見出し画像

種苗法に反対する人の農業に対する無理解について(少し追記しました)

柴咲コウさんのTwitter発言による影響は、本人が誤解を招くような投稿を削除しつつ、誹謗中傷には断固とした態度をとるという、反省しているのだかいないのだかわからない事態になっている。また、諸悪の根源の山田元大臣も、農家の主張を自分勝手にねつ造して主張した記事が訂正されているなどしている。とりあえずこの2名の発言の信頼性は少しは揺らいでいるとはいえ、種苗法改正についてはまだ多くの人が誤解を残したままだ。そしてその人たちは、TPPにも妄想を抱いており、海外のメーカーが国内農業を滅ぼすという妄想にとらわれている。

しかし、農業の課題は、私が何度も唱えているように「そもそも農業が儲からないことが問題」である。では、なぜ儲からないかということはこの記事にいくつか書いているので参考にしてほしい。農家には、いくつかのパターンがあるところから説明する。

①日本の農業の現状
(1)いわゆる、小さな家族経営農家
   数反、数種類の生産をしている農家であり、代々にわたって農業を営んでいるような人。一般人が抱く農業のカタチであろう。
しかしこの中にもいくつかのパターンがいて、
(1-1)自前でお客さんを持っている人:マルシェや直売などで多くのお客さんを持っている人もいる。もちろんJAなどへの出荷もするときもあるが。この場合は、数種類を超えて、10数種類あるいはそれ以上の生産品目がある場合が多い。
慣行農法と、無農薬や有機農法を行う人がいて、多様な人がいる。
(1-2)農協出荷を主にする人:生産品目は単一か数種類で、それなりに生産量を持つ。規模は、先のものよりは大きい。有機農法で行う人も増えているが、ある程度の生産量が必要なため、やはり慣行農法が多い。
(2)規模が大きな農家
   数町規模を所有し、いわゆる法人である。山田元大臣に発言をねつ造された横田農場さんなどは、非常に大きな規模である。
(3)いわゆる兼業農家
 これもいろいろな人がいるが、説明は省く。

さて、種苗法を誤解している人は、農家は(1)から(3)までいろいろいることを知らない。そして、彼らは(1)の農家が困るだろうとしているが、実際に種代が「高騰」したら一番経営的に困るのは(1-2)(2)の人である。しかし、高騰しようが、種代が農業の費用における割合は微々たるものである。もし高騰したら、(2)の人は品目を見直す。もっと安くてまあまあな品質の種に。それが経営者の責任であるから。(1)の人たちは、一部を除いて種を取ることは少ない。手間がかかることを知っているので、すべてはできない。(2)はいうに及ばずである。コメは自前で籾を蓄えて育苗する人はいるが、ある程度の規模と面積がない限り、買ったほうが安くつく。(結構失敗するのでリスクは高い)

②TPPと農業
さて、種苗法改正に反対する人は、日本がグローバリズムにさらされて自分たちの食が脅かされるとされているが、実際に日本の農業を脅かしているのは日本の野菜を買わない消費者自身であるということに気が付いていない。日本の野菜を日本人が買い続けるのであれば(そして、その農家がどんな種や農薬を使っているかを開示することをしっかりとコミュニケーションをとっていながら関係性を作れれば)、日本の農業が滅びることはない。しかし、彼ら彼女らはそうは言わない。日本に安い野菜がなだれ込めば、そちらを選ぶ人が多くなるに決まっている、という。自分たちの行動で政治家を変えることも時には重要だと思うが、それならば日本産のコメをもっと食べて、パンを食べず外国産の肉を食べず近海魚を食べて、マグロやブロイラーばかりを食べないで食生活を見直そうということも重要であるはずなのに、それをしない。そうするのは国の責任とばかりに。Twitterで議論した某氏は、「日本人は食にお金を掛けなくなっている」という。だとすれば、方法は外国産の禁輸しかない。日本の車や製品は海外で稼いで、農業は禁輸など虫のいい話は国際世界では絶対通用しない。また、一方で100円ショップなどで中国産の安い日用品が入って来なければその人はどうするというのだろう。TPPは必然であり、避けられないという前提を考えてくれない。
なので、日本の農業も、いくつかのお客向けパターンがある。
A:海外の富裕層に向けて高級品を売るパターン。(1)の農家に多い。品質で勝負することである。ここが育つためにはTPPと種苗法改正が必要となるのだ。
B:国内の限られた農地で、限られた人々に向けて販売していくパターン。(1)でも、特に小さい規模で無農薬や有機農法を行う人が多い。広い意味での「CSA コミュニティー・サポーテッド・アグリカルチャー」だろう。
c:ある程度規模があり、スーパーや給食センターなどに卸せる農家 (2)に多い。安く買いたたかれるが、それを可能にする生産技術と生産量を誇る。品質も一定のものを毎年作れるのがすごい。ただ、儲かるかといえば難しい。

種苗法改正を誤解する人たちは、Aのパターンが日本農業が生き残る道の一つであることを理解しない。儲かる農業、強い農業がまずあり、その技術とブランドが、多様性がある全体を支えていくのだ。
またBのパターンは国内人口が減っていくばかりか、送料などが種代よりはるかに高騰する以上、買い支えることができる人が本当にわずかであることを理解しない。自分が買い支えることができないのに、どうやってこの部分をボリュームを維持できると思うのか。
Cの場合は、国内では一定の市場を持つことで存続が可能だが、海外との競争だけでなく、人件費の高騰も気にしなければならない。ただ、ICTの発達により、一番これから変わるかもしれない形態はここである。ICTの技術+生産ノウハウを東南アジアに『輸出』することで利益を得られる可能性もある。


もし、種苗法改正に反対するのであれば、こういった日本農業が現状どのような人を相手に「せざるを得ないか」を理解するべきだ。そして、もしCのパターンの野菜が、種苗法改正によって高くなって口に入らないと思うのなら、それこそ大きな間違いで、安い野菜を作ろうと思ったら、ネックになるのは人件費であるということを考えられない人である。地方で農家さんが困る!と言うておきながら、その農家さんが最低賃金すらぎりぎり、もしくは外国人労働者(研修者)によってやっと支えられていることを理解していない。種苗法では日本の農業は駆逐されない。むしろ、反グローバルを叫んでこう言った外国からの労働力や安い資材が入らなくなったら、それこそ日本の農業は立ち行かなくなる。今回のコロナ騒ぎで外国の労働力が供給されずに困っているのは全国各地で発生している。そこに対して何も感じないというのであれば、日本農業のために種苗法だけに反対するというのは説得力を持たないばかりか、それこそ机上の空論である。

いろいろなところでいうが、「種苗法以前に農業が儲からない」のは流通の仕組みであったり、人件費が捻出できない(最低賃金が上がると途端に苦しくなる⇒しかし最終価格に反映すると流通と消費者が離れる)、消費者の支援不足なのである(なので、CSAのある程度の拡大は筆者が目指すところでもある)。人件費の高い日本人が作った野菜は高くて買えない、というのであれば、その人は海外産の安い野菜や穀物や肉を食べるほかはない。普段イタリア居酒屋やフレンチ風料理を食べたりする一方で、日本の農業が、TPPが、という主張をすることは、滑稽を通り越して冒涜にも聞こえる。
ヨーロッパでワイン生産で有名なドイツであるが、町でよく見る安いワインはポーランド産であったりする。ジャガイモはウクライナ産だったりソーセージはデンマーク産の肉だったりする。

食とはそういうものである。国境を越えて料理は伝わり、野菜も伝わる。その中で日本の農業はどう生き残っていくかを考えていかねばならない。人口も減り世界の中で製造業などの大国としての地位も下がっていく中においては、どういう戦略をとることが必用かは明確なはずだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?