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第1回、第2回特許の鉄人の振り返りと、第3回特許の鉄人への展望

2023年7月18日(火)夜、渋谷の東京カルチャーカルチャー(東京カルカル)にて第3回特許の鉄人イベントがリアル会場&オンラインで開催されることになりました。
「特許の鉄人」とは、2人の弁理士が1つの発明について、特許明細書の中でも「クレーム」と呼ばれる最も重要な部分を制限時間内に即興で作成し、会場投票でどちらのクレームが優れているかを競うものであります。
第1回を2019年6月、第2回を2020年1月に開催して以来、この度3年ぶりの復活となりましたが、第3回開催にあたって、今までの2回のイベントを振り返るとともに第3回に向けた展望を述べたいと思います。

契約書タイムバトルの衝撃

東京カルカルとの出会いは第1回特許の鉄人が開催される前年の2018年でした。
たまたまTwitterのタイムラインに流れてきた「契約書タイムバトル」というイベントの開催案内を見て、「世界初 AIvs人間のリーガルバトル」というキャッチフレーズに惹かれてどんなイベントなのかと興味を持ち現地観戦チケットを衝動買いしました。
契約書タイムバトルは、第1回は壇上で弁護士同士が決められた時間内にオンライン上の一つの契約書をリアルタイムで編集しあうイベントでしたが、第2回はそれを更に進化させて弁護士とAIが契約書を編集し合うという、将棋でいうところの電王戦のような異種格闘頭脳バトルとなりました。
第2回のイベント結果は2試合とも弁護士がAIに勝利するという、まだまだ士業の仕事をAIに置き換わらせないぞという人間側の気持ちが伝わった心強いものでしたが、現場会場の東京カルカルは熱気に溢れており、その中で弁護士がノートPCで大画面に映し出される契約書を高速で修正する作業をリアルタイムで見るのは自分の中でとても衝撃が大きかったです。
いつかこのようなイベントを特許明細書でも同じようにやりたいなと思いながら会場を後にしました。

エンタメイベントとして成立するのか?

翌年の新春、Twitterで2名の弁理士によるクレーム作成のバトルをイベント会場でやってみたいと呟いたところ、多くの同業者の方からぜひ見てみたいという声をいただくともに、にょんたかさん、安高さん、ドクガクさん、大樹さんからはイベントを開催するならお手伝いしたいという連絡をいただき、イベントの開催に向けて動き出すことになりました。
また、このツイートをたまたま東京カルカルのイベント企画担当の方がご覧になり、お声がけをいただいて打ち合わせを行うことになりました。
その際に私の頭の中にあったのは、特許明細書のクレームを複数の弁理士が作成するコンテストそのものは過去にも様々なものが行われていたので、それとどう差別化を図ってエンタメとして昇華させるかでした。そこで思いついたのが、昔よく見ていたテレビ番組の「料理の鉄人」でした。
料理の鉄人も2人の料理人が初見の食材に対して60分という制限時間内に調理を行い、3名または4名の審査員が採点することにより勝敗を決めるというものでしたが、この番組が始まるまでは料理人が自分の調理プロセスを外部に公開することは殆ど無かったところ、一流の料理人の調理の過程を全て可視化してテレビ番組としてお茶の間に届けるというのは当時としては革命的なスキームだったと思います。
そこで料理の鉄人のスタイルをそのまま今回の弁理士の対決イベントに持ってこようと思いましたが、料理の鉄人は調理という動きがある一方、クレームの作成は弁理士がひたすらパソコンに向かってキーボードを打ち続けるという地味極まりないものであったため、これがショーとして面白くないのではないかという懸念がありました。このため、本番の前に当時渋谷にあったIPTechさんの会議室でプレイベントとしてにょんたかさん出題、ドクガクさんと私が選手役としてデモを行い、東京カルカルのイベント企画担当の方にエンタメイベントとして成立するか否かを判定してもらうことになりました。
その時もにょんたかさんの凝ったお題に選手は苦労しましたが(途中で今回出演する佐竹さんも選手として参加しました)、大画面モニタの左右に表示される2つのワードファイルに文字が次々と打ち込まれて制限時間ギリギリまで選手が必死にタイピングする様子が非常に面白いと担当の方におっしゃっていただき、エンタメイベントとして会場でも競技性と娯楽性を両立できると確信することができました。

第1回、第2回のイベントを開催して

このようにして第1回イベントが2019年6月、第2回イベントが2020年1月に開催されましたが、毎回最初に会場挨拶で必ず「クレームの作成は十人十色。弁理士によってクレームの作り方は千差万別であり、イベントの性質上勝ち負けを決めるようにしているが勝敗はあくまで時の運です。勝ったほうが優れており負けたほうが劣っているということは決してありません。」と言っています。このような奇想天外なイベントに選手として参加すること自体が非常に勇気のあることであり、それだけでも尊敬に値すると思います。
イベントの趣旨は、弁理士の持つ特許明細書の作成のプロフェッショナルの腕を観客の前で可視化することでありますが、25分という非常に短い時間でそれを全て表出させることはできません。イベントの世界観として「競技性よりもエンタメ性」を打ち出していたため、選手としてご登壇いただいた弁理士の方にとっては不完全燃焼であったり自分が考えていたのと違うと思われたりしたかもしれませんが、そこはご容赦いただければと思います。
第2回では、第1回のイベントを観戦した方から不満点、改善点をできるだけ拾い上げて改良を図るようにしました。投票を行うときに選手が作成したクレームを手元のスマートフォンやタブレットで見たい、審査員による解説がほしい、クレーム作成後のプレゼンは後攻が圧倒的に有利なのでプレゼンの先行後攻の不公平を是正したいといった部分は第2回では改善が図られたのではないかと思います。
第2回のイベントレポートをちざたまごさんに上手くまとめていただいたので、イベント当日の雰囲気を知りたい方はこちらもぜひご覧ください。

第3回のイベントに期待すること

第3回については、今年に入って知財塾の代表取締役社長である上池さんから熱いラブコールをいただき今夏に開催する運びとなりましたが、私が現在色々なことに手を出しすぎてしまっており余力がないということもあってイベントの主催を知財塾と東京カルカルの共催という形にしていただきました。今回はアドバイザー的な役割で協力させていただいていますが、いずれは純粋な一観客として楽しめるときがくればいいなと思っています(笑)。
特許の鉄人はエンタメとしても大いに楽しめると考えていますが、弁理士のクレーム作成の実務をリアルタイムで披露すること自体が非常にレアであり、しかも同じ発明テーマについて2人の弁理士が作成したクレームを対比することができるという点で観戦者にとっても実務で参考になる部分が多いのではないかと思います。
知財塾のミッションは「知財の現場における初期教育の悩みを解消する」ことにあります。今回のイベントの開催にあたって、一流の実務家によるドキュメントの作成のショー化は同業の実務家にとってはもちろんのこと、知財業界に入ってきたばかりの方(特に特許明細書作成の初学者)や、知財に直接は携わっていないが業務で研究や開発を行っており特許明細書を読む機会がある方にとっても非常に参考になるのではないかと思います。
まずはエンタメとして今回開催のイベントを現地またはオンラインでお楽しみいただき、その後は各選手による振り返りや知財塾から出されることが期待される今回のイベントの教材コンテンツをご覧いただき、弁理士が普段から業務として行っているクレーム作成の奥深さを広く知っていただければ幸いです。


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