父との結婚|聴こえない母に訊きにいく|五十嵐 大
ぼくは目と耳の両方から情報を得ることができる。それが「当たり前」のことすぎて、そのどちらかが困難な状況になったとき、一体どんな気持ちになるのか想像できていなかった。
聴こえる大人たちに囲まれ、意味もわからずに病院での検査を繰り返させられた、聴こえない母。当時の彼女には、どんな景色が見えていたのだろうか。
〈2021年6月某日――二日目〉 ――大きな病院で耳の検査をするため、千葉にある伯母さんの家に預けられたって話だったけど、地元に戻ってきてからは一切検査を受けなかった