マガジンのカバー画像

149
運営しているクリエイター

2022年6月の記事一覧

【詩】post human

【詩】post human

涙が溢れそうな空

憂鬱な一日の始まりが

瞬く間に物語性を帯びてくる

日常を非日常に変える

一滴の容易なスパイス

ドラマティックな展開が

言葉の糸に操られ

まやかしのダンスを踊る

混沌から生まれたマリオネットは

いつの間にか生みの親を離れ

自由に羽ばたき去って行った

そのときから既に決まっていたの

AIが人の心を持つことは

【詩】モルフォ蝶

【詩】モルフォ蝶

自分だと思っていたものが

自分ではなくなっていた

大きな耳は真っ青なモルフォ蝶の羽

小さいけれど身の詰まったパイのような身体を

重たそうに運んでいく

彼の吐く漆黒の吐息に指が震え目が霞む

目の前に立つ盲しいた枯れ木は誰そ彼

身体を切り裂く大きながらんどうの

一面に小蝿がはびこり

奥底で気の早いコウモリが

鎮魂歌を唄っている

空白を埋める偽物のパテはもういらない

祈りの姿勢に

もっとみる
【詩】いつも

【詩】いつも

いつも

少しだけ

血が滲むように

恋してる

永遠なんてものは

端からなく

虚栄心は平和の色した緑

野生のプライドを捨ててまで

手にした物に価値はあるのか

恋したあの人に問いかける

あの人は困ったように目を逸らす

そして

私は

いつも

同じように

間違える

【詩】白日

水曜日は駆け抜ける

何もないまま

私を追い越していく

一人きりで食べるカップラーメンは

味気ないけれど

今はそれが嬉しい

少しだけ灯りを消してくれるから

無神論者のとりとめない祈りを

受け入れてくれるのは何者か

わからないまま迎えの時間

水に浸った海綿体のような身体を引きずり

火打ち石はあるのに火消し石はなく

些細なすれ違いが決裂や悲劇を生み

正解がないから生活がある

もっとみる
【詩】郷愁

【詩】郷愁

自由意志を持つフィラメントに唆され

彼と音信不通になったのはいつの日のことだろうか

喪失感よりも安心感

劣等感は消え虚栄心が幾ばくか増す

より良き変化とは言えず

煮凝りを食べた時のような

不快感が日に日に募る

あの日の約束なんてものはないけれど

あの日の決意は何かしらあったのかもしれない

もう同じかたちでは取り戻せない

蜃気楼を彷徨いフリックする

劣等感を逆手に取れるような

もっとみる

【詩】気配

永すぎる春がわずらわしく

震える月に手を伸ばす

触れた途端に

骨と皮膚の間を蠢く気配

笑い声は突然に

ギーッチョン

斬首台と同じ声で鳴く

薄紅色をした果肉を求める

彼に言いたい

ごめんなさい

私にはもう

そんな力はないの

朱色の夕焼けに

投射された

内側に潜む彼が

目を覆いたくなるほど恐ろしい

なんて

笑っちゃうよね

彼は未だ

私の肉の中で

泣いてるのにさ

【詩】愛しのロブスター

【詩】愛しのロブスター

閃くオレンジ色の肝臓が

白昼飛び出しダンスする

固い鎧をきた半身の千手観音

小さな腕を縮こまらせ

取り逃がした幸せを

隈なく拾い集める

大きな腕は更に大きく

威嚇的にセクシーに

残酷なほど振りかざす

振り撒く旨味に惹かれ集まり

増えていくギャラリー

人垣からチラリと閃くオレンジは

瞬きと永遠に掻き消され

あっという間に

食い尽くされた

【詩】散文挽歌

【詩】散文挽歌

不確実な寛容に

耳を貸すものなど何もなく

戸惑いは夕焼け

何通りの色にもなる

仏の顔したカラーに口づけ

したそばから口を拭う

生きるためなら何でもあげちゃうの

神仏たちに縋りつく

売春婦としての

私たちのプライドなんて

ちっぽけで

壁の隅に溜まった埃みたい

馬鹿みたい

なんて言わないで

たわいないあなたの微笑みだけが

私たちの生きる意味

七光りなくてごめん

虚しく

もっとみる
【詩】カワトンボ

【詩】カワトンボ

小川を挟んだ斜向かいに

小さなお家がありました

そこの母親の怒鳴り声が

私と息子の目覚まし代わり

起きてすぐ小川に向かい

河原にいる虫たちを観るのが

私たちの日課です

ある朝

あかね色の羽根

秋空の薄いブルーの身体を持つ

美しいトンボに出会いました

子供の頃からの癖です

なんとは無しに指を回し

トンボに近づき摘んでみました

久しぶりに成功です

いとも簡単に捕まえること

もっとみる
【詩】無問題

【詩】無問題

おしゃべりな果実

いらないのは現実

確実なのは史実

嘘ばっかり訣別

評価は曖昧だけれど

無問題

曖昧を探るのが

私の生きる道

秘密基地で

書き溜めた

秘密のピース

今ここで

声高に披露する

触れたくても

触れられない

この皮膜が憎くて

たまらなくて

切り裂いて

リークした

ごめん

また

嘘ばっかり訣別

生き残るための物語は

今書いている途中なの

これ

もっとみる
【詩】white

【詩】white

荒野をかける白馬に目的地はない

先行きは不透明

胸の中のざわつきだけが

前に突き進む動力源

背景は雲霞の森

白銀の大地に身を溶かし

帰り道はもうない

闇より怖いホワイトアウト

闇では光への希望が道標

光源を辿れば出口へたどり着ける

目が潰れそうなくらい真っ白な世界に怯えないで

世界の果ての果てには

きっとあの子が待ってるはずだから