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【連載小説】ライトブルー・バード<14>sideカエデ④
前回までのお話です↓↓
↓そして登場人物の紹介はコチラ↓
山田カエデ(17) 中学時代はクラスのまとめ役だったが、現在は女子グループ内での上下関係に悩んでいる。隣の家に住む幼なじみの星名リュウヘイに片思い中。
星名リュウヘイ(17) 本作の主人公。カエデと同じ高校に通っている。勉強は出来ないおバカだが真面目で優しい性格の持ち主。同じバイト先の今泉マナカに片思い中。
井原サトシ(17) 小3からカエデに片思い中のイケメン高校生。運動神経も抜群で、学校ではかなりモテるが他の女子には興味なし。イケメン度と共に残念度も高め。
板倉ナナエ(17)カエデが所属している『一軍女子グループ』のリーダー。美人でスタイル抜群だが、女王様的な性格でカエデを困らせている。サトシに好意を持っているものの、全く相手にされず…。
教室に入った瞬間、山田カエデの目に飛び込んできたのは、グループのメンバーであるミサとアサミのニヤニヤ笑う顔だった。
おそらくこの2人は、カエデが動揺するような情報をゲットしたのだろう…。間違いなく自分に向けられている視線でカエデはそれを悟った。
『早く口に出してしまいたいが、今ここで暴露してしまうのは勿体無い…だから今は<匂わせる>ことでカエデをじわじわ揺さぶってやろう…』という彼女たちの心の声が駄々漏れだ。
下品過ぎて吐き気を覚える。
彼女たちが喜ぶのは星名リュウヘイ絡みのネタだと思うのだが、今のところ思い当たる節はない。
(またテストの成績で、リュウヘイのことをどうこう言うつもりなのかな? いい加減聞き飽きたんだけど…)
そんなことを考えながらカエデは2人の横を通りすぎ、自分の席へと向かう。
「おはようカエデ」
笑いを噛み殺したような2人の声に内心呆れながらも、笑顔で「おはよう」と告げるカエデ。
「…カエデ」
「何?」
「あ、何でもなーい」
「…あ、そう」
もういい加減にして欲しい。…いや、モヤモヤしたらこちらの負けだ。カエデは席に着くと、何も気にしないフリをしながら教科書類を机の中に入れた。
結局、ミサとアサミはその情報を昼休みまで大事に隠し持っていた。そして得意気な表情で暴露したのは案の定リュウヘイの話。しかしそれはカエデが1ミリも想像していない内容だった。
「ねぇカエデ、アンタの『ダンナ』浮気してるよ」
☆
カエデの反応はミサとアサミを大いに満足させた。
「うわぁ、カエデったらめちゃくちゃ動揺してる!! やっぱりアンタ星名のこと好きなんじゃない?」
「それは前から違うって言ってるでしょ!? でもね、『浮気』なんてワケの分からないワード言われたら、フツー誰だってビックリするよね?」
「はいはい」
カエデの訴えが右から左に流されるのは、いつものことだ。しかしリーダー格の板倉ナナエが発言すると、一瞬空気がピリッとする。
「で、アナタたちはその『浮気』現場を見たってワケ?」
「そうそう」
「見た見た」
まるでナナエに『お手柄』を誉めて欲しいと思っているような態度だ。さすがにカチンときたカエデは思わず語気を強める。
「ねぇ、リュウヘイは私の『ダンナ』じゃないんだから『浮気』って言わないで…」
「カエデは黙ってて!!」
「…………」
それでもナナエには敵わない…。
「ミサ、アサミ、話を続けていいよ」
ナナエのGOサインで2人は更に調子に乗ってしまったようだ。
「…でね、星名の浮気相手は誰だと思う? これはナナエもビックリすると思うよ。だってあの今泉マナカだもん!!」
「えっ!?」
「えっ!?」
カエデとナナエは同時に声を上げる。マナカは井原サトシ絡みでナナエから一方的に恨まれているのだから…。
「ウチらね、この間の土曜日に駅近くのカフェに行ったんだぁ。そしたらね、あとから星名と今泉マナカが店に入ってきてさ…」
「うんうん、2人でパフェ食べてたよね。そういえば星名のヤツ鼻の下伸ばしていたなー」
「ねー!!」
ミサとアサミは顔を見合わせてキャッキャと笑う。
「ふ~ん、アナタたちカフェに行ったんだ?『2人』でね」
突然、ナナエの矛先が予想もしなかった別の角度に向かい、2人の顔色が変わった。この3人は1年生の頃からクラスが一緒で、カエデよりもつるんでいた期間が長い。だからなのか、自分が知らない所でミサとアサミだけの『勝手な』行動はナナエ的に許せないようだ。
おそらく2人はナナエの悪口で盛り上がり、日頃のうっぷんを晴らしていたに違いない。とんだ仲良し3人組だ…とカエデはこっそり思った。
「な、ナナエも誘おうと思ったんだけど、確か用事があるって聞いていたから…」
ミサの取って付けたような言い訳をナナエが受け入れたのは、リュウヘイとマナカの話題の方に興味をそそられたからだろう。2人の『過失』を「ま、いいわ…」で一言終わらせたナナエ。そして今度は嬉しそうな表情でカエデに顔を近づけた。
「カエデ、前に今泉マナカの話題になった時、『彼女のこと知らないから…』って言ってたよね? でも聞けば聞くほど、あのオンナ、ビッチだと思わない? 井原くんに馴れ馴れしいだけじゃなくて、カエデの『ダンナ』にまで手を出して…」
「…………」
「ああゆう大人しそうなヤツに限って、裏ではオトコ漁っているんだよねー」
「ホント、男ってああゆう『なんちゃって清楚系』に弱いよねー。ダメじゃんカエデ。自分のダンナにはしっかりと首に縄をつけておかないと…」
大笑いする3人。
「マジで不愉快なオンナ!!。…ねぇ、カエデもそう思うよね?」
ナナエが投げ掛けた言葉に対して、もはや同意以外の選択肢はあり得なかった。
ナナエに従う…それがこのグループでやり過ごす為の唯一の方法なのだから…。
☆
この季節、各運動部は17時半で片付けが始まり、18時には下校時刻を迎える。
既に真っ暗になった空の下、カエデは体育館の側でサトシを待っていた。今は丁度18時。体育館の中からぞろぞろと男子バスケ部のメンバーが出てくる。長身揃いのバスケ部ではあるが、サトシはその中でもかなり目立つので、すぐに見つけることが出来た。
「…カエデ?」
暗がりの中、向こうもすぐにカエデに気がついた。
「サトシ…あのさ、ちょっと…いい?」
「お、おぅ…。あ、お前ら今日は先に帰ってて」
サトシがメンバーにそう声を掛けると、彼らは「相変わらずサトシはモテるね~」と言いながら体育館を後にした。「でもさ、サトシって『待ち伏せ女子』のことは基本無視するのに、今日は珍しくね?」という声がカエデの耳に入る。
そして今は体育館の横で2人きり…。
そういえばあの『寸止めキス事件』以来、まともに顔を合わせていないことをカエデは思い出した。サトシも同じことを思ったのか、気まずそうな顔をして指で頬をポリポリと掻きながら「え~っと、…この前は…大変申し訳な…」と言いかける。
「それはもういいよ。…あのねサトシ」
「ん?」
「私、あのグループを抜けた!!」
「えっ!? マジで!?」
「うん。今日、どうしても我慢できないことがあって…」
サトシは最初こそ驚いたものの、表情を緩めて顔いっぱいに笑顔を作った。そして腕を伸ばし、カエデの頭に自分の大きな手のひらを置く。
「よくやったカエデ…」
「…う、うん」
(サトシのこんなに笑った顔…久しぶりに見た)
「怖くなかったか?」
「…ちょっと…怖かった…かな」
「そっか…。あ、カエデ…オマエちょっとここで待ってろ。俺、職員室に体育館の鍵を返しに行ってくるから…」
そう言い残すと、サトシは全速力で校舎へと向かった。
「………」
サトシの笑顔を見たことで、カエデの脳裏に小学生時代の記憶がよみがえった。今でこそクールなモテ男子のサトシだが、小学生時代はあんな風に笑顔を見せていたよね…と。
いじめっ子に壊された工作をカエデが直してあげた時もさっきと同じ笑顔だった。
(なんだかんだいってもサトシは変わっていないね…)
☆
マナカへの悪口を強要された昼休み。賛同したくないカエデの背中を押したのは、数日前のサトシの言葉だった。
『あいつらといると、オマエのいいところが全部潰されてしまうぞ!!』
(…そうだよねサトシ)
カエデはそっと深呼吸をすると、ナナエの顔を真っ直ぐに見つめた。
「何? カエデ」
「あれから私、今泉さんとちょっとだけ話す機会があったけど…」
「………」
「私は彼女を『イヤなオンナ』だとは思わない!!」
想定外の事態にポカンとするミサとアサミ。そしてナナエは綺麗な顔を一瞬歪ませたが、カエデの『反撃』は止まらなかった。
「超個人的な感情で私をキタナイ人間にしようとするのはやめて!! …ってゆうか、嫉妬くらい自分自身で処理しなさいよ!!だからアンタはサトシに相手にされないのよ!!!」
黙りこむ3人に向かって、カエデは「私、もう付き合いきれないから!!」と言い放ち、自分の席に戻った。
カエデの心臓がはちきれそうになったのは、その直後だった。
☆
カエデから話を聞いたサトシは「派手にやったな…」と苦笑いをする。
「でも、板倉ナナエがあのまま黙るとは思えねーな。カエデ、何かあったら俺に言えよ」
「うん、ありがとう」
バスを降り、2人は公園の横を通りすぎようとしていた。園内に設置された青いイルミネーションは相変わらず地味に光っている。
「…にしてもアイツら、今泉のことまで色々言ってたのかよ。女じゃなかったら絶対ぶん殴ってたぜ。え~っとカエデ、今泉のこと庇ってくれてありがとな」
「うん、幼なじみの好きな人を悪く言いたくないもん」
「だから違うって!!俺と今泉は…」
「リュウヘイだよ」
「へっ?」
「リュウヘイは…きっと今泉さんのことが好きだよ」
「………」
ミサとアサミの話でカエデは確信した。リュウヘイの意中の相手がマナカなら、急にバイトを始めたことも、ストロベリーパイを一度に10個買ったことも納得ができる。
そもそも今まで気がつかなかったことの方が不思議だ。相手の正体を知りたい!…と強く思いながらも、心のどこかで怖がっていて、一番近いヒントから無意識に逃げていたのかもしれない。
「リュウヘイのヤツ、バカのクセに女の子の趣味はいいと思うよ」
あっけらかんと言うカエデをサトシは何も言わずにじっと見つめた。
「な、何サトシ?」
「…オマエ、いいヤツだな」
「えっ?」
「『好きなオトコの好きなオンナ』の悪口を言わなかったところ」
「えっ? えっ? えっ? 何? サトシまで誤解してんの? 私、リュウヘイのことなんか…」
「そういうの、もういいから!!」
サトシは口調を強めると、そのままカエデの頭に腕を回し、自分の胸に押し付けた。
「サトシ?」
「じゃあ、何で目から水が出そうになってんの? 暗いからバレてないと思った?」
「………」
「そうゆう強がり、俺の前ではいいから」
その言葉を聞いた途端、 カエデの目からどんどん涙が溢れた。マナカには好感を持っているが、やはりツラいものはツラい…。
泣きじゃくるカエデとそれを受け止めるサトシ。青いイルミネーションがそんな2人を優しく包みこんだ。
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