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その子のお世話するように、自分にも親切にね

うちには中学生の子どもがいる。私の実家は名古屋だが、当時、夫の転勤で住んでいた神奈川県の横須賀市で出産した。夫はそのころ特に仕事が忙しく、産後の家事と育児はほぼ私一人で行うことになるとわかっていた。引っ越して来たので知り合いもおらず、産後の体調面にも自信がなかった。なので、生む前にいろいろと調べておいた。

愛らんどよこすか

各地域に、子育ての支援施設があることを知った。そこは0才児から連れて行けて、遊ばせたり長い時間過ごすことができるらしい。ものごとを一人で抱え込む癖があり、なにごとも真面目に、というより過剰にやりすぎがちな私は、今までの経験から考えると家の中にずっと子どもと二人きりでいるのは危険だと思った。それで、こういう施設に頼ろうと決めた。

幸運なことに歩いて行ける場所にその施設があった。「愛らんどよこすか」という場所で、そこには育児の相談に乗ってくれる相談員さんも常駐していた。子どもの首がすわったころから、私は毎日のように通った。

ずっと黙ってた

ママ友は、無理に作らなくていいと思っている。愛らんどに通いながら、私はずっと黙って子どもと過ごしていた。誰かとしゃべれば、私の場合、少なからず気を遣う。夜、ほとんど眠れていない私にはそういう余裕がなかった。

それでもそのうち、支援員さんとは話すようになった。とにかくわからないこと、つらいことだらけだったので質問ばかりしていた。子どもはどんどん大きくなっていき、ハイハイをするようになった。そうすると、他の子を触りに行ったりかまったりするようになる。それで知らないお母さんたちとも、少しずつしゃべるようにはなった。

私の場合は、とても助かった

愛らんどは私にとっては居心地のいい場所だった。もちろん全員がそう感じていたとは思わない。だが少なくとも私は助けられた。あの場所があったから、いわゆるワンオペ育児、と言われる家庭の事情があってもなんとかなったと思う。家以外にいられる場所、夫以外に話す大人がいたこと、これに助けられた。さらに、ママであろうとなかろうとこの人とは仲良くなってただろうな、と思える友達もできた。

「あいらんどへ行こうよ」

私は今は札幌でパートで仕事をしながら、音楽活動もしている。去年の夏「あいらんどへ行こうよ」という曲を作った。この曲は愛らんどよこすかがモデルにはなっているけれど、ノンフィクションではない。たくさんの経験や事実から抽出したものを使って作った創作物だ。

私が通っていた愛らんどは、運営法人も代わり、仲の良かった支援員さんももういない。誰にとっても居心地のいい場所だっかのかはわからない。こういう場所に通う方がストレスになる人もいると思う。それでも、行こうよ、と歌にしたかった。家に二人きりでいるよりずっといいよ、その子に優しくするようにちゃんと自分自身のことも大事にしてね、と歌にしておきたかった。頑張りすぎている誰かに、伝えたかった。

社会の変化と交通事故と

2020年に入って、社会の状況は変わってしまった。私の出産した時も大変だったけど、今はもっと大変かもしれない。子育て支援施設も閉所期間があったようだ。「あいらんどへ行こうよ」という歌を作ったが、今の状況にはそぐわない部分もあると思う。

8月に私は交通事故に遭った。そのためしばらくギターが弾けなくなった。それでGarageBandという音楽制作ソフトで曲を作ったり録音したりすることを始めた。その作業に慣れてきたころ、去年作った「あいらんどへ行こうよ」という曲をなんとかしよう、もっと聴いてもらえる形にしようと思った。軽症ですんでいるけど、死んだり大ケガをしていてもおかしくない事故だと言われた。当たり前だけど、やりたいことをやれる時間には期限があることを実感した。

声に出すこと

子育てだけとは限らないけれど、閉じた空間の中で大変な思いをしている人、そういう人にはぜひなんらかの形で外に助けを求めてほしい。「一人で全部やらなくっちゃ、迷惑かけないようにしなくっちゃ」ってがんばりすぎてる人に、誰かに頼ってもいいと思うよ、と、私は少し大きい声で言いたくなっていた。

GarageBandでアレンジをして録音もして、私はこの曲をネット上で聴けるようにした。今の私にできること、やりたかったことをやった。みんなが壊れませんように、って祈ってるけど。それだけじゃなくて。声に出してみた。



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