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ブランドコンサルに騙されるな!~そのロゴデザイン、パッケージの変更、本当に必要ですか?~5000万と8億円分の顧客を失った企業の話

新商品開発や、それに伴うブランディング戦略構築はとても面白い仕事であるのだが、時にとんでもない横やりが入ったりする。

私は過去にブランディング戦略構築では、数件の小さな酒蔵や農業生産法人の仕事をさせていただいた。それはそれで成功(=それに投じたお金と時間と熱量が期待した利益を生む)したのだが、大きな失敗は、とある国のワインの輸入販売と、とある健康食品に関することだ。その事業部の部長として働いていたのだが、そのブランディングの方向性付けに失敗した。言い訳に聞こえるかもしれないが、実際に失敗したのはその話を持ってきたダメダメあほボンボン役員だが、それを食い止められなかったのだ。

失敗の定義は簡単で、「それに投じたお金と時間と熱量が、期待したお金(=売り上げ)とブランディング効果を得られなかった」ことである。

まだそんなに売れていなかったワインは楽天市場で売り上げを伸ばすということになり、初期費用含めて年間で300万円以上広告費用として支払い、そのために役員が連れてきたコンサルにやはり300万円ほど支払った。健康食品は、youtubeとインスタグラムでインフルエンサーを使うということになり、これまた役員が連れてきたコンサルや映像制作会社に500万円ほどが費やされた。youtubeは50万PV達成するとか言うてたかな。

結果、楽天での売り上げは年間300万円(利益でなく売り上げである)、健康食品のWEBでの売り上げは50万円ほどである。youtube再生回数は36万回まで伸びたが、同じアカウントで短縮バージョンも作ったのに再生回数は530回である。なぜこうなった(おそらく、金を払って「契約した動画のみ」再生回数だけ稼いだ)。しかも、売り上げに全くと言っていいほどつながってない。ワインも、健康食品も、WEBでの売り上げの10%ほどは私がそのリンクをシェアしたことで知った私の知り合いのお買い上げであったし。

歯を食いしばってでも、このプロジェクトは止めるべきであったと悔やんでいる。しかし、こういう謎の「ブランディングコンサルタント」に騙されるというか、「カモにされる」企業は山ほどいる。それは何故であろうか。


① とある化粧品会社の「リ・ブランディング」失敗の話

先日とある方と話して聞いた話も衝撃的だった。とある小さな化粧品開発・販売会社で働いていた方から聞いたのだが、年商5億円の健康食品美容食品が少しづつ売れ始め(芸能人の顧客なども多かったという)、8億になったときに大きなビルディングに引越し、別のヒット商品が生まれた時には年商総額30億になった(ただし、元からの商品は8億のまま)。そこで、さらなる成長のためにと社員全員に対してマーケティングコンサルやブランディングコンサルタントを招いて勉強会を頻繁に関することになったという。ここまではよい。社員でも、この研修が役に立ったという方は多かったようだ。
しかし、この研修が身につかなかった人がいる。その経営者自身だ。勉強したのはいいが、その結果「自社の商品のパッケージデザインやロゴ、商品名(ブランド名)も全て一新する」と言いだし、社員の反対を押し切って実施したという。

ここまで書けば想像がつくだろうが、結果として何が起きたかというと
・古くからの売り上げを支えていた営業マンなどの社員が離脱
・取引先から大不評。売り上げ下がる。
・結局、あまりの評判の悪さに数年後前のデザインに戻した
(とはいえ、8億円分の売り上げの顧客が大混乱になり信用度はいったんゼロに)

ちなみに、このブランディングを主導したコンサルタントの会社には、およそ一年ほどにわたって、コンサルティングやデザイン、試作、ラベル発注などの名目で毎月500万円程度(年額で5000万ちょっと)を支払っていたという。

ヒット商品の利益がほぼ消し飛んだばかりか、古参の貴重な人材が失われるという最悪な結果となった。しかし、こういう事態は結構日常茶飯事的に起きている。その原因は結構な確率でコンサルタントにある。


② 失敗の原因は「経営者のミッション設計」にある

なぜ、先の会社や私のいた会社は無茶なブランディング戦略をしてしまったのか。原因はその企業そのものが目指した「成長の方向性デザイン」や「ミッションづくり」にある

企業というものは、その存在意義として「ビジョン」「ミッション」があり、その実現に向けた戦略戦術を構築していくものである。

実はここに落とし穴がある。

企業というものは基本的に人のため社会のためにあるものであり、そうなると同じ業界の企業が掲げるミッションは同質化しやすい。

例えば、ビールメーカーのキリンはそのミッション
「キリングループは、自然と人を見つめるものづくりで、「食と健康」の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献します」
としているが、

競合他社であるアサヒビールグループのミッション
「期待を超えるおいしさ、楽しい生活文化の創造」である。

ひとに依るとは思うがこのミッションが入れ替わったとして、どう感じるだろうか。おそらく、ここでは何も特に変わることがない。ということは、全ての経営者は同質的なミッションを立ててしまう。しかしコンサルタントの多くは「100年続く企業づくりのために、ミッションをしっかり見直して、そのミッションに従って自社の戦略を改めていくべきです」と指南する。まあ、そこまでならそう間違いではない。

そして、そのミッションを達成していくための手段も、一見すると変わりがないものになる。すなわち、世の中で必要とされる会社になるために、自社商品とサービスを磨き上げていって、より多くのお客様に必要とされる(=より多くのお客様に買っていただけるようになる)ようにしていくことが自社のミッション達成のために必要なことだと考えるようになる。それ自体も間違いではない。

怪しくなるのはその「磨き上げる」というところをどうしたらいいのかという考え方だ。しかし、大きなミッションを抱いた経営者は、それを達成するために、「将来のミッションのために、今の商品やブランドロゴをより高いレベルにしなければ」「より多くのお客様に必要とされるような発信をしなければ」と考える。しかし、それ自体はまだそんなに大きな間違いではない。

決定的に間違えているのは、「そもそも現状の自社のブランド力はどのくらいで、それがどう売り上げと結びついているかという現状把握」と「現状に対してどのような方策をした方がいいのか」という「戦術選択」である。

自社のブランド力が低い、ロゴやデザインがダサい、だから売れていない、と考えること自体は間違いではない。そして、市場がこれから変化していく方向性(例えば、ネット通販はこれからも伸びる、健康食品は高級志向になっていく、などのトレンド)も間違いではない。しかし、それは必ずしも「自社がその戦術をとらなければならない理由」ではない。商品特性、市場特性もある。成長している市場(例えばネット通販市場)で一定以上の売り上げを達成しようと思ったら、広告宣伝費がとんでもなく必要なことだってある。なぜなら同じ業界の会社は同じようなミッションに基づいて、同じような戦術をとるのだから。前述の私がかかわった会社で言えば、競合が多すぎて金をかけるならその10倍必要な案件だったのに、それを見抜けないで、中途半端なお金だけコンサル会社に支払ったのだ。

本来考えなければならないのは、「現状においても自社が強いところ、弱いところ、市場と脅威」のSWOT分析であり、弱いところをカバーして脅威に立ち向かうための費用検証と、弱さには目をつぶって強いところを伸ばせるための戦術の費用検証をして、比較することである。

コンサルタントが攻めるのは、この現状の分析ができていない企業であり、戦術に迷っている企業である。なぜなら、先に述べたように「ネット通販はこれからも伸びる、健康食品は高級志向になっていく、などのトレンド」自体は間違いでないのだから、そこに打って出ることは一見正しいように見えるが、そこに膨大なお金と時間が費やされることを、経営者自身があまりよくわかっていない(指摘したら、コンサルから「これは投資です」「他社もこれくらいの予算は平気で使っています」という、これまた間違いでない反論が来る)。

また、もしデザインを一新したら、どれだけ既存顧客からの反発があるかを分かっている経営者も少ない。分かっているのは現場の営業マンである。なので、やるとしたら、綿密な市場調査や顧客アンケートを必須とするが、それとてコンサルタントに掛かれば、「今御社のサービスに不満を持っている方がこれだけいます、もっとデザインを斬新なものにすることによって顧客満足度が上がり、企業が示しているミッションの実現につながります」ということになる。一番大事なはずの「営業マンの意見」はこうして経営者の耳に入らない。

「ミッション達成に向けた、会社にとって必要な取り組みだ」

そうした結果が、5000万円のムダ金と8億円分の顧客に与えた大混乱である。


③ コンサルタントにカモにされる経営者

経営者が必要なのは、ミッションづくりと、それに向かって企業が進んでいく方向性の立案と、戦術の選択である。しかし、それと同じくらい大切なのは、日々の課題解決と、既存顧客との商流の改善、継続性の向上、顧客満足度の向上である。しかし、ヒット商品が「たまたま偶然」生まれた会社は後半の大切なことを忘れることが多い。そして、ヒット商品で生まれた利益を無茶苦茶な方向(デザインの一新など)に使ってしまうことが多い。ちょっと小金を稼いだ経営者、こういう人がカモにされる。

もうひとつ、カモにされやすい経営者は自意識過剰で、「俺はやれる!」と勘違いしがちな経営者だ。ボンボン経営者に多い。目立ちたいからだ。

こういった経営者は百害あって一利なし。従業員のストレスを溜めるばかりだ。

日々、営業マンは頑張って、顧客の不満などを解消することに努めている。もしヒット商品が生まれたときは、新サービスへの成長投入だけではなく、既存商品の課題解消(≒利益率の向上)にこそ費やすべきだ。既存商品がすべて衰退分野ということでもない限り。そして、衰退分野だったとしても、IT化などの取り組みで利益率が改善することもある。成長分野はそれはそれですでにレッドオーシャン化しているので、宣伝広告費などで相当な体力を消耗してしまう世の中なのだから。自社のみがその成長市場を抱えているような幻想に陥らず、現実を見るべきである。そうして、現実をしっかりととらえることを手伝ってくれるコンサルタントを選ぶべきである。




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