30歳で自立したくなった話⑧/ふたりだけの問題じゃないから
翌日、仕事をしていると先輩であるKさんから連絡がきた。Kさんは彼と私の共通の先輩であり、彼と同じ職場でもある。
「(彼)からすみませんってきたよ。LINEで。」
Kさんは、彼が例の件で1番迷惑をかけた人だ。Kさんと彼は同じ職場で、今も歩いて数歩の距離にいるはずだった。
Kさんの声からは呆れが見て取れた。
「さすがにさ、そういうことはLINEじゃだめだろって言っていい?」
「はい。有り得ないと思います。お願いします。」
数時間後、気になった私はKさんにその後の様子を聞いた。
「直接謝罪、ありましたか?」
「…いや。あれから返事もないよ。既読スルー。」
昨夜の小さな失望が、大きな渦のような失望へと変わった。
Kさんに申し訳ない気持ちでいっぱいになったが、私がKさんに謝るのは絶対に違うと思った。私は彼の親ではない。Kさんもそれを望んでいないことがわかった。
それでも、やっぱり私は彼のしたことが恥ずかしくて情けなくて許せなかった。
彼がそんな人間だと親しい人に思われて軽蔑されることが悔しかった。
今日帰ったら、もう一度彼に話をしよう。
そう思って家に帰ったが、彼の姿はなかった。彼は職業柄夜中や朝方に帰ってくることが多いので、珍しいことではなかった。
こうやってこの広い部屋を持て余しながら彼を待つことも、もうなくなる。
早く伝えよう。でも、今じゃない。早くこの状況を終わらせよう。
焦った私は、帰ってこない彼に苛立ちを覚え、LINEにメッセージを打ち始めた。
打っていくうちに、怒りとも悲しみともつかない感情ががふつふつと沸いてくる。
私の知ってるあなたはそんなじゃなかった。
どんなにすごい人になっても変わらないところが好きだったのに、
変わっちゃったの?
私恥ずかしかったよ。
こんなに感情的で、その上彼を否定する言葉。普段なら絶対に送らない。相手に本質が伝わらないかもしれない。
でも、私がここまで感情的になるような出来事なのだと、それくらい大きなことなのだとわかってほしい。
彼ならわかってくれる、
そう信じてLINEを送った。
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