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播磨陰陽師の独り言・第百六十五話「マーケティングしない世界」

 ゲームの開発の仕事はマーケティングと言うものを行いません。マーケティングにはいくつかの種類がありますが、ここで言うマーケティングとは、今の流行を調べて商品を作ることです。
 ゲームの開発は何が世間で流行しているかなど無関係な世界です。流行に乗るのが商品開発では必要な要素と言われています。しかし、ゲーム開発をしていた頃、社長に、
「今は、こう言うゲームが流行していますので、次は、こんな感じのゲームが流行すると予測されます」
 とか言おうものなら、
「はやっているゲームを追いかけて、どないすんねん。メーカーは、はやりを生み出さなあかん」
 と怒られました。
 マーケティングを専門に学んで来た人が社長に意見でもしようものなら、
「わかっとるわい。誰も作ったことないゲーム、作るからヒットするんや。それまではゲームは博打ばくちなんや。博打にマーケティングなんか必要ないわい」
 と怒っていました。
 確かにマーケティングをすると、大きな問題にぶち当たります。
 世間では、テレビを見ない人が増えて、しばらくたちました。最近は、雑誌を見ない人も増えているそうです。漫画ですら出版不振にあえいでいます。ゲームの業界も同じ運命を辿りつつあります。これらは、すべて同じ理由によって、まるで坂を転がる雪玉のように、次第次第に大きくなって崩れて行くのです。その理由はマーケティングするからです。正確に言うとマーケティングしたデータに基づいて商品開発を行うからです。
 マーケティングは気まぐれな生き物のような性格を持っています。その生き物の今の動きに合わせて、未来に発売される商品を開発しても、実際に発売する頃には、世の中そのものが変わってしまうのです。その意味からもゲーム開発では今の流行を調べたりしません。もちろん、一年後の流行予想も行いません。自信を持って、心血を注いで開発したものは、その自信に答えてくれるかのように良いものになるのです。魂を込めて作ったものは、たとえ魂を持たない物体だとしても、作った人の魂に必ず応えてくれるのです。その意味からも、世間に合わせることを考えるより、今の仕事に集中して魂を込めた開発を行うのでした。

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