播磨陰陽師の独り言・第三百三十九話「恵比寿大黒のこと」
以前、恵比寿大黒の顔がついた縁起物・福箕のことを書きました。十日恵比寿の縁起物なのに、なぜ大黒さんまでついて来るのでしょう?
これについてはそのうち書くとして、恵比寿さんと大黒さんは、いつもセットで描かれています。描く時は同じ顔でも構わないそうです。ただ恵比寿さんは烏帽子に鯛を、大黒さんは大黒帽と大きな袋を描きます。ここが違いです。
恵比寿さんは、なぜ烏帽子を被っているのでしょう?
恵比寿帽ではありませんよ。陰陽師が被る烏帽子なのです。そう、陰陽師が被っているのと同じ烏帽子です。理由は恵比寿さんが、元々、人間だったからです。
古い資料によると、
——その昔、海に流れついた物を、恵比寿の三郎と言う陰陽師が祀りあげて神とした。
とのことです。
この中の〈物〉が何だったのは分かりませんが、これ以降、海に流れついたものを〈恵比寿〉と呼ぶようになりました。後の説明によれば、
——恵比寿とは、鯨の骨や水死体など、海から流れついた祟りのありそうな物を意味する。
とあります。
祟りがありそうなものは、供養するか、神として祀りあげて、人を守ってもらう必要があります。供養するのはお坊さんの仕事ですが、霊的なものを祀りあげるのは陰陽師の仕事になります。
不思議なことに、明治維新後の資料には、恵比寿の三郎のことも、陰陽師のことも書いていません。明治政府が陰陽道禁止令を出した関係でしょうかねぇ?
さて、大黒さんは大黒帽を被って、大きな袋を持っています。袋の中身は何なのでしょうね。
ちなみに布袋さんの持っている袋は〈堪忍袋〉と呼びます。堪忍袋の緒が切れると言いますが、これのことです。一説によれは、この袋には子供が入っているそうです。
大黒さんの袋には、宝物が入っているそうです。宝物と言っても諸説ありますが、寿命・人望・清麗・威光・愛嬌・大量と呼ばれる心の宝が入っていると言います。
最後の〈大量〉とは度量が広いことです。
もちろん、ただの金銀財宝が入っていると言う説もありますが……。
ちなみに、大黒さんはヒンドゥー教のシヴァ神です。最初は子供の姿でわが国に入って来て、やがて青年になり、中年に、そして老人になった訳です。
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