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コロナのせいで


杉崎笑美(26)派遣社員のOL。

皆藤菜々(26)笑美の友人。

横山悠美(26)笑美の友人。

河田朋絵(26)笑美の友人。

新井(37)笑美と同じ会社にいた男性社員。

   ***

●オフィス・廊下

杉崎笑美(26)が郵便物の束を手に来る。コロナ禍前でマスクはしてない。

エレベーターの場所に来るとラフな服装の男、新井が扉を入りかけていて笑美に気づく。笑美が急ぐ。





●エレベーター内

笑美「(入って)すみません」

新井「いいえ。お疲れさま(開のボタンを押していて7階のボタンを押し)何階です?」

笑美「あ、7階で」

新井「そう(扉閉まる。笑美が胸に抱いた封筒の束を見て)郵便」

笑美「ええ、発送の受付が新館で」

新井「あぁ、なるほど」

笑美「あの渡り廊下によくいらっしゃいますよね」

新井「え、なんで」

笑美「いつもいらっしゃるなーって」

新井「バレてるじゃん、ともだちいないの(笑顔)」

笑美「フフフ、ともだちいないんですか?」

新井「うーん、休憩時間まで別にね、あそこの休憩室にいるのもなんか(上を指さす)」

笑美「へぇ」

新井「みんな俺なんかと話したくねーだろうとか」

笑美「なんでー」

新井「気ぃつかわれるのもナンで」

笑美「あぁ」

新井「(7階に着いて扉があき)どうぞ(開のボタンを押す)」

笑美「ありがとうございます(出る)」

 



●7階の渡り廊下

廊下の片側に休憩や打ち合わせ用のテーブルが並んでいる。

笑美「(来ながら振り向き)眺めいいですよね、ここ」

新井「(続いて来て)そう。たまに船も見えて」

笑美「へぇ、船通るんだ」

窓の外には海。波の輝き。

新井「じゃあ(とあいたテーブルの1つを指さす)」

笑美「あ、はい、失礼します」

新井「お疲れさまです」

笑美「お疲れさまです」

新井はテーブル席に着き、笑美は渡り廊下を歩いて離れる。

N(笑美の声)「あれがはじめて話した日。ちょうど1年ぐらい前。それまでは廊下で会うと挨拶をするぐらいだった」

 



●オフィス・廊下

別日。笑美と新井がお互いに正面から来るのに気づく。

N「彼は隣りのオフィス、クレーム対応の部門にいる人で、私は庶務の派遣社員」

すれ違う時に「お疲れさまです」と微笑で声をかけ合う。

N「仕事で接点はないし、それ以上はおかしかった。でもあれから少し打ち解けた」

 



●7階の渡り廊下

笑美がエレベーターから来ると、新井が正面から来る。お互い気づき、

笑美「お疲れさまです」

新井「お疲れさまです。終わりですか?」

笑美「はい、これ手続きしてそのまま(胸に封筒の束)」

新井「そう。あ、雨降りだしたけど(と窓を指さす)」

笑美「あ、でも、傘あります。折りたたみ(私物のバッグに手をやる)」

新井「そう、よかった(微笑)気をつけて」

笑美「ありがとうございます」

新井「お疲れさま(とエレベーターの方へ)」

笑美「お先に失礼します(逆方向へ)」

 



●オフィス・廊下

開け放したドアから新井のいる部署が見える。電話対応などをしているスタッフたち。重クレームで平謝りの女性スタッフがいる。新井はアドバイス役で横に座り、同じ電話を聞きながらパソコン画面を指さしてサポートしている。

N「彼のいる部署の人たちとはたまにトイレや給湯室で話したけど」

 



●給湯室

前シーンの女性スタッフと笑美が立ち話をしている。

N「世間話ぐらいで彼のことを聞いたりは無理。どんな人なのか、何歳で、結婚してるのか、何も知らなかった。唯一知ってるのは名前ぐらい」

 



●オフィス・廊下

笑美が角を曲がる時に出会い頭ぶつかりそうになる。相手は新井。

新井「(驚いて)ああ、ごめんなさい」

笑美「(驚いて)すみません」

新井「お疲れさまです(微笑ですれ違う)」

笑美「お疲れさまです(微笑ですれ違う)」

N「新井さん。IDカードを見て」

 



●反復・ぶつかりそうになった瞬間

新井の首から下げたIDカードがスローで揺れる。





●オフィス・廊下

N「でもそれだけで」

笑美が退勤時間で来る。

N「彼は私の名を知ってるのか、それさえわからなく、積極的な感じはなかった」

新井のオフィス内を通りすがりに見る。働いている新井。笑美には気づかない。

笑美「(寂しい気持ちでエレベーターへ)」

 



●新型コロナ関連のニュース映像

春節の訪日客、クルーズ船、東京五輪の延期決定、志村けん死去、緊急事態宣言などが短くモンタージュ。

N「そしてこのコロナ禍」

 



●エレベーター前

笑美がマスク姿でエレベーターを待っている。

「お疲れさまです」と声をかけられ、振り向くとマスク姿の新井が来る。

笑美「あ、お疲れさまです」

エレベーターがあく。誰も乗ってない。笑美が先に乗って新井が続く。扉が閉まる。





●エレベーター内

笑美「――(言い出さないと、と思っている)」

新井「お仕事大変?」

笑美「え」

新井「忙しいですよね」

笑美「あぁ――私、今月いっぱいでここ終わりなんです」

新井「ウソ。なんで?」

笑美「契約で、派遣で、もう3年経って」

新井「そう――そうなの」

笑美「いつの間にか3年いちゃって」

新井「えー寂しいじゃん」

笑美「え」

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