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[連載小説] 「青春の外堀 -TOKYO1980」第八話<オールナイト学園祭とか>

第九章『オールナイト学園祭あるいは名物ロックアウト』

11月には学園祭があった。「外堀祭」というそのままの名前だった。全てが無茶苦茶だった。中でも特徴的だったのは、多分3日間だったと思うけど、最初の日と次の日の夜はオールナイトのバカ騒ぎ。おまけにお酒飲み放題。ひたすら騒ぎ続け、飲み続ける。アイドルが来てコンサートやったり(なぜかあんまりビッグネームは来なかった)、プロレス研究会の試合を応援したり。そのころは「学生プロレスが流行っていた。「学生プロレス」って意味が変だが。学内で仲良くなったプロレスラーがいた。リングネームは「テクノSAKATA」。YMOの時代だから、テクノ。空中殺法が得意な人気レスラーだった。オールナイトで酔っ払って、ぶっ倒れた学生は担架で、学校で一番大きい教室に運ばれる。吐いたような異様な香りが立ち込めている。そこは「野戦病院」みたいだった。実際そう呼ばれていたかもしれない。オールナイトでロックコンサートの大音響が響き渡る。「あまりにうるさい」ということで、毎年周囲の高級住宅街の人たちから、警察に通報されていた。新聞にも写真付きで載っていた。しかし、別に中止になるわけではなく、オールナイト学祭は毎年行われていた。いつまで続いたか知らないけれど、今はもちろんそんなことが許されるはずもなく、学祭のあり方も変わったのかもしれない。大学の自治みたいな言葉がまだ聞こえていた時代だし、「学生は、何をやってもいい」みたいな気分もあったと思う。バカみたいだけど、懐かしいあの頃。

それから「のど自慢大会」。応援団の1年生A君が、「キュ、キュ、キュ、僕はお化けのQ太郎!!」と絶叫、大喝采を浴びていた。実はこのA君のことを、僕らの仲間内で日頃から応援していた。この方、神宮でもヤクザみたいな応援団の大幹部の方たちに、いつも鍛えられていて、泣きながら走っている姿が印象的だった。小柄で、すごく細くて、メガネかけていて、坊主頭で、情けない顔して、真っ黒に日焼けして、いつも一生懸命なA君。話はすこし学祭から離れるが、六大学野球で優勝した時の祝勝会がキャンパスで行われた時に、(その時、集まった学生たちには大学から缶ビール配られた。いい時代だ)。応援団のパフォーマンスがあって、応援歌とか色々やるんだけど、1年生の登場場面で、俺ら同じ1年生の仲間内で「A、A、A,いいぞA!!」と熱烈応援していたら、いつも神宮でA君を怒鳴りまくっていた4年生の幹部の人が、怖い顔で睨んでいて、でもちょっとだけ笑顔になって「Aは、人気があるなあ」などと呟いたので、僕らは嬉しくなって、もっともっとA君を応援した。その後、3年経って、K君たちの世代も4年生、幹部となった。その時、下級生で、情けなく、泣きながら走っていたK君は、全く別人のように立派になった。角刈りもカッコよく、泣く子も黙る「鬼のリーダー長」となって、下級生たちを震え上がらせていた。人間は成長する。大学は、教育機関だ。

あんまり大したことしていないうちに1年生は終わろうとしていた。でもその前にあの頃らしい出来事があった。2月が入試だから、多分1月、期末試験というのがあって、その初日の試験前に先生が試験用紙を配り始めたら、突然何人かのヘルメット被った学生運動の人たちが何人か乱入。「もう、やめ」とかなんとか言って、試験用紙を回収してしまった。教授も慣れている感じで、「ハイハイと」いう感じで帰ってしまった。「何?何?」と俺ら。「試験は中止です」と学生運動の人。ということで試験はもうなくなったのでした。その日から大学は外堀大名物「ロックアウト」(門が閉まちゃって入れなくなること)。ラッキー、試験は全部なくなり、僕らはもう春休み!。というわけで、「かしゆお」たちは、無事進級することになったのでした。ともかくそういう時代だったのです。学生運動は、だいぶ下火だったけど、「立て看」(なんとか反対とか書いてあるもの)は、キャンパスにたくさんあった。その当時世間からは、そういう方面が盛んな大学と思われていたかもしれないけれど、実はそうでもなくて、一言で言うと「カオス」「混沌」。実にいろんな人がいる学校だった。みんな好きなことをしていた。そんな言葉はまだなかったけど「ダイバーシティ(多様性)」だ。右も左も、斜めも、いろんな人がいた。応援団は、角刈りで叫びながら走っていたし、学生運動の人はそのすぐそばで拡声器で演説していたし、ロン毛のくるくるした髪のミュージシャンはエレキギターを担いでいたし、僕らはその脇の本当に狭いところで、テニスをしていた。間違って入ったどっかのお坊ちゃんを迎えに、ベンツが外堀の脇の道に、止まっていたりもした。みんな好き勝手に、生きていた感じ。その感じは好きだった。何をしてても誰も何も言わないし、雑多な感じが好きだった。僕みたいな田舎者もいっぱいいたし、ハマトラの綺麗な子も少しだけどいた。でも、自分から何かしない何も始まらない感じ。なんでもありだけど、それを見ているだけでは楽しくない。毎日が(お酒は飲んでないけど)学園祭みたいだったのかと思う。

(写真は、総武線各駅停車)
                              春休み中



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