日にち薬

 「日にち薬」という言葉に、最近初めて出会った。「ひにちぐすり」と読むらしい。意味は「月日が経つことが、心身を癒やしてくれる何よりの薬」という。失恋をしたときに、時間が癒やしてくれるとよく言うが、それを表す言葉があったとは。字の並びから、薬といえどなんだか温かくて苦くなさそうだ。もちろん「日にち薬」なんていう薬品は存在しないのだけど、日にちというのは本当に傷を癒やしてくれるものだと思う。

 いつかの大失恋の時、いくら時間が経てば忘れるよと周りに言われても、とても信じられず、一生泣いて暮らすのだと思っていた。辛いけど、忘れたいとは思わなかった。病気やけがは、何事もなかったかのように跡形もなく治したいと考えるのが普通だ。失恋の辛さは、なぜか忘れたくないと思ってそれが余計に自分を苦しめた。でもそんなことも遠い昔の話だ。

 先日無事提出した卒論も、執筆中は、無限にこの時間が続くのではないかと気が狂うかと思ったが、終わって半月も経っていない今、私の心はすっきりと晴れ渡り、身体まで軽くなった気分だ。私の性格のせいでもあるのだろうが、あの地獄のような辛さも、忘れかけてのほほんと過している。(発表はこれから。)

 どんなに固い決意も、時間には適わない。時間だけは、止まることも戻ることもせず、平等に流れていく。辛い日々も、楽しい日々もみんな過ぎていくのだ。過ぎていくことは、変わっていくこと。変わることは、時に寂しさを感じさせるが、わくわくした気持ちをもたらしてくれるものでもあると思う。

 私は春に、学生から社会人へと変わる。比較的のんびり過ごした学生生活を終えることは少し寂しい気もするが、新たな環境に飛び込むことへの期待の方が大きい。これから先、辛く苦しい時が訪れても、時間は過ぎて、変わっていくことを忘れずに強く生きていきたいと思うばかりだ。

美味しいごはんが食べたいです