小説【 dreamers 】8
不倫をやめさせるにはどうしたらいいだろう。
ママには直接言えない。パパにも当然言えない。相手の男には?
英理は今日のことを悔やむ。もしカフェにいるとき声をかけていたらどうだったろう。ブレーキになったんじゃ? 娘に密会を知られれば、これ以上はよそうと。いけないと。
少なくとも今日の情事は防げたはず。相手の男とも雑談して、写真を撮って――娘に面が割れたとなれば男はこれっきりにしたかもしれない。なぜ勇気を出さなかった?
人見知りはあった。知らない大人とわざわざ話したくない。
邪魔したくないとも思った。せっかくともだちと楽しんでるなら。
そう、あの時はまだ不倫関係とは思えなかった。
でも、もし声をかけても、それで今日の情事は防げても、これからをずっと防げたかはわからない。
それに、今日がはじめてじゃないだろう。たまたま目撃して知ったのが今日で――これからを考えよう。くよくよしないでこれからを。
まずは相手を知ること。本当は知りたくなんかないけど――知らないとどうしていいか、計画が立てられない。
集中できない宿題をやめ英理は1階に下りた。恭子はバスルームの掃除をしている。
恭子のスマートフォンはダイニングにあった。英理は手に取り画面を出す。ロックがかかっていた。パスワードの欄に母の誕生日を入れる。開かない。月と日を入れ替えてみる。開かない。
英理は自分の誕生日、そして父の誕生日も試してみる。開かない。
「なにしてるの」と声がした。
見ると恭子が廊下から来たところで、
「うん――」英理は動揺を隠し「パスワードなに?」と普通に聞く。
「なんで」
「ちょっと操作、ママのと私の同じかって、動きが変だから」
「変てどんな」と恭子は英理の手からスマートフォンを取る。「勝手に見るもんじゃないでしょ人の携帯」と操作する。「英理のは? 見せて」
「うん――」スマートフォンはメモ用に持ってきたが「いいや」と英理は諦める。『動きが変』は嘘だったし、母がいては男のことなど調べられない。「再起動してみる」と部屋に戻った。
***
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