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種子法廃止に関する誤解と農業の問題

農業政策などにかかわる仕事をしている私にとって、いろいろなデマや誤解を解いていくのは仕事の一環だと思っている。
しかし、そのデマの発信源が元農水省大臣なのだからこの上なく迷惑である。
https://hirohitorigoto.info/archives/286?fbclid=IwAR3Vfy48uclPr9_gGzmRUgIuyIdEZL0Ac5mJrdYkrhiANesV2Ech2yEq_7M
私の主張もおおむねこのリンク先の方と同じなのだが、私なりの視点も書き記してみる。

①そもそも日本において品種研究の機関は弱い
都道府県すべてに研究所(農林水産センター 都道府県に置いて若干の名称ちがいあり)があり、その風土に合った土壌の研究などをしています。しかし、都道府県ごとにある必要もなくなってきているのではないかと思います。イチゴを各都道府県で開発するのはいいとして、当然外国に売り込みに行くのも「都道府県単位」となっています。でも都道府県の予算は限られている。国の支援もありますが、それも都道府県単位で予算を分け合っている状態。他の国は「国単位で」外国の市場を開拓したりしているのに。。。もちろんそこで特定の企業を推すことの是非はあれど、それでいいのか。マーケティング見地から海外に日本の農産物を売り込んでいくのには非常にもったいないと思います。
また、もちろん都道府県センターで情報共有はしているものの、県単位で研究するより、より力を合わせて行う研究のほうがいい。それが行政縦割りではうまくいかないのであれば民間が研究することもあっていい。
そもそも地域の研究は、その地域の特性を研究することが多く、海外や、日本全体で生産性の高い品種を研究することには向いていない。
今回の種苗法は、海外への戦略を考えた時にその下支えとなりうると判断しています。

②モンサント
そもそもモンサントは小麦とか大豆のように、世界中で今後ニーズが高まるものを何とかしようとしているので、日本においてどうのこうのということはあまり考えにくい。
もし、日本のコメをはるかに凌駕するような品質と収穫量のコメ&大量生産を可能にする農薬を開発して世界に売り込んでいく可能性はありますが、それは企業努力の結果であって。そこに対抗していこうとすると、①の話になります。

③自家採取について
いうほど、種を安定して確保するって簡単ではありません。キャベツなどアブラナ科はすぐ交配するので、採取した種で次の歳に安定して品質収穫量が確保できるかが難しい。これはF1とか関係なく、そういうもの。さつまいもやイチゴのような蔓からクローンを増殖させる(苗を取る)ものもあるが、これが今海外でパクられたりして問題になっているもの。ちなみにさつまいもの種イモから苗を取る作業はかなりの労力を必要としていて、高齢者の農家はこれが原因でやめる人も多い。
長きにわたる知恵から編み出されたものや守られてきたもの(伝統野菜)があるが、それを保全するというのはまた別の話。はっきり言うと、伝統野菜の一部は「現代の人の味覚や料理、そして農作業に合わなくなっている」から廃れたものが多いので、種の保存という観点では大切にする必要はあるが、市場性は非常に低いです。

④農家の経済負担が高まる
農業における数々数々数々の問題を見てきていますが、はっきり言ってその諸悪の根源は「流通の仕組み」と「消費者の食生活の変化」です。種苗法が制定されるから日本の農業が終わるのではなく、「日本人が日本産の野菜やコメ食べないから&高く買わないから&食生活が変わったから」問題が生じているのです。
農家は種や苗が高くなったからといっても、最終製品(野菜やコメ)を高く売ることができればその分は吸収できます。でもそれができない。なぜかというと消費者がその分の転嫁を許してくれないから。これはJAがとか云々ではなく、野菜の多くを購入するスーパーなどが鎬を削るあまり値段をあげられないから。種や苗が高くなる前から、人件費は高くなり(田舎でも最低時給は上がっています。これ安倍政権が『国民の生活向上のために』やっていることです)、農薬や肥料の値段もどんどん上がる。でも、野菜の値段はベースは上がっていません。気候の変動で上がることはあっても、そもそも農家をずっとずっとずっとずっと押さえつけていたのは流通事情(スーパーなど量販店)と、その買い手である消費者です。だから、こういった種苗法はじめ農業の課題を問題視するくらいなら、「スーパーの店頭で、日本の農家のためにもっと野菜を高い値段に設定してあげてください」というてあげてください。農家からの直接購入?部分的にはいいですが、すべての野菜をそんな直接購入などできません。元農水大臣と名乗る山なんちゃら氏はこの辺のことを全く語らないし、挙句頭皮からがどうたらこうたらといった非科学的なことしか語らないので、私は全く信用していないです

<反論が来た>
という①-③の指摘をとある人のFB上で書いたら、次のような反論(?)が来た。原文ママ転記する。
【卵が先か鶏が先かって話かもしれませんが、野菜価格をインフレさせるには景気が上がってインフレしないと無理で、日本みたいに景気が停滞していると全産業が値上がりされずに停滞です。農作物はその中でも食糧だからと言う理由で値上げをしないように規模によって補助金で支えていると思います。米買取価格は政府が調整していますが、これは米専業農家が生き残れない状況ですね。
農試は県単位ですが、筑波に国の農試がありませんでしたっけ? 役割分担など知りませんが、縦に長い日本なのでこの仕組みもそれほど悪くはないかなと思っています。
モンサントに限らず、現代農業では機械や燃料、そして薬品を売る事が資材業界の目的で、農協も本業よりも金融や燃料費、薬品類を売るための組織に成り下がっています。
小規模農家が増えていくような社会設計をしないと成り立たないんじゃないかと思っておりますが、田舎を見る限りできていません。耕作放棄地だらけの土地を見ると残念になります。】

ということだったので、片桐からさらに指摘した。

①野菜価格インフレ

野菜って一般家庭でどれだけ消費されているかというと、総務省統計局2016年から2018年の調査で、一人当たり年間平均108000円、果物は39000円です。合計ざっくり15万円として、20%上がっても18万円。
その代わりと言っては何ですが、携帯電話(日本は世界でもトップクラスに高い)を安いプランにすれば捻出できます。インフレは物価全体に影響するといわれていますが、近年の状況を見ると、上がるものと上がりにくいものがある。インフレになると野菜の価格が上がるというより、どういう状況であれ、適当な対価をつけるべきものは対価を払い、そうでないものは安い方向に流れていく、というのが望ましいと思います。

②野菜への補助金
残念ながら、野菜の買取などの農家への補助事業は日本においてはありません。6次産業化なども、農家が自ら投資することへの補助です(そもそも中小農家は投資する体力がない)。

③コメの買い上げ
平成7年の食糧管理法改正で政府の買取はなくなりました。今は備蓄用の買い上げがわずかにある程度です。

④つくばの国の研究センター
国の機構の本社です。ただ、私が言いたいのは、ここの支局が全国にあるのとは別に県単位の研究機構もあります。もちろん情報研究の共有もしますし、研究で切磋琢磨するのは表面上いいのですが、予算がなければいい研究所が数多くあっても意味はありません。世界的なトレンドは、医療含め、イカに集約して予算をかけて疫病などに対抗できるかということ。コロナウイルスの騒動から見ても、いかに人員と予算を集中できるかが大切です。あと、私が今まで見ていると、国の機構と県単位の機構で役割分担はされているようないないような、です。土地ごとの気候が大きく違うのは分かりますが、農栽培としてミクロ単位で研究するべきものかは疑問です。土壌分析はまだわかりますが、それは基礎研究レベルです。
ちなみに日本の農業予算は、1兆5780億(政府予算約100兆)なので、1.5%くらいですが、韓国だと6%なんです。研究費も、規模に比べれば韓国の方がかけているようです(組織体については詳しくわかりませんが)。

⑤現代農業の状況
農業にかかわるコストを逓減しようとするためにいろいろな人が知恵を絞っています。種苗ももちろん、資材や燃料や薬品を売るのは、「安定した生産性の確保」です。その年ごとに生産量が大きく変化したら、農業者の収入が安定しない(≒生産者の減少や後継者不足の発生)と困るのはまわりまわって消費者です。そのために日々いろいろな会社が頑張っています。資材や薬品は一定のコストは必要です。問題なのは、日本の農業において一番大きいのは人件費(後述)と、面積当たりの機械コストです。面積が小さいので、効率化しようと機械を入れる、、、というのができないのです。
これからの農業は「環境に配慮しつつ安定した生産性の確保」がトレンドになるでしょう。しかしその根本である持続可能性を求めると、日本の場合は農家の収入を上げなければ無理です。
農家の収入が上がらない≒農産物の収益が上がらない⇒農業に依拠している産業はそのほかの部分でも収益性を挙げなければならず、、、という負のスパイラルです。
ちなみに友人にクボタの社員がいますが、すでにあの会社の収益は日本を除く世界で稼ごうとしています。

⑥小規模農家の現状
先の話題と関連しますが、農家はどれだけ収益を得ているか。
作物の違いもあり単純な比較は難しいのですが、一例を挙げると、中国地方で米を作ると、一日当たりの収入は417円です。北海道だと35000円くらいなのですけど。普通に最低賃金と労働時間かけてコストとして投入すると、めちゃ赤字になります⇒農産物価格に乗せるととてもとても。
中山間地域での農業はそもそも破綻しています。コメ中心では。
では野菜や果実のような、、、といっても、どんな野菜がどんな果物が「収益性が高いのか」ということを考えなければなりません。それは「研究所」ではやれない(そもそもやるべきでない)。としたら、あるとしたら肥料会社と種苗会社です。
経済性と生産性を両立させるのは非常に難しいです。成功するかどうかもわかりません。そこに政府がずっと投資し続ければいいのですが、批判もあります(私に言わせればこれがおかしいのですが)。近畿大学のマグロは、研究で得られた別の魚の養殖ノウハウを売ることでマグロ研究の原資にしました。ユーグレナは健康食品を売りつつ、石油に代わるエネルギーの開発に努力を費やしています。そういった、志ある民間企業が育つためには何が必用かを考えるべきだと思います。
ちなみに小規模農家が成り立たないのは流通事情にもあり、一人の農家レベルではスーパーマーケットの売り場が作れません。消費者直接販売のやり方も限界がある。送料ばっかりかかります。
小規模生産者が共同体を作って、より高い値段で流通できるようにすることが望まれます(地域の農協、いわゆる単協が頑張ってそれをしているところもあります。漁業では、大阪湾の漁港が連携して1か所に魚集めて入札方式にしたことによって、漁師の手取りが倍以上になってます)。
が、田舎って「そういう」共同体を作ることがそもそもハードル高い(儲かる人に対するやっかみなど)。小規模農家が成り立つためには県、市町村を超えてある一定のエリア単位で農産物を高く販売できる、また全体コストを下げられるような中間組織の検討がいいのではないかと思っております。
長くなりましたが以上です。
ちなみに文中の数字は農水省のデータや統計局のデータで探せます(消費金額は平成25年のデータなど、すこし採取年に幅がありますがご容赦ください)

という指摘をしたのだが、それについての反論がありません笑

個人的には種子法廃止などの農業政策に対して、農業者でない人が誤解からデマ情報(とくに山田なんちゃら氏のもの)を拡散しているように見受けられます。農家さん知り合いに一人くらいいないのかな。。。一部大手のマスコミにも責任はあるし、山田なんちゃら氏はそろそろ表に出ないでほしい。
モグラたたきのようになりますが、正しい理解を広げていけるようにしたいと思っております。

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