメンバーが、時間をかけて、自ら「自分達の基本方針」となるものを作り上げていくのです。
その際には、部門や役職を超えた多様な視点を持つ人材を選定することも大切です。自社の事業や組織について深い理解を持ち、DXの意義や目的を正しく認識している人材が揃っていれば、多様な視点からの意見が出され、より現実的で効果的な戦略を作り上げることができます。
コアメンバーが選定されたら、調査や分析で得られた情報を材料としながら、自社の強みや弱み、目指すべき方向性などについて深く議論していきます。それによって、コアメンバーは自社の強みや課題、目指す姿を深く理解し、共通認識を持つことができます。この共通認識こそが、自社にとって最適なDX戦略、つまり「自分たちの基本方針」を策定するための土台となっていくのです。
この過程で重要なのは、メンバー全員が主体的に参加し、自分の意見を積極的に述べることです。様々な視点から意見を出し合い、時にはぶつかり合いながら、最終的には全員が詳細に理解し、納得できる基本方針を作り上げていきます。それによって、戦略はより実践的で、現場のニーズに即したものとなり、実行段階でのトラブルを未然に防ぐことができるようになります。
結論: 意思を込めて基本方針を定めよう
DXの成功には、適切なコアメンバーが継続的に議論することで、経営陣や現場の意思を反映したDX戦略を作っていくことが必要です。また、戦略が具体的な行動計画ではなく、判断基準となる基本方針に過ぎないことを理解することも大切です。
自らの意思を込めて基本方針を定め、それを柔軟に実行していく体制を整えることが、DXの取り組みを成功に導くのです。