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平成のセクター連携史 〜過渡期【企業編】〜

以前書いた下記の続きである。

前回は2010年前後からコロナ前くらいまでのセクター連携に関する国家戦略の変遷について振り返ったが、これからはこの期間を「黎明期」の続きとして、「過渡期」と位置付け、企業・行政・NPOそれぞれに起きた大きな変化やセクター連携に関する大きな議論を振り返ってみたい。

まず今回は「企業編」からだ。

企業はCSRからCSVへ

2000年代企業の中で盛り上がりを見せたCSR(企業の社会的責任)は、2010年代、CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)へと変化していく。

これは2011年、『競争戦略論』で有名なアメリカの経営学者マイケル・ポーター教授が、ハーバード・ビジネス・レビューで提唱した概念である。

ざっくりいうと下記の四象限で、CSRは「社会的価値が高く、(自社にとっての)経済的価値が低い」事業であるのに対し、CSVは「社会的価値が高く、(自社にとっての)経済的価値が高い」事業と言える。

尚、2013年に、キリンホールディングスが日本で初めてCSVの名称を使った部門(CSV本部)を発足させ、グループを挙げてCSRからCSV経営へと大きく舵を切っている。

この記事を読むとその背景には東日本大震災での支援の持続性に限界であった事が分かり、関心深かった。

【参考記事】

CSV時代のイノベーション戦略

2013年くらいから、下記の記事(2015年1月の記事だ)にあるように、「社会課題から新規事業を生み出す」「CSVによるイノベーション」等の重要性が説かれ始め、大企業も新規事業を模索し始めることとなる。

本記事内では下記のように「セクター連携」や「オープンイノベーション」に触れられているのが印象的だ。

社会課題解決は、一企業だけではできない。新しい秩序、ルールの整備が不可欠であり、NPOやNGO、政府機関と連携して進めるべきであろう。企業側はオープンイノベーションを推進し、官民が一丸となって社会課題を解決する時がきている。

第4次ベンチャーブーム

時を同じくして2013年頃から、金融緩和・官製ファンドの設立、大企業からベンチャーへのリスクマネーの投入、IT技術の普及によるあらゆる産業でデジタル化が進み、新技術や新しい価値観(シェアリングエコノミー等)からなるサービスが台頭し、「スタートアップ4.0」とも呼ばれる「第四次ベンチャーブーム」が始まり、政府もベンチャー育成を重要課題に上げていた。

実際、厚生労働省がまとめている新規開業率は2013年度ごろから上昇している。

厚生労働省「雇用保険事業年報」

オープンイノベーション

これまでの流れを踏まえ、「CSV事業の新規創造の重要性は分かるが、一企業単独では難しいので、イノベーションの源泉をベンチャーに求め新規事業を創造したい大企業」と「大企業と連携して成長を加速させたいスタートアップ」の思惑が一致し、オープンイノベーションによる新規事業創出ブームが訪れた。

オープンイノベーションとは、ざっくりいうと「社外の技術やアイデアを活用し、革新的な事業を創出する考え方」であり、要は「企業と企業が手を組み、リソースを補完し合えば、新たなイノベーションが生まれる」というものだ。

尚、2000年代の始め頃にハーバードの先生によって定義された概念らしいのだが、時代の変遷を踏まえて現在は「オープンイノベーション3.0」が最新と言われている。

詳細は省くが、日本政府としても、 2013年の 「日本再興戦略」 の中で「 オープンイノベーション推進」が 掲げられ、以降も少なくとも「未来投資戦略2018」までは引き継がれている事が確認できた。

このような流れを受け、オープンイノベーションを推進するために様々なプラットフォームサービスが提供されたり、フューチャーセンターと呼ばれるオープンイノベーションを目的とした対話空間も生まれたりした。

終焉を迎える大企業の”オープンイノベーションごっこ”

インパクトがあるタイトルだが、これは下記記事のタイトルである。ご容赦願いたい。ただ、言いたいのはこの時代にもまもなく区切りが付きそうだ、という事であろうと感じる。

この記事の冒頭と最後を抜粋させていただく。

 オープンイノベーションブームに乗り、新規事業創出をめざす大企業がベンチャー企業と手を組む例は増えているが、その多くが事業化に至らず頓挫している。イノベーションの共創のために始めたはずの多くのプロジェクトが、結果として大企業側の一方的な「プログラムやりっぱなし」「投資しっぱなし」で終わってしまっており、近年では有望なベンチャー企業の中には、大企業が次々に企画するアクセラレーションプログラムや政府プログラムから距離を置くと公言する企業も出てきている。これが、大企業の「オープンイノベーションごっこ」と揶揄されるゆえんだ。

筆者は、オープンイノベーションという言葉を好ましくないと感じている。なぜならば、いまフォーカスすべきは、手段が目的化しがちなオープンイノベーションではなく、短期(たとえば1年以内など)での事業化というゴールに向かって走る「ビジネスプロデュース」であるからだ。オープンイノベーションブームのような言葉に振り回されず、ビジネスプロデュースとの違いを明確に捉えてほしい。
(中略)
オープンイノベーションから脱却し、ビジネスプロデュースに取り組むことで、企業は未来の顧客の人生を豊かにするためのビジョンを打ち立てることができるはずだ。

私も全てのオープンイノベーションに関係する事案・事業に精通している訳では無いし、すべてがこれに当てはまるとは言えないだろうが、上記の主張は現場にいた人間としても共感できる部分がある。

SDGs経営・ESG投資

最後に「SDGs経営」について述べたい(こう書いていると、企業経営の潮流はアメリカの偉い先生が提唱して、どこぞのコンサルティング会社がそれを請け負い、金を循環させているな、と客観的に思う)

SDGs経営は「SDGsの思想や理念を事業に活かすこと」とも言える。

国の対応でいうと、2018年11月に経済産業省が立ち上げた「SDGs経営/ESG投資研究会」において、SDGs経営とESG投資について6回にわたり議論した結果が、2019年5月に「SDGs経営ガイド」としてまとめられた。その中で、企業のSDGs活用に関する方法論などをまとめ、「企業にとってのSDGs」「投資家にとってのSDGs」「SDGs経営の実践」など、具体的かつ実務的な内容で構成された。

その傍ら、2016年から2018年にかけて日本で急拡大したのは、ESG投資という、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の観点から企業を評価し、投資する企業を選択する投資方法だ。

これ以前の投資は、「儲かっているかどうかという財務情報が判断基準となること」が一般的だったが、この投資では、いかにESGに配慮し、どれだけ社会的な価値を創出したり社会に貢献できているか、という非財務情報も注目されるようになり、「どのようにSDGsに取り組んでいるか」「SDGsの取り組みによってどのような成果をもたらしているか」などの視点も投資判断基準として重視されるようになった。

ただ、一方で、そもそもテーマ・目標が壮大であるので、「SDGsウォッシュ」と呼ばれる「SDGsに取り組んでいるように見せかけて実態が伴わない」を表す言葉も出てくるようにもなった。


さて、いっきに過渡期における企業の大きな流れについて振り返ってみた。
(ちなみに、この後は「パーパス経営」が流行るそうである。はあ忙しいですね。。)

この期間、企業としても、本質を追求しようとし様々なチャレンジをするも、結局「短期的な成果(売上・利益)」を求め、そのリターンに時間がかかる以上、優先順位と社内価値は下がっていき、結果、見切る、というパターンに陥る事が多いように思う。

次は「NPO」の側面から眺めていきたいと思う。

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