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播磨陰陽師の独り言・第百七十話「霊符文字のこと」〈前編〉

 霊符に書く種類の左右対象の形をした特殊な文字があります。これには、ふたつの意味があります。ひとつは、この文字の呼び名に関わることです。そしてもうひとつは、宇宙の真理に関することです。
 左右対象の文字とは、たとえば節分に使う〈立春大吉〉の文字とか、禁止を表す〈禁〉の字とか、あめと読む〈天〉の文字のことです。
 陰陽五行の〈木火土金水〉の各々の文字も左右対象で使う文字の一種です。もっとも、〈水〉は左右対象ではありませんので、これに関しては書く時に左右対象で書きます。このように左右対象ではない文字を、わざわざ左右を対象に書くこともあります。
 たとえば、神棚の下や上に貼る〈雲〉と言う文字や、魔物を去らせる〈去〉の字がそれにあたります。それと、文字ではありませんが〈☆〉などの、五芒星や六芒星や〈◯〉などの記号も左右対象の形をしています。
 霊符に使う文字は、左右対象ではない文字と、左右対象の文字の二種類です。
 左右対象の文字を霊符に使うことには、大きな意味があります。左右対象の形をした文字は〈鏡像文字〉とか、あるいは〈幽界かくりよ文字〉と呼ばれていますが、ここでは〈幽界文字〉の呼び名を使うことにします。
 この文字が、なぜ幽霊の世界を表す〈幽界かくりよ〉が付けられて呼ばれているのかと申しますと、霊界で読まれる文字だからです。
 簡単にザックリ説明すると、霊界は鏡に写った世界のような感じで、そこに書かれた文字はすべて鏡像になっているのです。普通の人にとって、鏡に写った文字を読むことは困難な物事だと思います。それと同じ理由で、霊界にいる者が人間界の文字を読もうとすると、とたんに難しくなるのです。まったく読まない連中も霊界には多いです。そこで、鏡像にした幽界文字を使って書いてあるものが登場します。鏡像になっても読める文字ならば、亡霊や魔物たちにも読めるのです。
 たとえば、〈禁〉と書いておけば頭の悪い亡霊にも、
——ここには入っちゃならん。
 と言うことが分かるのです。
 これが、
——ここに入るな。
 とか、
——立ち入るべからず。
 とか書いてあると、もちろん連中には読めません。無視されてしまいます。つまり、亡霊たちに読めない文字を使って書いた霊符は、彼らに通じないため、効力を持たないのですが……この続きは後半へ。

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