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「御法度」の松田龍平はやばい。

安心してくれ、これだけ書いているのに大したネタバレはない。ただ外観的な要素を語っているだけだ。存分に見てくれ。

たまたまテレビで松田龍平のデビューについて触れていて、そのデビュー作である「御法度」のポスターが表示されたときに「なんて綺麗な絵なんだ」と思った。気になって調べてみると話もかなりおもしろそう。しかもどの画像も美しい。これは見たい!と思い深夜の1時にレンタルして見た。

どんな話か簡単に話すと新撰組内に加納惣三郎という美男子が加入したことで隊内で様々なことが起こるといったミステリーだ。原作は司馬遼太郎。衆道の描写も強いので苦手な方はお引き取りを。

若い頃の松田龍平、とんでもないよ。ほんと。

筆ですっと引いたような涼やかな目に形のいい鼻筋。唇は控えめであどけなさを感じる。その浮世絵のような上品な面立ちに加えてしなやかな長身とほっそりとした指先。絵に描いたような日本的な美人だ。まるで泉鏡花の作品に出てくる女のような儚げで頼りなさげだけれどもどこか愛らしく、そして自然で生々しい妖しげな色っぽさを薫らせた雰囲気がそこにあった。
「うっとり」という言葉がこれほど合うことはない。黒の着物に長い刀をさして髪を揺らす姿を恍惚と見てしまう。やはり美人なだけでもかわいらしいだけでもあの"魔性"は表せない。もっと悠然と。もっと魅惑的。そしてもっと"恐ろしい"。目が合うと時空もくらりと燻らすようなあの"恐さ"を出すにはあのような古典的でひっそりとした美が必要だ。静謐なおそろしさというべきか、なんというべきか。

加えてあの声だ。「鈴がなるような声」「凛とした声」とはああいう事だったのか。まだ若さが残る少し高い声は涼やかでよくとおる。ちょっと空気の多い声質もさらりとした心地よさがある。鈴のなかでも風鈴のような爽やかな風情まで感じさせる。それでもやはり男。男らしい低い声で話すとそれはそれで体に染み渡るような冷たさと力強さがある。その声がふわりと嬉しそうな声色になったりちょっと上ずってみたりなんかしてみろ。はい、ロックオン。キマりましたーーーーー。ストライク!!バッターアウト!!!!。

彼の美しさは影が一層引き立てる。それは"影"であり"陰"である。控えめで端整な顔にくっきりと影が落ちる。するとより肌は蝋のように白く、目元はくっきりと滑らかな弧を描く。それは彼の演じる惣三郎の"陰"のようにも見える。惣三郎の"恐い"部分"妖しい"部分を感じさせるのが「薄暗い場面」。この「薄暗い」というのは「雰囲気が」ではない。絵的に、照明度として「薄暗い」場面だ。それは寝床の場面や、夜道の場面。雨の中歩く場面に川辺で戦う場面。彼の印象深いシーンはほぼすべて「薄暗い場面」だ。暗闇の中に行灯や月光のぼんやりとした灯りがある。そこに黒の着物を着た長身と白い顔がよく映える。少し鼻筋なんかが光るのもまたいい。どことなく幽霊や妖怪を思わせる妖婉さがある。

惣三郎は基本表情をあまり変えない。だからこそ少し笑うと年相応な若さと愛らしさがあり心が揺れる。時にはその笑顔はこわくもあるのにも関わらずやはり魅力的。口元の動きやまばたき、指先の仕草や顔の傾け方まで見入ってしまう。松田龍平にとって初めての演技であれができているのだから、きっとあの動作の細やかでいじらしいのは彼自身の元来身についたものなのではないかと考えると圧倒されてしまう。確かにこの作品の演技はまだ上手いとはいえないかもしれない。しかしむしろ技術で飾っていないからこそ素材がくっきりとみえる。これは若き松田龍平が元々持っていた才を遺憾無く生かした作品のように思う。

浮世絵を眺めているような美しさがあった。
幽霊に憧れるような危うさがあった。

なんだか今回はおもしろいことの一つも言えなくて申し訳ない。
そのうち内容についても語る。これはおそらくネタバレを含むためぜひ皆さんも映画を見てから読んでいただきたい。あまり居間で大勢の前では見ない方が良い。気まずくなるぞ。親の前なんて最悪だ。こそこそパソコンやらスマホで見るのがいい。

生まれ変わったら松田龍平になりてえな。

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