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【かつらのお話:女形の襟羽二重】



女形襟羽二重・表

女形の鬘の、襟部分の部品です。
羽二重に人毛が植えてあります。

こんにちは。京都時代劇かつらです。

今回は女形三ッ襟の地金に貼る

女形の襟羽二重


のお話です。

羽二重とは絹生地の種類の名称で、
着物だと黒紋付や色紋付、いわゆる紋服などに使われる絹織物の種類の一つで、美しい光沢があります。

羽二重ならではの光沢

その白生地に女形の三つ襟を象りし、刺針に数本の人毛を引っ掛け、一針一針植え付けていきます。
ちなみに、毛を植え付けることを【毛を刺す】と言います。

女形襟羽二重・裏
拾う毛髪の本数を変えて刺していく

この三つ襟の形が鬘として最後結い上がると、女性の襟足の特徴である【うなじ】の表情を現してくれます。

歌舞伎や日本舞踊などの古典の鬘は、生え際の【刳】も羽二重に毛を通した物を使い、美しい様式美を醸し出しています。

いかに美しく、また自然に見える生え際を表現するか。
江戸時代の歌舞伎役者初代尾上松助と共に
【伝説の鬘師・友九郎】
がその表現の材料に羽二重に目をつけ、工夫して羽二重鬘を作り出したと伝えられています。
その羽二重鬘は、芝居の表現が大いに幅を広げることになった一助にもなったといいます。
羽二重鬘を完成させるまでにどれだけの工夫と苦労があったことでしょう。

そんな友九郎は、江戸時代の読み物、『於染久松色読販』にも【鬘師友九郎】として岩井半四郎の楽屋内の挿し絵で描かれています。
友九郎は眼鏡を掛け、これぞ職人という雰囲気です。
また面白いのが、使っている道具が現代と全く一緒で、かつら師の七ツ道具でご紹介した鶴首台もしっかり描かれています。
初めてこの挿し絵を見た時、江戸時代から形も変わらず使われ続けてきたのかと、びっくりした記憶があります。
色々と想像が掻き立てられ、ずっと見ていられる楽しい挿し絵です。


さて、話を羽二重に戻しましょう。

羽二重はまた、毛を刺して使うだけでなく、鬢付油を溶かし生地に染み込ませてドーランで肌色や青黛を塗り、鬘下地に使用します。

そう、武士や町人などの中剃り鬘の
【月代(さかやき)】部分です。
あの月代部分は、動物の革でもゴムでもなく、
正絹でできた羽二重なのです。

江戸時代は男性は皆、【月代】を剃っていたので役者はそのまま鬘を掛ければ問題なかったのですが、明治に入りザンギリ頭になるとそれを隠す為に鬘下地が考案されました。

そこでも使われたのが羽二重でした。

鬢付け油を染み込ませた羽二重はほんのり琥珀色の半透明となり、丈夫になります。

そして丈夫になるだけでなく、頭への密着が増し、シワなく伸びるので色を掛けると皮膚のような雰囲気となります。

そして羽二重を頭に巻くと鬘の落ち着きもよくなります。

そんなところから、鬘に関して言えば

『羽二重』=鬘下地。

鬘下地のことをただ単に『羽二重』と呼びます。


本来なら生地の種類の名称なのに、道具や材料の名前に変化する。

仕事仕事によって、一般名称のさすところの意味と各業界での名称が、各々ちょっと変化しているのも、様々な仕事ならではで、色々と楽しいですね。

さて、次回はまたこの襟羽二重に変化を加えていきます。
どうぞお楽しみに。

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