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『吸血鬼文学名作選』より城昌幸の『吸血鬼』感想

 この本は創元推理文庫から出ています。ベストセラーリストにはまず載らない、比較的マイナーな本で、吸血鬼をテーマにした短編集です。

 城昌幸は1903年の生まれで、この『吸血鬼』は1930年、戦前ですね、当時の雑誌に載せられたものだそうです。

 舞台はエジプトなのですが、吸血鬼の正体は不明なままです。語り手二人の、どちらが本当の事を話しているのか、それは読者の自由な解釈にゆだねられています。

 文体や表現方法は、いくらか華美とも言える装飾過多ですが、それも当時の日本人が異国の地で感じた異国情緒を表現したものでしょう。

 日本に舞台が移ると、装飾的な表現はなくなります。こうして、メリハリを付け、登場人物の主観を分かりやすく表現しているのですね。

 エジプトで出会った美しい舞姫は本当に吸血鬼だったのか、全ては嘘偽りなのか。謎のままに物語は幕を閉じます。

 言い切ってしまうと情趣に欠ける、謎を残すからこそ余韻が残る。そんな読後感の物語でした。

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