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五行歌+文章の魅力

 こんにちは。南野薔子です。
 栢瑚メンバーの水源純さんが、ここのところあいついで、文芸関係の企画に五行歌と文章の組み合わせでの作品を出しました。ひとつは『招文堂の文芸アンソロジーおまねきvol.2 纏 まつわる』で、水源さんは「鰤を食す」という五行歌+エッセイを出しています。もうひとつは『ブックハンターセンダイ制作・もりのアンソロジー ななつの森からとどいた小函』で、水源さんは「イチとナナ」という五行歌+物語を出しています。
 どちらの本も、水源さん以外にもさまざまな方がそれぞれの個性を発揮した作品を掲載していますのでぜひどうぞ。
 招文堂オンラインはこちら。

『ななつの森~』の方は完売らしいですが、ブックハンターセンダイのショップはこちら。2023年12月11日まで。

 さて「鰤を食す」は、読んでいて本当に鰤がおいしそう。また、鰤の話を通じて、親子関係や日常生活のことも実感的に伝わってくる。
 水源さんは鰤の下ごしらえを丁寧にするという。私は面倒くさがりなので、鰤の切り身に塩をする程度の下ごしらえしかしないし、調理法も塩焼きか照り焼きか、柚子などがあれば幽庵焼きか、ぐらいしかしない。これを読んで、今度鰤大根でもするか……と思った。多分、こういった下ごしらえに手間をかけたり、いろいろな料理にチャレンジしたりするか、というようなところの個性は、五行歌や文章の個性にも反映されるのだろうという気がする。水源さんの作品にはその書く対象を丹念に実際的に見つめているという姿勢を感じるので。
 文章の中に差し挟まれた五行歌がいいアクセントになって、鰤やまわりの人との関係性がより立体的に浮かびあがる。

 「イチとナナ」は、一匹狼になろうとしてなれなかったイチと、イチを一匹狼にしなかったナナの物語。狼の話なんだけれど、人間社会にも通じるものがある。イチとナナ、それぞれの個性を浮かびあがらせる筆致に、やはり水源さんらしい視線の丹念さを感じる。イチにもナナにも、なんだかわかるような気持ちをおぼえつつ、でも私はどちらでもない、どちらにもなれないなと思ったりした。物語のトーンとしては明るくはないのだが、最初と最後に置かれた五行歌に、それぞれ何かやわらかく灯るものがあるような感じ。

 水源さんは他の文芸企画でも五行歌+エッセイという形式を積極的に出品して好評を得ている。また、栢瑚で毎年出している冊子『栢瑚』には、二冊目以降、栢瑚メンバーが五行歌一首+エッセイを掲載しているコーナーがあるのだが、それがよかった、という反応が心なしか多い気がする。
 なんとなく思ったのだが、この五行歌+エッセイという形式のよさは、歌会の楽しさとも通じるものがあるかもしれない。
 歌は歌として、それ自体作品として完結していなければならないし、そうやって完結した作品は誰がどんな解釈をするのも自由である。けれど、歌会の場では、作者は、その歌が出来た経緯やこめた思いなどを他の出席者に向けて語ることになる。それを聞き、それについて語り合うのもまた一つの楽しみでもある。歌に、それにまつわるエッセイを添えて出すことは、そういう歌会の楽しみのようなものをシェアする面もあるかもしれない。また、そうやって、歌にまつわる状況を綴ることで、それを読んだ人が、歌の生まれ方について知ったり、ヒントを得たりしてくれることもあるかもしれない。
 あとちょっと思ったのは、文章がエッセイにせよ、物語にせよ、五行歌はわりと溶け込みやすいのではということだ。
 私は南野薔子として五行歌を書くが、それぞれ別筆名で自由詩、短歌、俳句も書く。そうやって四つの詩型を書いている中で感じるのは、いわゆる散文詩を別にすれば、五行歌が一番散文に近いということだ。多分、散文の中に五行歌を混ぜても、そこで「詩歌を読むモード」に切り替えなければならないといったある種の壁が、五行歌の場合比較的低い、歌の作風によってはほとんどゼロになるという感じがする(もっとも、そのモード切替自体が作品のスタイルの一つであり得るので、他の詩型と散文を混ぜるのは読みにくくてよくないという話ではないことをお断りしておく)。その種の読みやすさが、特に水源純さんの作品の場合活きているという気がしている。
 詩歌というと現在の日本では残念ながら文芸の中ではマイナージャンルだから、ちょっととっつきにくい壁があると思われていても仕方ないし、ましてや五行歌は、その中でも歴史が短く知名度も低いためさらにマイナーな存在、でも、文章と組み合わせて出すことで、広く知ってもらえたり、親しみを持ってもらえたりする可能性は増えるかもしれないと思ったりした次第である。
 
※栢瑚の冊子は栢瑚サイトのContact(トップページ下の方)からの注文、栢瑚ツイッタ(X)のDM経由、その他書店委託やイベントなどでも販売しています。上記招文堂オンラインさんでも扱っていただいていますのでもしよろしければ。メンバー個人の五行歌集もあります。

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