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自治体職員の仕事に関する特殊事情考。上司との関係編。

上司の命令について


地方自治体における、上司と部下の関係を考える上で、まず、押さえておきたいのが、「地方公務員法」という法律で、自治体職員は、それを守らなければならない。

以下は、関連する部分の、抜粋だ。

地方公務員法、第三十二条では。
「職員は、その職務を遂行するに当って、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」
と、されている。

民間企業の場合は、就業規則などで、上司の業務命令に従うことが、明記されている場合もあるかと思うが、一般的な自治体職員の場合、法律で規定されているのが特徴だ。

ちょっとお堅くなるけど、同じ、地方公務員法の第三十条で。
「すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。」
とも、規定されているので、住民のために、仕事をすることが、大前提にもなっている。

そういう訳なので、普段は、強く意識していないかもしれないが、上司と常に相談しながら、そして、上司の指示や命令に従うのは、当たり前のこととして、仕事をしているのが実情だ。

私が勤めていた岡山県庁では、5千人くらいの職員(教職員や警察官は別で)がいたが、例えば、本庁であれば、職務等級(階級)が一番下の「主事」から始まり、一番上の「知事」まで、決裁権者は案件(事業や取組の規模・内容など)によって異なるが、最大10段階くらいの職務区分があるので、いちいち関所を通るように、上司の判断を仰いでいくことが必要だった。

当たり前だが、若い職員が、職務等級が高い上司に対して、直接、説明する機会は限られているし、ましてや、真っ正面から異を唱えることは、常識的にはあり得ないことで、実際、私自身、長い県庁生活で、目にしたこともない。

それは何故かというと、おおよそ、年功序列の世界の中で、上司に嫌われたり、評価されなかったりして、いわゆる左遷扱い(例えば、同期より昇任が遅れる、通勤できない勤務地に異動になるなど)になると、組織内でも「そういうやつだ」という評価が定まり、日の当たる職場での勤務や、主流の役職に就くことなく、定年まで過ごすことになってしまう。大げさに言うと、そんな恐怖感が、少なからず、職員の心の中にあるからだ。

県庁に在職していた当時、いろんな職場で、いろんな上司が。

「紙切れ1枚で、どんなところでも行かなければならない。異動を断るのは、辞める時だ。」
みたいなことを、よく言っていたものだ。

このあたりは、民間企業と共通する点も多いとは思うのだけれど、こと上司の命令に従わなければいけない根拠の部分については、自治体特有の事情もあるということだ。

ここに挙げた私の例は、県職員の話だが、例えば、小規模な市町村職員の場合だと、住民との距離が近いので、職場の中の人間関係や、噂みたいなものは、自分や家族の日常の生活に、影響を及ぼしてしまうかもしれないし、組織が小さいと、人間関係がまずくなると、普段の業務にもいろいろ支障が出てしまう、というようなことも想定されるので、都道府県職員のような、遠くの勤務地への異動の恐怖はないかもしれないが、もっと大変で、気をつけなければいけないことが、多そうな気がする。

いずれにしても、組織の大小に関わらず、上司に逆らったり、強く意見を言ったりすることは、とても勇気がいることだし、何よりも、根拠や信念がなければ、なかなかできることではないと思っている。

加えて大事なのは、賛同者(味方)で、それがいなければ、いくら正論だったとしても、気力が続いていかないし、物事を前に進めることができずに、潰されるか、立ち消えになってしまう。

なので、上司との関係において、あるときはストレスを抱き、あるときは諦めながら、またあるときは忖度をしながら、仕事をしている自治体職員も多いと思う。

上司への説明や説得


ところで、「上司を説得する」、「上司に自分の考えを理解してもらう」時に、何が必要なのだろうか、考えてみた。

これまでの間、私が少なからず関係したケースや、目の当たりにしたケースで、部下が、強く主張したのに、上司(決裁権者)を説得できなかった原因は、大きく分けると、3つあるのではないかと思っている。

1つ目は、上司との「価値観の相違」。

これは根本の問題なので、いくら話しても、平行線で終わることが多い。
どこの組織でもあるあるだが、自分の経験や知識など、ものさしが違っている場合や、好き嫌いの話になると、第三者を議論に参加させるなどしない限り、上司を説得するのは難しい。

2つ目は、根拠がないとか、根拠に乏しい場合。

これも、当たり前だけど、説得するのは、なかなか難しい。
たとえ上司を説得できたとしても、その上の上司とか、組織全体のコンセンサスを得ていくことは、根拠がないと、まず不可能だ。

3つ目は、説得しようとする者(こちら側)の、熱量の問題だ。

正当な根拠があって、上司もその案件に対して、さほど反対する理由がなくても、説明するほうの、「正しい」とか、「ぜひやりたい」という気持ちが伝わらないと、理由もなく反対されてしまうとか、保留扱いになって、物事が進んでいかないというのも、よくあることだ。

やはり、少なくともこの三拍子が揃わないと、上司を説得して、自分のやるべき仕事を進めていくことは、基本的にはできないのではないだろうか。

誰のためなのか


さて、もう一度、自分のことを振り返ってみる。

40代後半で退職するまでの、30年近い県庁生活で、明確に上司に逆らったのは、1回だけだ。

部下2人と一緒に、職階が3つも上の上司のところに突撃して、一歩も譲らず正論を押し通し、大きな判断を変えてもらったことがある。

そこまでしたのは、話し合う時間がなかったのと、特殊な要件が重なっていたので、仕方のない出来事だったのだけど、こちらの覚悟は、相当なものだったし、記憶が強烈過ぎて、思い起こすだけで、脳みその温度が上がるようだ。

格好つけてるわけじゃないけど。
「これは、県民のためだ。」
「ここで引き下がれば、この先ずっと、自分を恥じるようになる。」

その時は、心の中で、そう思っていた。

そのケースでは、しっかりとした根拠と、同志(仲間)がいたので、突撃のような形でも、成功したのだけど、普通だったら、上司であっても、同僚であっても、部下であっても、まずは、丁寧に、率直に、話し合いをしたほうがいい。

そして、繰り返しになるが、上司に意見したりすることは、なかなかしんどいことだ。

だから、やっぱり最後は、自分のためでなく、「住民のため」ということを、忘れないようにしないといけないと思う。

熱い志を持って、上司と熱く議論する自治体職員が、どんどん増えていけばいい、そういう職場が当たり前になればいい、そういうことを願っている。

では、また、今度。

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