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鳥を見ることでしか自分の立ち位置を確認することが出来ない私の異国生活

土曜日に部屋の中で一人読書に浸っていると外からゴゴゴゴゴッゴゴゴゴゴッと、大きな音が響き渡る。
一カ月ほど前まで住んでいた実家でも同じような音をよく聞いて過ごしていた。裏にあるホテルの取り壊し作業が行われていたからだ。だからしばらくはその音にも無反応な自分がいたのだけれど……
いやっちょっと待て。今日は土曜日。この国では土曜日まで働こうとするもの好きなんていないはず。

イヤな予感がする。
恐る恐る音のする方へと近づく。窓から外を覗いても、テニスコートが見えるだけで変わったことは何もない。もちろん重機なんてものも見当たらない。

それでもまだ音は続いている。

ゴゴゴゴゴッゴゴゴゴゴッ

少しくぐもった様な、これまでに聞いたことがあるようなないような、そんな不思議な音。でも少しだけ建物が揺れている。

変な夢でも見ているのか? と不安がよぎったのほぼ同時に、見たことのない1羽の鳥が音がしていた方向からふわっと舞い上がり、私から数メートル離れた壁に、器用にしがみついていた。
頭に赤い毛が生えていて、身体は黒と緑と白。こんな鳥見たことないな。

うん? 待って! それより、鳥って縦向きにしがみつけたっけ?

カメラを構えようとする私にその鳥も気づき、撮り逃した私はそこでようやく気が付いた。

鳥に対する知識を持ち合わせていない私でも知っている鳥がいるじゃないか。縦にしがみつけて、かつあの工事のような音を立てる鳥。

そう、きっとキツツキだ。

この時に感じた空気の匂い、鳥の色、壁をつつく音、それらが、この国に来て半月経った私に、”君は今異国にいるんだよ”と知らせてくれた。


国土は日本の約1.5倍にもかかわらず、人口は6,000万人程度と日本の約半分という広大な自然と共存しているそんな国、フランスに半月ほど前に到着した。ヒトはあくまで自然の一部であることをしっかりと皆が理解しているような、そんな国(だと私は今のところ認識している)。

この国に住むのは(旅行を覗いて)実は3回目。
1度は2ヶ月の留学、2度目は1年間のワーホリだった。当時はまさか仕事でフランスに来られるなんて思っていなくて、ワーホリから帰る頃には”今後は旅行で数回くるぐらいかな?”なんて思っていたのだけれど、有難いことにまたここに戻ってくることになった。
縁と言うのは不思議なもので、私は特にフランスに憧れていた訳ではないタイプだった。周りではフランスの街並みが好き、音楽が好き、料理が好き、お菓子が好き、フランス人と結婚したい! 様々な思いを持って生活し始める人が大半を占めているのだろうけれど、私には全くそんなものはなかった。
確かに食べるのは好きだけれど、日本でも美味しいものは食べられるし……と、あまり興味を持っていなかった。

でも、日本にいる外国人と話している人はカッコイイなと子供の頃から思っていたように思う。
それ加えて新卒で入った会社で岡山と言う全く知らない土地に赴任することになったものだから暇で仕方なく、少しでも充実させようと始めたのが、たまたまフランス語だった。英語は日本人でも話せる人が多いし……まぁ、嫌ならやめればいいし! と軽い気持ちで始めたからこそ、今こうしてこの場所に立っていることに実感が持てていないのかもしれない。

もちろん買い物に行くと周りはフランス人で、窓に映る自分の顔は明らかにアジア人で、でも、私はその風景を数年前に何度も見ていたから、なじみのある場所に立っているなと思う程度だった。職場も日本人が多いし、あまり不自由はしていない。ネット環境が悪いのは否めないけれど、それ以外に不自由はしていない。食事も週末を覗いて提供されるし、部屋も与えられれている。

1年半前にコロナで渡航できなくなった時はあまりにフランスが遠いところに行ってしまったような気がしていたのだけれど、着いてしまえば案外なんてことなくて、新しい仕事を覚える日々だけがいつもと違うような気がしていた。

だから、そろそろ異国に来たことを理解しろよとあのキツツキが知らせに来たのだろうと思う。いつまでも日本と同じ生活をしているんじゃないよと、この国に馴染んだ生活をしろよと。

日本にいる頃から、この職場に頼り切っていてはフランスらしい生活は出来ないと言われていた。振り返ると、確かに私は日本人に頼り、その中で生活をし続けている。その生活がダメだと否定するわけでもないのだけれど、その選択を自らしているわけではなく、ただ心地いいからそうしているだけと言うことに気が付き、少し焦ったりもする。

もう少しフランス人に囲まれて生活がしたい。
フランスにいて、それが中々難しい環境にいる。けれど、きっとできない訳じゃない。

今私はフランスにいてに日本人に囲まれて生活をしている。
鳥を見ないと今の現在地を確認できない私だけれど、現状から少しずつ抜け出したいなんて、そんなことを思っていたりする。

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