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年明けだし2020年に読んだ本の話をしても許されるだろう

 こんにちは。電楽サロンです。
 題名の通りです。そろそろ去年読んで面白かった本をまとめても許されるだろう。これがこの記事の内容です。
 それと好きな本の好きな理由を自分で言語化しておくことで、今年もっと面白い本に出会うための準備の意味も兼ねています。
 つまり、あなたは面白い本を見つけられるし、私は今年新しく面白い本を見つけられる。WIN-WINの関係が出来上がりますね。嬉しいなぁ。

 今年読んだ本はコミックを含め、100冊を超えました。去年が60冊くらいだったので大躍進ですね。そんな私が今年めちゃ面白かった本15冊を選びました。


1.黄昏旅団 / 真藤順丈


 すごいものを読んだ。他人の人生を「道」として歩ける男が、ある家族の人生を歩く話。人生が心象風景となって道に現れる。その描写がすごい。人生の主が楽しく過ごしているときは、空も明るく道は歩きやすい。人生の最悪な時期が来ると道は途端に荒れ始め、歩く者に牙を剥く。
 でも、もし悪意ある者が道を壊したり埋め立てたりしてしまったら?元々の記憶や感情に影響を与えてしまう。「人生は道」という使い古されたメタファーからここまで発想が至ってドラマに出来るのはこの作者しかいない。


2.臓物大展覧会 / 小林泰三

 9つの短編集。「透明女」が特に好き。体を切り刻んで、透明な素材に置き換えてけば透明になる。なるほど、たしかに。ウロボロスめいて自己破壊していく女が印象的だった。

3.なめらかな世界と、その敵 / 伴名練

 上半期はこの本の話ばっか考えてた。
 なにかと表題作が百合方面で騒がれていましたが、それ抜きでも面白いです。特に好きなのは「ひかりより速く、ゆるやかに」です。突如、2600万分の1の速さになった新幹線がでてきたら世界がどんな風な反応をするのかがめちゃくちゃリアルだ。SFのこういう思考実験めいたところが大好きです。
 面白いSFが読みたいけど何がいい?と訊かれたらまずこれを薦めるでしょう。

4.親衛隊士の日 / ウラジーミル・ソローキン


 近未来のロシアで、秩序を守るオプリーチニクの話。『青い脂』を前読んで、やばい作家だと身構えていたら読みやすかった。ストーリーがわかりやすい…!
 体にドラッグのお魚を注入するシーンがお気に入り。

5.血まみれ鉄拳ハイスクール / ライアン・ギャティス

 北米版ハイローザワーストとでも表現すればよいのか。あふれる暴力。それをアッパーな文体で表現しているため、厭さがない。
 舞台はマーティンルーサーキングJr. ハイスクール。それが縮まりキンジューハイスクール、さらに訛ってカンフーハイスクールと呼ばれるようになった。天才の考えだ。
 カンフーハイスクールにはいくつも武術グループがいる。物語は、そのうちの一角のボスの妹の視点で語られる。単に武術が使えるやつらの巣窟というトンチキ設定ではなく、学内で生き残るために自然とそうなったと分かる。トンチキにはトンチキになるための理由付けが必要なのだ。あと、学内ではガラスやプラスチックで作った自家製のナイフ(キンフェという)を暗器に使う描写もあり、刑務所内でお手製の武器を作るシーンにワクワクするやつもたぶん好きになる。

6.神子上典膳 / 月村了衛


 開幕から5人の牢人に囲まれた剣士のシーンからはじまる。そこで完全にノックアウトされた。神子上典膳があまりに、カッコ良い。美姫と少年を守る典膳の姿は、どことなく機忍兵零牙と重なって見える。歯切れのよい文章がページを進め、時代小説の入り口としてもかなり良さそう。

7.日本SFの臨界点(怪奇編) / 伴名練


 怪奇SF短編集。どの話も有無言わさぬパワーをもつ話ばかり。不条理ものが好きなのでおいしいフルコースをお腹いっぱいになった。体の表面積がどえらいことになる「怪奇フラクタル男」や、多頭のボーカルが率いるインディーズバンドに恋した男の「DECO-CHIN」が好き。

8.KAMINARI / 最東対地


 ある日を境に、カミナリ親父に追い掛け回される!化け物に追いかけられる話は沢山あるけれど、カミナリ親父は見たようで見なかった題材だ。カミナリは所かまわず喚き散らして、他人でも平気で暴力をふるう。体は小さくとも放つ暴力の空気がすごく、力で勝てない父親への恐怖感をあおられた。

9.うるはしみにくし あなたのともだち / 澤村伊智


 暗黒学園ミステリー。スクールカーストトップの女が自殺した。葬儀に出向くと、棺は顔が見えないようにされている。それは、学校で囁かれる顔面を醜く歪ませる呪いの本の仕業で......というあらすじ。澤村伊智さんの小説は「ぼぎわんが、来る」、「ずうのめ人形」などミステリーとホラーの組み合わせが絶妙にうまく、今作もその才能が発揮されている。


10.機忍兵零牙(新装版) / 月村了衛


 あらゆる次元の世界を統べる無限王朝の走狗、骸魔忍者と、支配にあらがう光牙忍者の戦いを描く話。
 3年前くらいに読んでこんなに面白い本があるのかと驚いたので、新装版で再読した。やっぱり面白い。
 骸魔忍者が零牙を囲んで一閃、時間差で骸魔が倒れる、などエンタメ展開が盛られまくっている。おすすめ。




11.処刑御使 / 荒山徹


 主人公が訳も分からず殺し屋に狙われるのが大好きだ。あなたも好きなら処刑御使は最高の読書経験を与えるだろう。
 若き伊藤博文を、未来の朝鮮妖術師が襲う。妖術の奇想が飛びぬけており、自由でびびる。大ムカデに落雷したら死ぬじゃないですか。違うんです、電気をまとったスーパー大ムカデが出来上がるんです。こんなあほを冴えわたった時代小説の文体で書かれたらお手上げなんです。小説は面白ければどんどん加速させていいことを学びました。



12.墓頭 / 真藤順丈


 生まれた頃から死体を頭に宿した「墓頭」の一代記である。はっきり言う。一人の人間の頭から出力される話の域を出ている。天才だ。この小説を読めたことに感謝している。
 話は「墓頭」の孫と探偵が見つけた墓頭をよく知るという語り部が話す過去と、話を聞き終えた孫の視点を行ったり来たりする。歴史の表舞台に現れない墓頭の幼少期を知る語り部は一体だれなのか。大きな謎を抱えながら、墓頭の一生を聞くことになる。墓頭の人生には歴史上、虐殺者に数えられる毛沢東やポルポトの影がちらつく。そう、ミステリーであり伝奇であり、ハードボイルド小説なのだ。エンタメの最高峰なのは間違いない。



13.占いレストラン / 怪談レストラン編集委員会、松谷みよ子


 今年は怪談レストランシリーズをたくさん読んだ。その中で一番好きな回。語り手が道に迷うと、ふと見慣れないレストランを見つける。そして、最後に語り手は食事に満足して帰る。というのがこのシリーズのお決まり。占いレストランは語り手がカラスに導かれて、カラス顔の主人のレストランにたどり着く。老婦人や、会期にまつわるエピソードを持った人が経営しているのが常なので、ここまででも異様だ。
 もっとも心惹かれたのは最後の見開きだ。カラス顔の主人は「大河を渡れば道が開ける」と言って語り手と別れる。そしてレストランを去り、道を歩き続けると、語り手を阻む大河が横たわっている。挿絵入りの強みを完全に生かしている。ぜひ読んでみてほしい。



14.大ダーク / 林田球


 心地よい暴力SFだ。謎の少年と闇のニーモツ(誤記ではない)が宇宙中を駆け回り、邪魔する宇宙人を殺す話だ。描写がかなり乾いている。宇宙人たちは斧で殺されると皮がめくれて骨になるのでゲラゲラ笑った。コミカルで笑いながら残虐行為に浸れる。私も斧で宇宙人を骨にしたい。

15.殺人の品格 / イ・ジュソン


 北朝鮮の高官だった主人公チュンシクが、ある日を境に身分を剥奪され、脱北を試みるストーリー。ロードムービーであり、ノワールでもある。だけど、そんな簡単にカテゴリー分けしていいのか分からなくなるえぐみと生々しさが渾然一体となった小説だ。表紙の黒さが表している通り、チュンシクを待ち受ける運命は暗い。だが、展開の速さ(全てつらい)と、淡々とした文章が読み進めるページを早くさせる。作者自身が脱北者であり、その経験からのリアルがあった。生き馬の目を抜くと言う言葉があるが、そんなシーンばかりだ。韓国で映画化してほしい。

 散々な一年ではありましたが、図書館をたくさん使えたり、読む本がふえたりしたなどいいこともありました。今年は、去年の積み本から崩していきます。それから、あんまり触れてこなかったミステリーや、ライトノベルにも挑戦していきたいですね!雑食になろう。
 良い一年になりますように!
(おしまい)

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