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地方創生で東京のコンサルが使えない話(ハメ技編)

格闘ゲーム自体はあまり得意ではなかったが、ゲームセンター華やかなりしころ(1980年代後半から90年代)、私は良く渋谷やお茶の水のゲームセンターで、格闘ゲームなどに興じていた(それ以上に野球ゲームにもはまった)。
格闘ゲームは、現在のそれよりは操作は簡単だが、ある程度のパターンがあり、一定の動きをすると簡単に勝ててしまう。とあるサイトには、
【はめわざ】身動きがとれず、反撃もできない状態の相手に、簡単な操作の繰り返しで攻撃を続ける連携技、またはテクニックのこと。 ハメ技のほとんどは、ゲーム製作過程におけるバグや調整不足から生まれるものである。

と、説明されている。


さて、4月に入ってからいろいろな仕事が動き出しており、そこそこ忙しい。ありがたい話である。地方創生に関わるコンサルタント(特に個人でやっているような人)で、この時期に仕事が決まっていない人は実は多いと思われる。どうしても、地方創生絡みで動くコンサルタント・専門家は国の補助事業の支援ということで動くことが多い。これが補助金イーターなどと揶揄される。

補助事業は当然のことながら年度で変わるので、この4月以降に業務が正式に公募され、発注される。最近は50万円以上の案件はほとんどが公募となり、随意契約でおこなわれることは少ない。コンサルタントの多くは、以前から温めてきた提案や企画を、つながりのある自治体において公募事業として出てくるのを待っており、そのための準備に余念がないのも今頃である。

さて、そういう提案においていろいろなコンサルタントが自治体に入り込んでいくのだが、その中において自分の得意技を売り込んでいる人は要注意したほうが良い。すなわち、「ブランディング」であったり、「HPのリーチ数を伸ばす」「著名なシェフと地域の特産物を結びつける」などである。

確かに、地域の課題の多くはブランディングができていなかったり、注目度が思うほど伸びなかったり、特産物の販路に悩んでいることがある。しかし、だからと言ってそれを得意だという人に任せるのは効果としておそらくその依頼した年度きりになる。それは発注側受注側双方に問題がある。

「ブランディングが得意」というのは、本来どの程度のブランディング化ということを抜きにしては語れない。全国誰でも知っているようにするのか、情報感度のいい人なら知っている、という程度にまでするのか。例えば、静岡県や高知県のカツオは有名だが、和歌山県のカツオは、関西では知られてはいるが関東では静岡や高知県に比べて知名度は高くない。もし、ある程度のプロモーション予算があれば、おしゃれなPOPや幟を作り、にぎやかす。そこそこスーパーの店頭などで手に取って帰るお客様がいるだろう。しかし、それでおしまい。次の日にも「和歌山のカツオが美味しかったから今日も買いたい」という人はいるだろうか。2日間連続で同じ魚を食べる人は極めてまれだから、せめて次の週にも同じPOPや幟が立ち続け、商品が多く並んでいるのであれば、2回目の購入があるかもしれない。

そして、数か月がたったとしても、このお客様が、たいしたPOPも幟もないのに、和歌山産のカツオを探して買うようになったとしたら、または、カツオと聞いたときに、静岡や高知よりも「和歌山」と思い浮かべるようになるか。そこまでできてこそのブランディングである。はたして、1年限定の取り組みで、かつ限られ予算で、そこまでの【ブランディング】が可能であろうか。

POPや幟、有名シェフを連れてきての試食会、シェフとコラボしたレシピの開発、そういった技はブランディングの手段としては重要ではある。しかし、それをどうやって続けるかということを考えると、現実的ではない。毎年毎年同じだけのお金をかけ続けたとしても、そのやり方で本当の【ブランディング】になるかは疑問である。

地方創生において注意したほうがいいのは、ある一定のキーワードを「自分の得意技」として熱心に掲げるコンサルタントである。もちろん、地方の課題は先に述べたように『ブランディングができていなかったり、注目度が思うほど伸びなかったり、特産物の販路に悩んでいること』なのだが、それ以前に『そもそもその商品は東京や大阪や世界で通じるような商品なのか。そうでなければどのように改善していけるか、改善しうる余地があるのか』を徹底的に追及することや、どのポイントを磨き上げることができるのかを検証することが大切である。また、注目度が上がったところで、どれだけの供給量があり、ニーズが増えたところで答えられないような量であれば、市場からは忘れ去られてしまう(希少価値、というものを出せるようになるのは品質の方が大切である)。そういった根本のところで解決しなければならないことが実はたくさんある。

ハメ技のほとんどはゲーム製作過程におけるバグや調整不足から生まれるものである、ということはいい得て妙で、ブランディングなどの一定のキーワードを掲げてやってくるコンサルタントは、『地方のバグ』に付け込んでいるのである。すなわち、ブランディングしたい、知名度を上げたい、販路を開きたい、関係人口を向上させたい、、、などの、全国津々浦々の地方が悩んでいることを、あたかもそのコンサルタントが解決できるかのようにPRしているのである。しかし、本来地方はブランディングなどの以前に課題がある場合が多い。

なので、最も大切なことは、地方が持つアイテム(人的資本含む)の棚卸であり、周辺地方や似たような環境の地方(=競合他社)の分析であり、それに伴った適正な戦略立案と戦術構築と予算の算出・確保である。ここが総合化事業計画などの5か年計画で示されていることは示されているが、計画は作ったそばから陳腐化していくので、本来は1年ででも修正していくべきところは修正していかねばならない。しかし、行政はよほどのことがない限りその修正をしないので、毎年似たような仕様で、ブランディングの公募事業が公示される。そしてそれに対して毎年似たような企画(=ハメ技)をもったコンサル企業がやってくるのである(その方が楽であるとコンサルもわかっているので)。これが『行政のバグ』と『ハメ技』の仕組みである。

具体的な名前は出さないが、東海地方のとある市で、プロモーションの事業が昨年行われているが、まさにこの【「ブランディング」であったり、「HPのリーチ数を伸ばす」「著名なシェフと地域の特産物を結びつける」】がセットになったものであった(しかも主な食材はカツオである)。その時の売り上げは瞬間的に伸びたかもしれないが、次年度、全くプロモーション予算をかけないで、どのくらいの差があるかを検証することはまずないだろう。おそらく、同じような規模の予算が組まれるだろう。そして、また同じようなハメ技を持つコンサル企業がその事業を受託する。そして、似たような効果しか生まないだろうし、下手をすると飽きられて効果は下がる。しかし、発注側の自治体としては、『委託した企業の質が悪かった』としか反省しないだろう。

そうではなく、地方側が、今どういう状況で、何をもってこれから稼ぐべきか、戦うべきか、ということをもっと真剣に考えなければならない。状況は地方によって千差万別であり、予算も違う。戦い方も違わなければならない。コンサルタントにハメ技を許すようではいけないのである。コンサル企業に楽をさせてはいけない。ハメ技で勝つのは楽なのである(だからゲーセンではハメ技を使うと喧嘩になる)。

さて、私は昨年福岡県のとある町で、徹底的にいろいろな人のヒアリングをしつつ、これから戦うべき方向性を提示した。そこまでが仕事で、そこでどの戦術をとるかは自治体が決断する。おそらく5月以降はその中で最も大きな課題の解決の仕事をお願いされることになりそうではあるが、そこでどのような技を駆使していくか、楽しみでもある(ちゃんと公募事業として取りまとめられていて欲しい、、、この時期やきもきするのはこういう状況である)。

私も得意技は当然のようにあるが、相手の状況を見極め、その時と場合に応じてどの技をどう使うか、どう組み立てるかが大切なのである。

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