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播磨陰陽師の独り言・第百七十四話「寒いですねぇ」

 先日、北海道でマイナス17度の寒さを記録したそうです。
 毎日、寒いですねぇ。
 私の田舎・十勝平野では、他でも言うかも知れませんが、この物凄い寒さのことを〈しばれる〉と言います。
 祖母によると、
「凍った荒縄で、濡れた手足を縛られるような寒さのことを、寒さにしばられると言っていたものが、やがて省略されて、しばれるになって行った」
 そうです。
 北海道でも十勝平野は特に寒いので、子供の頃、マイナス34度まで経験があります。ここまで寒くなると、もう、訳が分からなくなって来て、耳が、にわかに千切れそうになります。感覚だけで、千切れることはないのかも知れません。耳はまだ健在なので、もちろん、千切れたことはありません。
 寒過ぎると、まずは耳から凍りはじめます。
 次に、耳の周辺の首筋が凍りはじめると、次第に眠くなるのです。ただの酸素不足で脳の機能不全を起こす現象だと思いますが、これが不思議なほど良い気持ちになります。寝入りばなの、少し寝ぼけたような感じですか、ほんのり酔った感覚にも似ているような気がします。
 もし、ここで寝てしまうと凍死する訳ですが、こんな時はワザワザ目を覚まして頑張って生きるしかありません。
 なぜか突然、頭の中でスイッチが入って、
——生きてやるぞ。
 とか思う訳です。こうなると寒いのも気にならなくなります。寒くないのではありませんが、気にならなくなるのです。
 寒いとか思ってる暇がなくなり、どうすれば生きていれるのかを全力で考えてしまいます。この時、脳が全開するような奇妙な感覚に陥ります。もちろん、全開することはありません。もし、こんなことで、いちいち全開していたら、努力も苦労もせずに天才になれる筈です。こうなると、もしかすると冷蔵庫に頭を突っ込んだだけで、天才になれるかも知れません。そんなのには少し憧れてしまいますが、現実は凍死しないだけで、頭の方は少しくらいは良くなったかも知れません。自覚出来ないので分かりません。
 大阪ではそれほど寒くはありませんでした。しかし、それでもある程度、寒くなると、突然、目が覚めたような気分になります。
 それまで、
——おぉ、さぶ。
 とか思って震えていても、震えは止まるのです。それから、やたら色々なことが高速で考えられるようになると言う、不思議な瞬間がやって来ます。しかし、なにせ瞬間のことなので、その時に考えたこともすぐに忘れてしまうのですが……。

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