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播磨陰陽師の独り言・第三百五十七話「祓いの掟」

 祓いには様々な掟があります。もちろん、決まりは決まりであります。それとは別に〈掟〉と言うべき物事があるのです。
 決まりとしては、儀式の手順が決まっています。その時にあげる祝詞も書式が決まっています。また、何を祓うのかについても、使う祝詞や儀式の手順が決められていて、自由にやれる訳ではありません。しかし、自由さのある場合もあって、厳密にこうしなければならないと言う訳でもありません。
 しかし、いざと言う時は、決まりではなく〈掟〉を駆使して祓います。
 さて、古事記の冒頭に出て来る造化ぞうかの三神に……天の御中主の神、高御たかみ産霊むすひの神、神産霊かみむすひの神がおります。
 この内、高御産霊の神と神産霊の神を合わせて〈産霊うぶたまの神〉と呼びます。この神が決めた掟を〈産霊の神の掟〉と呼んでいます。
 この掟……祓いの時に物凄い力を発揮します。掟はたくさんありますが、中でも強力な掟は、
——ひとたび霊を祀れば、必ず人を守らなければならない。
 と言うものです。祟りであろうと、呪いであろうと、この掟を祝詞の中で告げれば、必ずおさまります。そして、手に負えない怨霊でも人を守ってくれるのです。ただし、古語で、しかもキチンとした手順で霊に伝えなければなりません。そこが少し厄介です。
 江戸時代や明治の頃の祓いの記録にも、
——いよいよとなったらこの掟を使え。
 と、詳細な記録が残されています。これは、とてもありがたいですね。危ないことがあっても、過去の記録を当たれば、何とかなる道が示されているのですから……。
 どのような場合でも、祝詞をあげている時は、恐怖の感情を持ってはなりません。特にこの掟を使う時、怖れは禁物です。恐怖の感情は魔物を喜ばせるだけです。しかも、場合によっては新たな魔物を呼び寄せてしまいます。
 人の恐怖の感情は、魔物の棲む異界の扉を開いてしまいます。怖れるだけで、向こう側の住人である魔物がやって来るのです。
 もし、あなたが、
——魔物や幽霊なんかは信じない。
 と思うのなら、夜中に心霊スポットへひとりで行って、存分に怖れてください。恐怖の臭いが漂うと余計なものまで現れます。そして、あなたの人生を悲惨なものに変えてしまうのです。これはあくまで自己責任ですので、他の人を巻き込まないでください。不幸になるのは信じない人だけで十分です。
 恐怖が魔物を呼ぶからと言って、恐怖の反対の感情が、神を呼ぶかと言うとそうではありません。神を呼ぶにはそれなりの人格と、手順がそろっていなければなりません。その上で強く感動すると、それに見合った神がやって来るのです。

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