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播磨陰陽師の独り言・第百六十六話「病院の怪」

 学校とか病院とかに怪談はつきものなのか、前に入院していた病院にも怪談話がついていました。別に看護師さんたちに聞いてまわった訳ではありませんが、昔からこの病院の噂話は聞いていました。
 ふと、夜中に、リアルタイムに体験したことを報告してくれる看護師さんもいました。
 たいがいは報告してくれた後、
「どうしたら良いでしょう?」
 と聞かれます。その都度、適切な対応を伝えています。

 さて、この病院は、戦時中、陸軍病院でした。軍医たちは、戦後になって資格を剥奪されたのでたいへんだったそうです。昭和の半ば頃に軍医がいるのが分かったそうで、少し騒ぎになりました。
 それはある事件がキッカケでした。
 昭和四十五年(1970)四月八日、夕刻のことでした。天神橋筋六丁目でガス爆発事故がありました。当時の記録によると死者79名、重軽傷者420名の大惨事でした。爆風による家屋の被害は千棟を超えたそうです。そして、天神橋六丁目付近のたくさんの病院に怪我人が収容され、死人たちが安置されたと言います。入院していた病院は、現場から最も近かったこともあり、多くの死体が安置されたそうです。まぁ、これはあくまでも地元に伝わる噂ですので、どこまでが本当なのかは知りません。あれから五十年近くも過ぎて、今では、建物も新しくなっています。しかし、もれ聞く噂などから判断して、当時の亡霊たちは、まだ、うろついているようです。
 亡霊は建物ではなく、土地に縛られる存在なので、何度、建て替えても残ります。
 夏場は、
「あの階には夜中に……」
 とか色々と聞きましたが、病室から出ることが出来ないので確かめる術もありません。
 私の部屋は寂しい感じの端の部屋でした。
 入院した時、夢に多くの軍医たちが現れて、
「他の連中からは守ってやる」
 と言われたので安全なようでした。その時、口外出来ない約束を交わしました。夜中に、外の廊下に妙な気配とかある時もあります。脳神経外科の病棟を兼ねていることもあり、亡霊なのか、ただのおかしな患者さんなのか区別がつきません。
 時々、夜中に、お婆さんの、
「ちょっとぉ、ちょっとぉ」
 と言う不気味な声が聞こえました。看護師さんたちが無視しているだけで、実在の患者さんらしかったです。
 満月の真夜中なんかは、知らないお爺さんが、
「行くとこがあんねん」
 と言いながら部屋に入って来て、慌てた看護師さんたちに連れて行かれたこともありました。まぁ、あれが亡霊の類だったとしても、慣れているので怖くはありませんが、スリルもあって、結構、楽しめました。

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