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播磨陰陽師の独り言・第421話「クリスマスのこと」

 子供の頃のサンタクロースと言えば、まだアメリカから入って来たばかりだったのか? それとも私の田舎が地方過ぎたのか? 貧相な老人が赤いステテコ姿にオーバーを着たような、妙に垢抜けないスタイルでケーキを売っていました。ケーキも今とは違いバタークリームで、酸っぱい苺が乗っていました。
 どこかに書いたと思いますが、私の田舎にはクリスマスにケーキを贈る風習がありました。ショートではなく、丸まんまのケーキが飛び交うのです。大きな箱に入ったケーキが何箱も届くのは壮観でした。時には五つものケーキが家に運ばれました。しかも、それに加えてアイスクリームで出来たケーキまでつけられていました。北海道の冬はストーブを思いっきり焚いて、半袖でアイスを食べると言う妙な風習があります。汗をかきかき、冷えたアイスを頬張るのが、最高の贅沢だとされていました。
 さて、クリスマスと言えば〈救世軍〉。この単語を知らない人も多いと思います。救世軍と言うのは、怪我を負って帰還した旧日本兵の人々で構成されたキリスト教の組織です。何をする団体なのかは知りませんが、寄付を募るため、ラッパなどを吹いて呼びかけていました。それも年末の雪の降る中でです。クリスマスの季節に多いのです。私の中では、クリスマス、ケーキ、ラッパの音、雪、救世軍がセットになっています。それぞれ独立した思い出ではなく、一緒に思い出すのです。
 私はこの〈救世軍〉が怖いです。しかも、トラウマ的に怖いです。旧日本兵と書きましたが、あの軍服を着ているのです。しかも、服そのものがボロボロで、手足もボロボロの姿です。つまり、手足の一部がないのです。あちこちに包帯も巻いています。血がついていることもあります。私にとって彼らは、生きているとも、死んでいるとも言えません。何だか分からない正体不明の存在です。そして、進軍ラッパを吹きながら、募金を募っていたのです。しかも、クリスマスソングの間の手として、ラッパを吹いていました。今でも思い出すとブルっとします。
 だからでしょうか? 今でも手足のない人を見るとゾッとします。別に本人のせいではありませんが、怖いのです。パラリンピックなど怖くて見ることも出来ません。
 最近、自分の手足に手術の跡が出来ました。それを見る時にも、やはり救世軍のことを思い出します。しかも、クリスマスが近くなると、手足の傷跡が怖くなるのですが……。

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