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播磨陰陽師の独り言・第二百七十七話「スタローンさん」

 ゲームの開発をしていた頃の話です。当時、映画『ランボー2・怒りの脱出』が流行っていました。それで、映画会社と契約して、この映画のゲームを作ることになりました。その時、開発していたのが『怒IKARI』と言うゲームです。まだ契約が決まっていなかったので、〈怒りの脱出〉ではなく〈怒〉だけのタイトルを仮につけていました。勝手に作っていたのではありません。契約は順調に交わされていました。
 あの頃、そんなことは忘れていました。ゲームを作るので精一杯だったのです。毎日、会社に泊まり込んで徹夜の作業が続きました。夜中の方が調子良く作れていたのかも知れません。昼間は体調も悪く、仕事をし過ぎて血を吐くこともありました。その内、人間の能力を超えるような瞬間がやって来て、とても出来ないような作業を何なくこなせるようにまでなりました。画面を触っだだけで、正確に座標を言えるようになったり、大量の16進数のデータをチラチラ見ているだけで、一瞬でデータの間違いを指摘出来るようになったのです。仕事が終わったら、もう、その能力は残りませんが、自分でも、まったく驚く能力でした。
 入力するだけて何日もかかるデータを一晩で作ったこともありました。そんなこんなで大変な作業を終えて、アメリカにロケーションテストにかけた時、とても良い結果が出ました。ロケーションテストと言うのは、ゲームセンターなどにゲームを置いて、一日に幾らお金が入るのかをテストすることです。
 日本国内はもちろんのこと、アメリカでも良い結果が出て、アメリカでの発表会を迎えました。すると、すでに噂を聞きつけた業者たちが、
「アイカリー、アイカリー」
 と叫ぶのです。〈アイカリー〉と言うのは、ローマ字でIKARIと書いたタイトルの英語読みです。そして、
「何でも良いから、はやか売ってくれ」
 と、もう、大変なことになりました。
 それで、すで契約していた正式タイトルに変えることが出来ず、〈怒りの脱出〉は諦めて、〈怒IKARI〉のままで発売となった訳です。契約はこちら側の都合で破棄となったので、
「スタローンさん、ごめんなさい」
 と誤って、ゲーム機をプレゼントすることで、丸くおさまりました。シルベスター・スタローンさんの家には、当時、怒IKARIのゲーム機があった訳です。

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