思いもしないあたたかいクリスマス

　世の中便利になってきたもので、なんと住所など知らなくてもプレゼントが贈れるサービスというものがあるらしい。ネット上で購入し、コードが書いてあるURLをメールやSNSのDMに貼り付けて送り、相手がコンビニや実店舗、ネットサービスの決済ページにて使用するというもの。私が最初に見たのはLINEギフトだった。
　「へぇー！気軽でいいじゃん！」と気まぐれに数回、ポイントを使って一人の友人にビールなどを贈ったりしていた。下は100円未満からあるので、ちょっと気軽に「お疲れ様！元気出してね！」の意味あいで贈れるのがいい。コンビニコーヒーやお菓子なんかも割と喜ばれた。

　迎えたクリスマスイブの日。ふと私の中で、「ほら！サンタさんやっちゃいなよ！」という声がした。

「なんでもいいからTwitterとかで関わりある人にプレゼント配ろうぜ！」

　えぇ～……と冷静な部分の私はげんなりした。だって急に物贈って嫌がられない？そもそもそんなんで感謝されるくらいに私みんなに好かれてたっけ？
　ものすごく小心者で変なところで自己評価が低い私はそれはそれはびくびくしていた。

　けれど、こういう直感は大事にした方がいいのも理解していた。自分が普段感じられないようなものを見せてくれる。それもわかっていた。だから。
　そしてちょうど何枚かある、LINEギフトからきたクーポンの数々。

　……。
　やるかぁ。

　さすがに見境なく人に贈る勇気はさらさら持ち合わせていなかったので、私がそこそこやりとりしている、かつ唐突になにかURLを送りつけてもブロックはされないであろう、心優しき10数人にすることにした。贈るものも100円未満のローソン引き換えのブラックサンダー。チュッパチャップスも候補にあったけれど、私がブラックサンダーの方が好きだから選んだ。間違っても100円もしないものをお返ししなくちゃ！なんて気にならないだろう。LINEがわからない、あるいはあまりにもLINEでやりとりしない人については、gifteeというサイトを通して送った。
　1人32円。理由があるとはいえいい大人たちに対してちょっと貧乏くさい気もするが、私はサンタというかお菓子配りおばさんと化した。不安な気持ちを引きずりすぎたらせっかくやる意味がまるでなくなってしまうので、極力切り替えて楽しんで贈った。

　欲しい人ー！と募りもしなかったので、本当に唐突に贈った形になった。サイトの仕組み上まとめて買うことができなかったので、1回1回購入し送るのは10数人とはいえ面倒くさいし、決済のメールが細かくくるのも若干鬱陶しい。額面32円だし。メールに貼り付けるメッセージもたいした文言がおもいつかなかったので、「いえーい！メリクリ！」とURLだけになってしまった。これ本当に受け取ってもらえるのかしら。そもそもみんな近所にローソンある？若干の不安がぶり返してくる。
（しかもごたごたと緊張で間違えて贈る予定のない方にまで贈ってしまった。あれはどうしよう。完全に失礼な物言いと物品だけれど、使っちゃ悪いわけじゃないし「間違えました」はさらに失礼で、気を遣わせてしまう気がして未だに言い訳が浮かばない。どうしよう。）

　不安が勝ってきた気がしてはやめ、楽しさが復活したらまた数人に配る。そういった「自分の気持ちに丁寧に聞きながら」24日、25日（正確には26日の未明）まで配った。
　返事がなくてもそれはそれで、という気持ちで贈っていた。
　そこで絶対その後の結果を期待しない、人からの評価にも執着はしない。純粋に、自分自身が、この贈る瞬間を楽しむ。
　この気持ちに向き合ってやっていたら時間がかかってしまった。

　あまりにも遅くに配った人以外はみんな返事をくれた。「スパムかと思ったｗ」という人もいた。そりゃそうだ。乗っ取りスパム送りつけと文面がまるで変わらないもん。
　私が失礼ながら勝手に選抜した人たちなので、みんなもれなく「ありがとう！メリークリスマス！」と言ってくれた。今のところブロックもされていない。優しい人たち。送りつけておいてなんだが、若干とはいえ自分が手間を要する32円のお菓子に、（実際の気持ちはわからないけれど）こんなにもれなく感謝されるとは思ってなかった。正直、ひとりくらいは冗談や軽口叩く人いるかもしれないなと思っていた。軽口言われたら軽口で返そうと思っていたけれど。

　そしてこういうアクションを起こすと思った以上のリアクションが返ってくることもある。
　ある人はこのサービスに興味を示し、あれこれ思案した結果、いろいろあった恋人に小さな贈り物をした。喜んでくれたよ。と感謝された。私が起こした行動で、キャンドルの火がうつっていくが如く、喜ぶ人が増えていったようで嬉しかった。今度会うときにはまた恋人と仲良くできたらいいなと思っている。そして派手に爆発しろ。
　またある人は気分が落ち込んでいたようで、本当に過剰なくらい感謝された。私は「無理しないでね」と返信すると、「ありがとう！あなたの優しくてユニークで頑張り屋なところが好き！また遊ぼうね！」と褒めてくれた。元々褒め言葉がとても上手な人ではあったが、これだけのことでここまで言ってくれるとは思わなかったので、こちらがありがたすぎて涙が出そうになった。

　いろいろな形の返信があったけれど、私に向けられた言葉はみんな温かかった。クーポンやポイントも使ったので、全部でおそらく300円しないくらい。それからは想像もつかないくらいの大きなリターンがあった。私の中のどこかが「おもしろそう！ 」と思って気まぐれに始めたこと。にも関わらずその気まぐれを受け入れてくれる、人に恵まれたありがたさたるや。時代が変わろうが大切にしてくれる人たちを大切にしていきたいなと改めて思った。

　そして贈ったみんなにローソンに行く用事ができますように。