刀が日本に留まってほしいと考える理由
11/18の大刀剣市に向けてどんどん日本円の価値が対ドルで下がっています。とはいえこの流れも年内のFRBの利上げが終われば落ちつく気もしますし、150円というラインは直近の為替介入を見る限り日銀もかなり意識してそうなので、このあたりが円安のピークになるような気も個人的にはしていますがどうでしょう。
しかし今年の大刀剣市まであと4週間ほどと言う事もあり、その4週間では流石に大きく円高には振れなさそうです。
と言う事でやはり気になるのは刀や刀装具の値段。
一流刀工や一流金工の作、つまり誰もが知っているような著名家の作は例年よりも値段が上がりそうな気がしています。
著名作の特保脇差で1000万などと値段が付いていると、うおっ!と思うのですが、ドル換算すれば今までとあまり変わらなかったり。
それでも買っていく海外の方が多そうな今回の大刀剣市。
刀や刀装具が海外に出る事について、「日本の物は日本に留まってほしい」と言う人もいれば、「海外に出ても大切にしてくれるならそれでいい」と言う人がいます。
因みに私は日本に留まってほしい派です。
・刀が日本に留まってほしいと考える理由
日本には日本の流通サイクルがあり、一度海外に出ると海外の流通サイクルに乗るので買い戻しが難しくなると聞いた事があります。
簡易的ですが、日本の刀の流通サイクルは大体以下のような感じかと。
(刀剣店の他にもブローカーの方もいるでしょう。美術館なども愛刀家に含んで書いています)
日本の業者ネットワークは凄いもので名品であればどこの誰が持っているか大体把握していると聞いた事もあります。
この流通サイクルですが、当然海外でも同じことが行われており。
海外にも刀剣店がありブローカーがいて、市があり、鑑賞会や勉強会が世界各地で行われ愛刀家同士が繋がります。
愛刀家同士が繋がればそこで刀が移動します。
当然大コレクターの方もいらっしゃいます。
日本と海外で特に大きく違うのは、海外では登録証が無い事かと。
日本では刀を譲り受けた時は所有者変更が義務付けられています。
そのため刀の所在地が分かるわけですが、海外に一度出ると現在誰が所有しているかという所在地が分からなくなります。
知っているのは売買した当人同士やその周りの友人だけでしょう。
移動を繰り返している内にどこに何があるのかは段々ブラックボックス化していき把握しづらくなるのは想像に容易いです。
また、運良く大切にする方の所に行けば良いですが、以下のような方もいるようでなかなかに怖いところ。
海外にも知識ある愛刀家の方は沢山いらっしゃいます。
しかしながら、知識ある愛刀家の方が大切にしているうちは良いですが、海外で流通している間に知識の無い人の手に渡り粗悪な研ぎが施されたりなどのリスクは日本より高いと思われます。
勿論日本でも名品を粗雑な扱いをする人がいたり、知識ない人の手に渡る可能性はあるでしょうが、全体的に言えば昔から物を大切にする国民性なので率は低い気がします。
また日本には海外に比べて研師の方が沢山います。
何かあっても正しい修復が施される可能性やスピードが海外に比べ高いです。
少し前に大雨被害を受けた刀の修復が物凄いスピードで行われた事がありました。あれは日本だったから出来た事だと思います。
という事で、今後人種問わず海外で正しい知識を持った研師の方が沢山活躍されるようになれば海外に刀が出ても比較的安全かもしれませんが、まだまだ日本に比べると研師の技量、人数共に遥かに少ないようです。
・この2つが整っている日本は良い環境
日本の登録制度による刀の所在地の管理、プロフェッショナルが直ぐに修復できる環境、この2つが揃っている日本はやはり日本刀を状態よく後世に伝えていくにあたっては良い環境なのは間違いありません。
なので私は日本刀という文化財をなるべく健全な状態で後世に伝える上でも、日本に留まってほしい派です。
でも時代の流れ的にそれが出来ないのは明白。
現在製作している刀展示ケースを海外にも浸透させたいと思っている話にも繋がるのですが、綺麗に研がれた美しい刀を美術館で見るような最高の状態で愛刀家の家族や友人など周りの人に何年も眺めてほしいと思っています。
そうする事で刀の美しさの面に興味を持つ人が増え、刀が海外の流通サイクルに乗っても孫の代までその刀が大切にされる可能性は少なからず上がるはずです。
・終わりに
美術品はいつの時代もお金のあるところに集まるので、日本がこのまま貧しければどんどん海外に流れますし、反対に日本が今後豊かになっていけばまた国内に戻ってくるかもしれません。
その為には日本人で刀欲しいと言う方がもっと増えて、海外の方が日本人に売りたいと思う位に日本が高く売れるような市場に成長しないと無理だと思います。
そのような流れは現時点では考えづらいので、せめて自分の気に入ったものを手元に残しておく。
これくらいしか出来ませんがそうして自分自身も楽しみながら日本文化を日本に残せていけたらなと思います。
という事を自分に言い聞かせながら大刀剣市前にまた…。
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それでは皆様良き御刀ライフを~!
刀展示ケースをどういう思いで作っているのかなど書いています。
よろしければ以下もご覧ください。
↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)