近作紹介:「海のいえ、風の工房」
「海のいえ、風の工房」。
春のあたたかな日曜日、久しぶりに湘南新宿ラインに揺られ、再訪。
暮らしぶりを拝見がてら、完成写真の撮影を行ってきました。
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神奈川県、海岸すぐ近くに建てられた「家」。
家でありながら、家っぽくない。
ラフで自由なライフスタイルの実現と、ワークショップやパーティーを気軽に開催できる、まさに「開かれた家」。
「家」の概念をちょっぴり拡張した楽しい場所ができあがりました。
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外壁は、無垢の木材、塗装なし。
まずは外観から。
壁にはアメリカ西海岸産のレッドウッド材を、あえて「塗装なし」のそのままで使用しました。
1枚目は正面写真。
海からの潮風にさらされて、すっかり色素が抜けて、早くもシルバーグレーのいい感じになっていますね、
建物の2階左部分は、木格子で囲われたアウトドアダイニング(ウッドデッキ)です。心地よい屋外の風を感じながらもプライバシーが守られるようになっています。
建物の右下部分(ミニクーパーの後ろ)には、外壁にシャワーを取り付けています。その横の扉から浴室へ直接入ることができ、歩いてすぐの海で波乗りしたあと、すぐにお風呂に入ることができます。
つぎに横からの写真。
肩肘張った「カッコいいデザイン」を注意深く回避して、あくまでも「自然体」。決まり事に左右されない自由な心をもつ施主ご家族のライフスタイルそのもののようです。
住宅っぽくないエントランス。
建物のアプローチでは、地元の専門家といっしょにセレクトした植物や施主手づくりの木工品などが出迎えてくれまます。
そして、このスペースの奥、大きなガラス扉をあけて室内に入ります。いわゆる「住宅の玄関ドア」っぽいくありません。むしろ、海辺のショップの入口っぽい感じかな。
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さて、建物の中に入りましょう。
扉をあけると、そこは「玄関」ではなくて、大きな土間スペース。
いきなり薪ストーブのあるリビングルームのような空間です。
ここでは、趣味の木工作や、サーフボードの手入れ、コーヒーを飲んだり、夜はお酒を飲んだり、時々仲間を集めてワークショップをおこなったり…
機能や目的を限定しない、じつに自由でユニークな場所になっています。
薪ストーブの横に、2階へ上る黒い鉄製の「らせん階段」。
1階の各部屋(寝室や納戸、書斎、トイレやお風呂への入口)は、このらせん階段と土間を中心にぐるりと配置されています。
土間から各部屋へ。この家には「廊下」が、一切ありません。
玄関もなく廊下もない。しかし、目的を決めない自由な「土間」がある。
どうですか。面白いでしょう?
建物をたてる時には「建ぺい率」「容積率」によって、必ず面積の制限を受けます。
このプロジェクトでも当然、建設可能な面積の上限がありました。
その制限の中で、最大限有意義な空間をつくるにはどうしたらいいか?
ならば、玄関や廊下はむしろ「必要ない」ので、作らない。
その代わりに「目的を限定しない場所」としての大きな土間をつくる。
設計者(僕)が提案するこの大胆な手法を、施主ご家族が採用してくれたからこそ「海のいえ、風の工房」はとっても素敵な空間になったのです。
まさに共同作業の「作品」です。
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では、らせん階段をのぼり、2階へ。
2階は間仕切りなしのワンルーム。
明るい太陽の光をいっぱい取り込んだ、大きなリビングルームです。
キッチンや、ロフト、大きなハイサイド窓の外にある屋上テラスも、すべてひとつながり。
(1階の土間にある薪ストーブは、この間仕切りのないオープンな家全体を真冬でも暖かくしてくれます。)
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家は、自由で知的な場所。
「海のいえ、風の工房」は、ここに住む人たちや訪れる人たち皆が自由に動き、自由に語り合い、自分の場所やお互いの場所をアレンジすることができます。
「家」というものは、自由な場所だと思います。しかも、ただ自由なだけではなく、とても「知的な」場所。
どんなふうに「暮らす」か?どんな「家」をつくるか?
そして、どんな人生をつくっていくか?
家族にとって、人間にとって、「家」はもっとも大切な場所だと思います。
ちいさな歴史のはじまる場所であり、記憶が蓄積していく場所。
でも決して肩肘を張る必要はない。
力を抜いて、リラックスして過ごせばいい。
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