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“小鳥たち”のX'MAS⑥ saidサヨコ(【連載小説】ライトブルー・バード第2部《5.5》)
↓前回までのお話です↓
そして登場人物の紹介はコチラ↓
📍小暮サヨコ(アラサー) ハンバーガーショップでバリバリ働く、敏腕チーフマネージャー。毒舌の持ち主だが、頼りがいがあり、バイト生たちから慕われている。
📍白井ケイイチ(21) ハンバーガーショップでアルバイトをしながら、大学合格を目指している元サラリーマン。同性の幼なじみである土居ユウスケ(21)に恋愛感情を抱いているが、それを本人に告げるつもりはない。
📍星名リュウヘイ(17) 一応主人公。おバカだが素直な少年。
📍今泉マナカ(17) 容姿端麗で真面目な女子高生。
📍土居ユウスケ(21) ケイイチの幼なじみ。基本はチャラい。
更に相関関係図はコチラ↓(小説執筆ツール『Nola』で作成しました)
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《小暮サヨコ》
クリスマスムードが街から完全に消えてしまった12月26日。スタッフルームのパソコンとにらめっこをしていた小暮サヨコは、椅子に座ったまま思い切り背筋を伸ばした。
忙しさはこれからが本番だ。
クリスマス両日は年末年始の『前哨戦』でしかないと思っている。立地場所によっては、普段のディナータイムよりも売り上げが落ちてしまう店舗だってあるのだから……。
しかし今日からは、年末年始モード全開の客が財布のヒモを緩めながら、時間を問わずに続々と来店することだろう。チーフマネージャーとして、一時も気は抜くことはできない。
過労で倒れてしまうなら、せめて1月5日以降にしてくれよ……とサヨコは本気で思っている。
「先はまだまだ長げーなぁ」
サヨコはデスクの上に置いた栄養ドリンクを飲み干すと、再びパソコン画面に視線を落とした。
「あ、おはようございます。サヨコさん」
暗証番号でのロック解除と共に、部屋へ入ってきたのは白井ケイイチだ。
「オッス、ケイイチ。体調はもう大丈夫なのか?」
「はい、昨日まで休みをもらっていて助かりました。でなきゃ店に迷惑をかけるところでした」
「日頃の無理が祟ったんだ。気をつけろよ」
「はい。……ところでサヨコさん、リュウくんは来ていますよね?」
「リュウヘイ? あぁ、ちゃんと来ているぞ。どうした? リュウヘイとマナカの『デート』の結果が気になるのか?」
「……はっ!? 何でサヨコさんがソレを知っているんですか!!??」
ケイイチの目がメガネから飛び出しそうなくらい見開き、同時に口もポカンと開いた。
サヨコは何も言わずにニヤリと笑う。
「それに……よく考えたら、僕が体調不良で2日間ダウンしていたことだって、サヨコさんが分かるハズないですよね? 一体誰から聞いたんですか?」
「ユウスケだよ。まあ、『聞いた』というよりは『聞こえた』という方が正しいけどな。昨日、スタッフルームに入ろうとした時に、アイツのデカイ声が耳に入って、大体の状況を把握した」
「…………」
ケイイチの幼なじみである土居ユウスケが、リュウヘイとマナカの『クリスマスデート』を半ば強引に取りまとめていた時、ドアの外にはサヨコがいた……というワケだ。
「退職済みのユウスケが勝手にスタッフルームへ入るのは、あまり感心できないけどな」
「はい、スミマセン。ユウくんに頼んだのは僕です」
「まあ、理由が理由だし、今回は目をつむることにしたよ」
ユウスケが自分と遭遇したら気まずいとだろうと思い、彼が部屋を出たタイミングでサヨコは柱の陰に隠れて接触を避けていた。
「気を遣って頂いてありがとうございました」
「全くだよ。ワタシじゃなくて他のスタッフが聞き耳立てる可能性もあったんだぜ。ほら、マナカとあまり仲が良くないユリとか……」
「あ、そうですね」
苦笑いをするケイイチ。高校生スタッフの浅野ユリは、真面目で仕事が出来るマナカに対し、嫉妬の目を露骨に向けているから色々と面倒くさいのだ。
そんな彼女が2人のクリスマスデート情報をキャッチしてしまったら、きっとあることないことを周りに言いまり、日頃のうっぷんを晴らそうとするだろう。
「女子ってメンドクサイよな。本当はユリに注意したいけど、あの子の性格では逆効果だし、そもそもバイト先で諭すべき案件なのか判断に迷っている」
サヨコは溜め息をついた。
「まあ、今回はバレずに済んで良かったです。……で、リュウくんの様子はどうでした? けしかけた手前、やっぱり気になっちゃって」
「うん、ワタシも気になったから、リュウヘイに直接聞いた♥️」
「えっ? 聞いたんですか!?」
「あのバカ、好きな人の話になった時、『自分の好きな人は中学時代の同級生』って嘘ついたらしいぞ」
「あらら…」
「本当の気持ちがバレたら、マナカを困らせるから……らしいけど、クリスマスなんだから告っちまえば良かったのにな。リュウヘイは猪突猛進タイプのクセして、マナカのことになるとチキン野郎に早変わりするから笑っちゃうよ」
「それがリュウくんの可愛いトコロでもあるんですけどね」
「まあな」
「今泉さんに好きな年上男性がいることは、本人から聞いていました。でも彼女、今はその彼とリュウくんの間で揺れているような気がして……。だから、ついおせっかいを焼いてしまったというワケです。さすがに女の子側の気持ちを無視して、あんな事はできませんから」
「マナカの事、いつから気づいてた?」
「う~ん、3週間くらい前かな? リュウくんのことを見ている目が、今までと何か違うな……って思って」
3週間前といえば、マナカへのストーカー事件があった頃だ。店員と客の距離を無視してマナカに近づこうとした男を、リュウヘイが見事に撃退したらしい。
(やっぱりな~)
サヨコも薄々感じてはいたが、ケイイチの言葉で確信に変わった。
リュウヘイとマナカの距離は確実に近づいている!!
「サヨコさん、めちゃくちゃ嬉しそうですね」
「当たり前だろ? 2人ともワタシの可愛い可愛いバイト生だもん♥️」
「はい。でも、これからは黙って見守ったほうがいいかな……とは思っています。それにしても、周りが気づいているのに、本人たちがお互いの恋愛感情に気づいていない……って、何だか微笑ましくて可愛いですね」
「……お前もな」
サヨコの口から、ボソッと言葉がこぼれ落ちる。
「えっ? サヨコさん、何か言いました?」
「えー、あー、サヨコ何も言ってないよ♥️」
わざとらしく首を横に振ったサヨコだったが、おもむろにイスから立ち上がると、不敵な笑みに表情をチェンジさせた。
そしてケイイチの肩に手を掛ける。
「リュウヘイとマナカの話はここでオシマイ。次はケイイチの番だよ。ユウスケとクリスマスに何かあったのか知りたいなぁ♥️ ヤツの話から察するに、クリスマス両日は、ずっとあのマンションで過ごしていたんだろ? ふ・た・り・き・り・で♥️」
「サヨコさん! 言い方っ!!」
まさか自分に向くとは思っていなかったサヨコの好奇心に、ケイイチの顔がひきつる。
「だってクリスマスだよぉ?」
「僕は体調不良でずっと寝ていましたし、そもそもクリスマスだからといって、男同士の僕たちには何も起こりませんから! 僕の一方的な感情なので、ユウくんに彼女ができたら、フェイドアウトするつもりですし」
「あ、ケイイチの首筋にキスマーク発見!」
「何も起こっていないので、そういう手口には引っかかりませんよ」
「チッ、つまんねーの」
ケイイチに絶交された時、自分に泣きついてきたユウスケの顔を是非とも見せてやりたい……と、サヨコは心の中で爆笑していた。
「自分の恋愛に未来はないので、その分、リュウくんには報われて欲しいと思っています」
「はいはい分かった分かった。ところでさぁ、さっきからお前のスマホの通知音が半端ないんだけど……。ワタシに気にせず確認しろよ」
「あ、すいません」
そう言ってリュックからスマホを取り出し、LINEを開いたケイイチだったが、次第に彼の顔は能面のように真っ白な表情になった。
「どうしたケイイチ? もしかして新手のSNS詐欺にでも引っかかったか?」
「いいえ。その……なんて言うか……」
「はっ?」
「……ユウくんがバカ過ぎて」
ケイイチは右手で頭を抱えなから、左手に持っているスマホの画面をサヨコに向けた。
「えっ? 何? 見ていいの?…って、うわぁ!」
YU-SUKE 『ケイ、身体大丈夫?』
YU-SUKE『何かあったら早退させてもらえよ』
YU-SUKE『無理すんなよ』
YU-SUKE 『返事ないけど大丈夫か?』
YU-SUKE『ケイ、ちゃんとバイト先に着いたの?』
YU-SUKE『ケイ?』
YU-SUKE『オ~イ生きてる?』
And more……。普段のサヨコなら秒でからかう所だが、同じようなメッセージがあまりにも多すぎて、思わず引いてしまった。
一方、大量メッセージを受け取ったケイイチは、画面を高速でスクロールして、更に高速で指を動かす。
白井ケイイチ『生きてるよ! そしてウルサイ!』
「……ふぅ」
冷酷なメッセージを送り、溜め息をつくケイイチ。そして彼はスマホをサイレントモードに切り替えると、いつもの笑顔をサヨコに向けた。
「あ、サヨコさんお騒がせしました」
「……あ、あぁ」
画面の向こうにいるユウスケのメンタルがちょっと心配になってしまった。
「じゃあ、僕はそろそろ店に入りますね。クローズまで頑張りましょう。お願いします!」
「……おぅ」
身だしなみを整えたケイイチが、スタッフルームを出たのと、サヨコのスマホにLINEの通知音が鳴り響き始めたのは、ほぼ同時だった。
確認しなくても分かる。傷心ホヤホヤ(?)のユウスケだ。
「全くよぉ。お前らもさっさと相手の気持ちに気づけっつーの!!」
まあ、それでもこのバカ共をメチャクチャ眩しいとは思っている。
ケイイチとユウスケだけじゃなく、リュウヘイもマナカも……。
「さーてーと」
デスクに戻り、再び作業を開始。そして指をカタカタ動かしながらサヨコは一言呟いた。
「やっぱり若いっていいねぇ❤️」
《クリスマスTHE LAST 》↓に続く