ホットパウンド!
母は料理が得意だ。得意だし、好きなんだと思う。面倒くさがっているところを見たことがあまりない。
元々実家が商売をやっていて、親が忙しかったから良くご飯を作っていたそうだ。また大学では食品系のことを学んでいて、職場もそこらへんの知識を生かせるところ(研究所でもないのだけど、そんなような感じ)に就職した。醤油のこととか研究していたらしい。
だからと言ってイコール料理好きにはならないのだが、そういう素地があって、素養もあって、現在の母がいる。栄養士の免許も持っている。
私も、母の影響が多分にあって料理をするのは好きだ。最初は“手伝わされる”というところから始まったが、別に嫌ではなかったし、母の味が好きなので、ちゃんと覚えておこうという魂胆もあった。まあ、明確にレシピを聞いたことはなく、ほとんど味で覚えているばかり。自分で作る場合、一発では決まらないので、少しずつ寄せていく。
一人暮らしを始めるとき、特に食に関しては何の心配もなかった。世間に披露できるような技能を持っているわけではないが、家の味はそれなりに引き継いでいると思う。
実家では基本、主食汁物主菜副菜(主にはサラダ)果物が毎食なので、私もそういう習慣にしている。特にサラダは、いつの間にか、食べないとちょっと物足りない身体になってしまった。多分良いこと。
さて、料理、とはまた少し違うところにお菓子作りがある。
家庭で作るお菓子は、日常となっている生きるための食とは別の、ハレの日に楽しむことが多い非日常の食なんじゃないかと思う。
母はこっちの食も非常に作るのが上手く、なんらかの記念日にはいつもケーキを焼いてくれる。今も、頻度は減ったが、もちろん。
こちらも昔から手伝いをしていたので、私も高校くらいからは自分で材料を揃えて作ったりしていた。熟練度による匙加減だったり微妙なひと手間だったり、母ほど美味しくはできなかったが、レシピを間違えなければ上手くいくのがお菓子作り(と私は思っている)。基本的には美味しくできている。
昔、職場の自分の部署にお菓子を作って持っていった後、他部署のお姉さまに、「バレンタインデーをあげるからホワイトデーにお菓子を作ってきて欲しい」とニコニコと言われたことがある。気楽な感じの仲だったので、こちらも「良いですけど、なんかそのバレンタイン、ありがたみないっすね」と笑ったのを覚えている。一応書いておくが、これは彼女が私に気があったとかそういうことでは全くなく、どんなお菓子が返ってくるか純粋に興味があったようだ。後日、シュークリームを作っていったら大層喜ばれた。
なんて経験があったことを、今書いてて思い出した。割と珍しい経験だと思う。
それはともかくとして、母のお菓子のことだ。
母の作る紅茶のシフォンケーキとチョコマーブルパウンドケーキは、いまだにこれ以上の味を食べたことがない。美味しい。中でも私が好きなのは後者、パウンドケーキである。特に焼き立てのパウンドケーキは、そのまま一本食べ切ってしまえるんじゃないかというレベルで好き。外は少しカリっとしていて香ばしく、中はもちろんふわふわでたっぷりのバターの風味が鼻をくすぐる。口の中に広がるチョコレートの甘さとちょっとした苦さ。アクセントとして食感が楽しい、散りばめられたナッツ。アツアツだからこそ得られる「食べた!」という満足感もある。焼き立てが好きすぎて、後で食べるときもレンジで温めて食べている。
と、焼き立てのパウンドケーキについて色々な人に話したことがあるのだが、未だかつて誰も、この味を知っている人がいなかった。パウンドケーキは多分そんなに珍しい部類のお菓子ではないと思うし、ご家庭で作っているお母様もいると思うのだが、少なくとも私の周りには焼き立てパウンドケーキ派閥はいないのである。なんてもったいない。なんてもったいない。
市販のパウンドケーキで試したことがないので確約はできないが、もしこれを読んで興味が出た人がいたなら、焼き立て、とはいかずとも、まずパウンドケーキをレンジでチンして食べてみて欲しい。きっと美味しいから。そして美味しかったら、焼き立てのパウンドケーキを試してみて欲しい。絶対美味しいから。
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