自粛期間
●アヴァンタイトル
直人「と思ってたけど、こういう状況だからね」
舞「――」
直人「どうかしてんだろうな、やっぱ」
舞「そうだよ」
直人「忘れて。気にしないで」
舞「――でも」
直人「ん?」
●タイトル
●東京・郊外の夜景
道場直人の声「(先行して)いま地球温暖化してるじゃん」
保坂舞の声「うん」
直人の声「あちこち氷が解けて、北極に近いとこの凍土とか」
●置き時計
4月17日20時18分の表示。
舞の声「(前シーンと直結で)海面上昇?」
●道場直人のアパート
道場直人(25)がノートパソコンに向かっている。テーブルには缶ビールとスナック菓子。
直人「(直結で)土砂災害とかも。それで昔の細菌が出てきたり、未知の病原菌」
舞「(パソコン画面に映っていて)コワ」
直人「こういうコロナみたいな状況が、これからいくらでもあんじゃって」
●保坂舞のアパート
保坂舞(25)がやはりノートパソコンに向かっている。テーブルにはカクテルの入ったグラスとナッツの小皿。
舞「(直結で)あり得るね。ずっとリモートじゃん」
直人「(パソコン画面に映っていて)な。これネットあったからまだよかったけど、なかったら大変よ。俺らの仕事なんかお手上げ」
●ふたりのやりとり
適当にカットバックか画面分割で。
舞「今も大変な人いっぱいいるけど」
直人「まぁね。スーパーとか小売」
舞「病院も」
直人「介護とか、保育も」
舞「あと交通機関、ライフライン全般」
直人「宅配の人もな。流通」
舞「感謝しないとね」
直人「つくづく思うよ。いま在宅でなんとかなってる仕事って、ほんとはなくてもいいんじゃって」
舞「なくてもいいとは思わないけど」
直人「そお?」
舞「ゲームは好調じゃん」
直人「まぁね」
舞「求められてるよ。あつ森やってる?」
直人「いや、まだ手ぇつけてない。ホサッチは?」
舞「甥っ子に取られた。Switchごと貸してくれって姉に言われて。まだ買えないらしく」
直人「あぁ、ニュースで見たな」
舞「甥っ子ふたりがヒマ持て余してどうにもなんないっつーから、しょうがない。持ってって会ったりできないから、よく拭いて消毒して送って」
直人「いい叔母さんじゃん」
舞「オバサンちゃうワ」
直人「その子らにとっちゃ叔母ちゃんだろ」
舞「お姉さんて呼ばしてる。オバチャンなんて言ったらSwitch没収」
直人「ヘヘヘ。まぁ気軽におもて行けないんじゃね」
舞「そう。ゲームぐらいしかなくて、役に立ってるよ」
直人「うん――でもこういう不幸に乗っての好調じゃん」
舞「まぁ」
直人「素直によろこべない」
舞「よろこんでる人いっぱいいそうだけど」
直人「そお?」
舞「課長とかも」
直人「なんか言ってた?」
舞「今の生活気に入ってるらしく、通勤しないでいい毎日」
直人「ふーん」
舞「独身だし、食事はUberで変わらないしって」
直人「なるほど」
舞「勝ち組の特権て」
直人「(苦笑し)言いそうだな」
舞「そお?」
直人「そういうヤツじゃん。知ってたけど」
舞「どんなヤツ?」
直人「自分ばっか。視野狭い」
舞「言っとく」
直人「おい」
舞「フフ。でもそうね、こういう時に本音って出るよね」
直人「満員電車乗らなくていいのは、まぁわかるけど、こんなに楽かって」
舞「アレなんでいつまでも解消しないの? もう何十年やってない?」
直人「政治のせいだよ。それ1つ満足にできねんだ」
舞「やだやだ、税金払うの(缶からグラスにカクテルを注ぐ)今もあれに乗らなきゃいけないって大変じゃん。単純に怖いよ、感染が」
直人「勝ち組なんていい気になれねーな」
***
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